【BMO Vol.8】BIG MAGIC Invitational vol.2 Round 6 川崎 慧太(BIG MAGIC Sunday Modern Vol.7) vs 光安 祐樹(BIG MAGIC池袋店)

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by Hiroshi Okubo

 全国各地で開催された予選を勝ち上がり、本大会へ出場した64名の強豪プレイヤーたち。

 そして第2回目となる今回の大会は、前回のBIGMAGIC Invitationalにも勝る熱狂の中で開催されていた。

 その熱狂の理由の最たるものの一つが、本大会からBIGMAGIC Invitationalが「WPNプレミアムトーナメント」に認定されたということである。優勝者にはプロツアー『霊気紛争』の出場権利が提供されるとアナウンスされたのは今から約2週間前。現在、国内で「WPNプレミアムトーナメント」として認定されている唯一の大会であり、数少ないプロツアーへの入り口の一つとなったのである。

 だが、それでもプロツアー出場が狭き門であることに違いはない。夢の舞台への登壇が許されるのは、この中でただ1名なのだ。ましてや猛者ぞろいのこの戦いの中で勝ち上がることは尋常では不可能だろう。


 そのスイスラウンド最終戦。ここでフィーチャー席に呼び出された2名のプレイヤーは、両者一様に口を噤んでいた。疲労しているのではない。懸かっているものの大きさを前に、胸中穏やかで居られないのだ。IDが可能なラインであれば最終ラウンドでフィーチャーに呼ばれることはないのだから、当然と言える。

 つまり、戦って勝ち取らねばならない。決勝ラウンドへ進むための勝利点を。

 川崎 慧太(BIG MAGIC Sunday Modern Vol.7)。

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 プロツアー参加経験もある大阪の勇である。GPシンガポール・GP広州ではベスト8に進出した実績を持ち、イベントグラインダーとして数々の競技イベントの中で叩き上げられてきたプレイングは精密そのもの。

 モダンの「ジャンド」マスターはスタンダードでも緑黒系のデッキを好んで使用しており、今日も「緑黒昂揚」を手にここまで数多くの強豪たちを屠ってきた。

 そして光安 祐樹(BIG MAGIC池袋店)。

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 「チーム豚小屋」のメンバーであり、川崎同様BIGsとしてユニフォーム契約を結んでいる強豪プレイヤーだ。

 PWCなどで腕を磨く彼はバーンなどのアグロデッキを好むことでも知られており、今日使用しているデッキも「赤白機体」と素早いクロックが魅力のアグロデッキである。


 奇しくも同じユニフォームを着用した2人がこのバブルマッチを争うこととなった。「会うのは初めてだ」と語る2人だが、両者の選んだデッキはそれぞれの個性を象徴するようなデッキで、初めましての自己紹介にはもってこいだろう。


 惜しむらくはこれがプロツアー権利の懸かった競技トーナメントであり、そしてスイスラウンドのバブルマッチで相見えることになってしまったことだ。2人とも笑顔でこの試合を終えることはできず、栄光へと続く階段へ辿り着けるのは片方のみ。


 スイスラウンド最終決戦の火蓋が今、切って落とされた――

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Game 1

 先攻の川崎が素早く《残忍な剥ぎ取り》を戦場に叩きつけ、そのままレッドゾーンに殴り込みをかける。これに光安は《経験豊富な操縦者》でブロックして相打ちに取るが、トランプルによって戦闘ダメージが貫通し能力が誘発。さらに2枚目の《残忍な剥ぎ取り》が現れる。

 しかし、返す光安も《蓄霊稲妻》でしっかりと2枚目の《残忍な剥ぎ取り》を除去しつつ《スレイベンの検査官》を戦場に送り込み、容易には序盤のリードを渡さない。


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 だが、川崎が《ゲトの裏切り者、カリタス》をプレイしたところで流れが変わる。これを除去する手段を持たず《無私の霊魂》をプレイするのみでターンを終えた光安を前に川崎が続けてプレイした《最後の望み、リリアナ》の「+1」能力が突き刺さる。


 1マリガンしてただでさえ戦力が足りない光安はこれで完全にイニシアチブを奪われ、続けて《経験豊富な操縦者》までもが《最後の望み、リリアナ》によって除去されて戦場にゾンビトークンがズラリと並び始めると、静かにサイドボードへと手を伸ばした。


川崎 1-0 光安



Game 2




 今度は川崎が1マリガン。6枚となったオープンハンドを即座にキープする。


 光安は先攻の利を活かして素早く《経験豊富な操縦者》を展開。返す川崎も《残忍な剥ぎ取り》をプレイするが、続けざまにプレイした《模範操縦士、デパラ》によって4/2となった《経験豊富な操縦者》がクロックを刻み始める。


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 だが、川崎もしっかりと《死の重み》で《経験豊富な操縦者》を除去し、続くターンの《模範操縦士、デパラ》のアタックには《過去との取り組み》で墓地を肥やして「昂揚」を達成して《残忍な剥ぎ取り》で打ち取る華麗なプレイを魅せた。


 ここから川崎の快進撃が続く。光安の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を《餌食》で処理し、《墓後家蜘蛛、イシュカナ》で一気にマウンティング。


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 光安は2枚目の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》をプレイして《石の宣告》で蜘蛛トークンを除去。さらに《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の攻撃で川崎を攻め立て、《密輸人の回転翼機》を戦線に送り込んで川崎に食らいつく。


 ならばと川崎は2枚目の《墓後家蜘蛛、イシュカナ》で身を守りに行く。蜘蛛たちの壁が《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の行く手を阻み、《最後の望み、リリアナ》が光安のクロックを無力化する。


 勝負あったかと思われたが、光安の下に《大天使アヴァシン》が舞い降りる。さらに《ピア・ナラー》をプレイして飛行機械トークンを生け贄に捧げ、《最後の望み、リリアナ》に一斉攻撃。これには総力を上げてブロックせざるを得ない川崎だったが、次のターンのアップキープに《大天使アヴァシン》が狂気の《浄化の天使、アヴァシン》へと堕天し敵味方の区別なく戦場を壊滅させる。


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 川崎は3枚目の《墓後家蜘蛛、イシュカナ》で再びブロッカーを用意し、《最後の望み、リリアナ》の「-2」能力で墓地の《墓後家蜘蛛、イシュカナ》を回収。しぶとく生き延びるが、ここまで光安に押されてライフは残りわずかだった。


 激しい消耗戦の末、光安の《鋭い突端》と同盟者・騎士トークンらによる毎ターンのアタックが着実に川崎の選択肢を奪い取っていき、ついにすべての蜘蛛トークンと《風切る泥沼》を突破する。


 光安のクリーチャーが無人の荒野を駆け抜け、川崎の首級を上げた!


川崎 1-1 光安


Game 2

 ここまでの激しい戦いで残り時間が5分を切っている2人。光安が《密輸人の回転翼機》、《高速警備車》と続けざまにプレイしていく間に川崎は《不屈の追跡者》、《巡礼者の目》で「昂揚」エンジンの達成を目指す。


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 光安は2枚目の《高速警備車》をプレイしてこれのみで攻撃に向かわせると、川崎は《闇の掌握》で応じながら《不屈の追跡者》で攻め立てる。この厄介な《不屈の追跡者》を一度は《停滞の罠》で除去した光安だったが、川崎の放った《人工物への興味》が《停滞の罠》を破る。


 ――ここまでで対戦時間が終了し、延長ターンに突入する。


 川崎は《不屈の追跡者》で攻撃を仕掛けるが、光安は《大天使アヴァシン》によってそれをしっかりと受け止める。返す《大天使アヴァシン》の攻撃には川崎から待ったが掛かり、《殺害》が突き刺さる。


 光安が6/5となった《不屈の追跡者》の攻撃をチャンプブロックで防ぎ、川崎はさらに《墓後家蜘蛛、イシュカナ》を追加し......


 そして、延長ターンが終わった。


川崎 1-1-1 光安



延長ターンの終了ステップに入る直前、光安がまっすぐに川崎の目を見る。


光安「ここで引き分けたら両方目無しですよね」


川崎「無いね。両方落ちる」


 川崎の表情に悲壮感が漂い始める。ここまで全力で駆け抜けてきたのに、わずかに届かなかった決勝ラウンドへの道のり。プロツアーへの旅路。視界が歪み、俯く。

 そして、光安が一言呟いた。

光安「じゃあ僕、下りますよ」

 ジャッジも筆者も、そして川崎も、誰もが驚いて光安を見つめる。

 

光安「きっとこのままやっても僕の負けだし、せっかくここまで来たのに2人とも目無しで落ちたら嫌ですもん」

 

 たしかにそのとおりかもしれなかった。すでに光安の戦線はボロボロで、川崎のライフは遥か射程圏外。仮に追加の10分を与えられたとしても、この状況を覆すことはできないだろう。

 

 だが、誰よりもプロツアーへの強い憧れを抱く光安が。

 その憧れゆえに。矜持ゆえに。その道を川崎に譲ろうとしている。

 ――光安がどのような表情を浮かべているのか、筆者の座る席からはよく見えなかった。

 

 だが、光安を見返す川崎は驚きと感謝に目を震わせながら、その言葉の重みを、しっかりと受け止めていた。

 

川崎「ありがとう。この恩はいつか必ず返す」

 

 いつか必ず。

 

 マジックが再び彼らを結びつけるその日まで。

 

光安 Drop

 

川崎 彗太(BIG MAGIC Sunday Modern Vol.7)決勝ラウンド進出確定!