【BMO Vol.8】BMO Standard Vol.8 渡辺雄也杯 Round1 瀧村 和幸(神奈川) vs 西内 陽人(神奈川)

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BMOスタンダード Round 1 瀧村 和幸(神奈川) vs 西内 陽人(神奈川)

Text by 森安 元希

2016年10月22日、午前10時丁度。
横浜は産貿ホールにて、8度目となるBIGMAGIC OPENの開催の為のプレイヤーミーティングが中嶋 智哉ヘッドジャッジ主導で始まっていた。

『カラデシュ』収録のシステム、エネルギー・カウンターの管理や、最近話題となったシャッフル方法の再定義についても、分かりやすく全員に告知する。
ディールシャッフル(パイルシャッフル)の回数制限について中嶋ジャッジの見解が説かれ、時間の管理、ランダム化の効率化の両観点から丁寧な補足を入れていた。
ここで初めてこのルール変更を耳にしたプレイヤーたちにもすんなり受け入れられたようだ。
先日スタンダードの4ブロック制化の発表も相まって、急速にMTGの環境が整備されているようにも感じさせる。

ゲームの準備を行いながら中嶋ジャッジのスピーチに耳を傾ける400人近いプレイヤーたち。
その内の1卓に、テキストカバレージの席についてもらっていた。

日本が誇るトップ・プロの1人。
瀧村 和幸の試合だ。

プロツアー『戦乱のゼンディカー』優勝。
グランプリ京都2016優勝。

Team Cygamesにとっての渡辺 雄也が"そう"であるように、
BIG MAGIC所属プロにとっての彼は名実共に看板プレイヤーだ。


そして相対する西内 陽人。彼も瀧村と同じく、神奈川のプレイヤーのようだ。
プレイする場所や大会には事欠かない都心部在住プレイヤーのなかには、《大物潰し》を狙い牙を磨くものたちもいる。
西内もまた、その1人だ。

瀧村の先手番が決まりゲームの準備は完了するが、中嶋ジャッジからラウンド開始の合図が掛からない。


準備を終えたプレイヤーたちは順繰りに自然と会場中央の壇上へと視線を集めていく。
マイクを持って立つ岩Showが、【殿堂就任セレモニー】の開催を宣言したからだ。

渡辺雄也杯。
彼の名を冠した今BMOでは、開会式に際し新たな殿堂の誕生を祝いセレモニーを催した。

岩Show司会のもと、オーウェンやジョンフィンケル、MINTスタッフやTeam Cygamesらの祝辞コメントのムービーが流れていく。
そして最後に登場した会場限定公開の"超"シークレット・ゲストのコメントに、会場全体はどよめき、一気に熱気が高まった。

ゲームの準備を終え、緊張感を高めつつあったプレイヤーたちが一気に明るく、そして楽しく興奮していく様は大会よりむしろ祭のようだ。
瀧村も「最高のプレゼントでしょ。こんなのズルい(笑)」とセレモニーを楽しんでいる。

やがて、割れんばかりの拍手のなか、頬に感涙の筋を残す渡辺雄也がジャッジに代わり「始めてください」と大会開始を宣言すると、
プレイヤーたち各々の熱気は次第に盤面へと集中していき、史上最高潮のRound 1が幕を開けた。


Game 1

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まだ興奮の余韻を若干残しながら、瀧村、西内は共に《窪み渓谷》を置いてゲームを始めた。
瀧村の第2ターン、彼のデッキの容貌が知れる1枚が示された。


《査問長官》

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『カラデシュ』新規収録のエネルギー・カウンターを利用したライブラリー削りのこのクリーチャーは、
『ゼンディカー』の《面晶体のカニ》や『ミラディン包囲戦』の《叫び角笛》に類する、墓地利用をサポートする1枚だ。

先週、八十岡 翔太が優勝したプロツアーの上位には見なかったカードでもある。
これの動き出しに不安を覚えた西内は《霊気拠点》から《蓄霊稲妻》で《査問長官》を焼き払う。
瀧村の次手は《残忍な剥ぎ取り》だ。
墓地利用するスゥルタイ・カラー・デッキ。

さながら『テーロス』期のデッキタイプ"シディシ・ウィップ"のようでもあり、
前BMO Vol.7で鬼才浅原が作成した"4色ドレッジ"のようでもあるのか。

その正体の全容は不明ながら、西内も展開の手を模索していく。
西内は《電招の塔》を建て、自らがスペル重視のコントロールデッキであることをようやく表明した。
《電招の塔》コントロールは、プロツアートップ8のデッキリストでは赤青2色にまとめられていたが、グリクシス3色のようだ。
環境黎明期を代名詞とするBMOらしい、互いのチューンナップ・デッキのお披露目となった。



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瀧村は《残忍な剥ぎ取り》の攻撃を通していき、《秘蔵の縫合体》を墓地に落としながら《老いたる深海鬼》を次のドローで確定させる。
そのまま《憑依された死体》を戦線に追加して、トークンともどもアタッカーの頭数となっていく。

西内は、そのターンエンド時、まだ昂揚を達成していない《残忍な剥ぎ取り》を《流電砲撃》で退け、
《電招の塔》の誘発でエネルギー・カウンターを溜めていく。

瀧村がアタックのみに費やした返しのターン。西内のアップキープに、《憑依された死体》本体を現出コストとして《老いたる深海鬼》を唱えた。
マナを生み出す土地をメインの前に寝かせてターンをもぎ取る瞬速《老いたる深海鬼》の真骨頂だ。
西内、土地4枚を寝かされる誘発型能力に合わせて《天才の片鱗》を唱え、ターンを無為にはしないが、着地した《老いたる深海鬼》のアタックは受けざるを得ない。

瀧村は墓地の《憑依された死体》を戦場に戻すため《密輸人の回転翼機》と《コジレックの帰還》を捨て、昂揚を達成させていく。
《秘蔵の縫合体》の誘発も満たしつつ、《ウルヴェンワルド横断》で《老いたる深海鬼》の次弾を調達する。
西内、縦横に膨らんだ瀧村のアタッカーたちを受け止めきれない。

瀧村 1-0 西内



新生"ドレッジ"の瀧村。
《査問長官》《密輸人の回転翼機》という、カードを能動的に墓地へ送る手段を二つも増やした墓地利用デッキは、確かに強力かつ安定していそうだ。
まして《密輸人の回転翼機》は"赤白機体"というデッキを生み出すほど、強力なアタッカーでもある。


そして西内のグリクシス・コントロールもまた、『カラデシュ』により支えられているデッキタイプのようだ。
あらゆるスペルをサポートする《電招の塔》はキーワード能力"果敢"のようでもあり、よりダイレクトにダメージソースとなる。
そのスペルがインスタントであれば更に良い。《奔流の機械巨人》で使いまわせるからだ。

《天才の片鱗》でカードを引き、火力スペルや《電招の塔》でクリーチャーを焼き、《奔流の機械巨人》といったフィニッシュブローを叩きつける。
古典的ながら強力なアーキタイプであるボードコントロールデッキだ。



Game 2

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西内 陽人

西内の《精神背信》が曝した瀧村のハンドは《精神背信》、《秘蔵の縫合体》2枚、《老いたる深海鬼》、《森》2枚、《植物の聖域》。
《老いたる深海鬼》を抜いて、Game 1の再来を遠ざける。

勿論、瀧村も《精神背信》で西内のハンドを透かして、"見える情報戦"へと突入していく。

《電招の塔》、《無許可の分解》、《天才の片鱗》、《進化する未開地》、《燻る湿地》、。
ここから《天才の片鱗》を抜いて、カードの枚数差を先ずは保っていく。

瀧村が《秘蔵の縫合体》でクロックを仕掛けようとしたところに西内―...《ゲトの裏切り者、カリタス》。
《精神背信》を躱してライブラリートップに置かれていた、最強の墓地対策。

決して動揺した態度を取りさえしないものの、瀧村、《ゲトの裏切り者、カリタス》を退ける除去はハンドにない。
《屑鉄場のたかり屋》、《密輸人の回転翼機》、《膨らんだ意識曲げ》とパワフルに戦力を追加していくが、
西内から無慈悲に放たれる2枚の《無許可の分解》で完全対処されてしまう。
ゾンビを"食べて"成長した《ゲトの裏切り者、カリタス》は速やかに瀧村のライフを奪いきった。

赤青2色ではもたらし得なかった黒のフィニッシャー、《ゲトの裏切り者、カリタス》。
プランの上でも瀧村の予測を上回った一手となった。

瀧村 1-1 西内

西内、Game 3を取って"ビッグ・ゲーム・ハンター"となるか。

Game 3

《コジレックの帰還》、《憑依された死体》、《老いたる深海鬼》、《残忍な剥ぎ取り》に土地が3枚というハンドをマリガンした瀧村は、

《窪み渓谷》、《植物の聖域》、《残忍な剥ぎ取り》、《コジレックの帰還》、《ウルヴェンワルド横断》、《老いたる深海鬼》をキープ。
バンクーバー・マリガンの占術では《査問長官》を悩んで下へ送った。

先手2T目、瀧村の《残忍な剥ぎ取り》でゲームが幕開けする。
返す西内の《精神背信》はドローの《過去との取り組み》を含めた瀧村のハンドから、《老いたる深海鬼》を抜く。

《残忍な剥ぎ取り》の攻撃で《残忍な剥ぎ取り》《ウルヴェンワルド横断》《窪み渓谷》のいずれも墓地に落としながら、
そのまま《過去との取り組み》、《秘蔵の縫合体》を落としつつ《残忍な剥ぎ取り》を回収。
最速に近いムーブで昂揚を達成して《残忍な剥ぎ取り》を4/4へと成長させ、《蓄霊稲妻》への耐性を作っていく。

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瀧村 和幸

西内が《霊気拠点》セットから赤マナを捻出して唱えた除去カードは、《無許可の分解》。
確定除去でサイズをものともせず《残忍な剥ぎ取り》を対処した。

ここから《ウルヴェンワルド横断》で土地をしっかり伸ばしながら《屑鉄場のたかり屋》などのアタッカーを並べていく瀧村に対して、
《奔流の機械巨人》を含めた重量級のハンドを大量にかかえる西内は3マナで土地を止めてしまっていた。

2ターンに渡ってドロー・ゴーを繰り返した西内に、先ほどの《ゲトの裏切り者、カリタス》のような、
一手で盤面を取り返す強烈なカードを引く猶予は与えられなかった。


瀧村 2-1 西内

瀧村 Win!


《査問長官》、《残忍な剥ぎ取り》、《コジレックの帰還》。4色のカードをタイトに採用している瀧村の新デッキ。
ファストランドと呼ばれるカラデシュの《花盛りの湿地》《植物の聖域》もマナベースに大きく貢献しているようだ。
更に《屑鉄場のたかり屋》や《密輸人の回転翼機》といった対処の軸を変えるカードも戦力に組み込まれており、
瀧村のプレイヤーとしての評価同様、"オールラウンダー"の様相を醸し出してきている。

また、敗れたとはいえ西内のグリクシス・コントロールもその強さの片鱗をしっかりと見せつけている。
《電招の塔》はドロースペルをダメージに変換し、《ゲトの裏切り者、カリタス》は有象無象のクリーチャーたちをシャットアウトする。
《奔流の機械巨人》へと繋がれば、1:1交換を続けていた盤面に決定的なアドバンテージ差をもたらせる。
方向性もマナ帯も異なる複数の勝ち筋を複雑に絡ませつつ、ライフをじりじりと奪っていく。

新ギミックが新デッキが新アーキタイプが、百花のように咲き誇る大会、BIGMAGIC OPEN。
正しくそのBMOの新規性を示したような第1戦となった。

最後に、今期もプラチナ・プロとして活躍する瀧村から西内にトークンカードが送られた。

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