【BMO Vol.8】BMO Standard Vol.8 渡辺雄也杯 決勝 斉田 逸寛 vs 奥村 祐司

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BIG MAGIC Openスタンダード Vol.8 渡辺雄也杯 決勝 斉田 逸寛 vs 奥村 祐司

Text by 森安 元希


斉田 逸寛は準決勝で奥村に敗れた盟友、中道の分も。

奥村 祐司は準決勝で斉田に負けた朋友、岡井の分も。

そして彼らが打ち破ってきた全てのプレイヤーたちの分も。

思いを乗せた【BIG MAGIC Openスタンダード Vol.8 渡辺雄也杯】本戦最後の一戦へ向けて気合が収斂してゆく。


試合の準備が着々と進んでいた。

デッキリスト交換の間、2人は実際にデッキを交換して中身を確かめる。

奥村「《島》、入ってるんですね。なに相手に入れるんだろう」

斉田のサイドボードには、《島》が1枚採用されている。
準決勝の感想戦にて"サイドカードの《虚空の粉砕》2枚を早く打つ相手用"と話していた。

斉田「そうです、そうです。理由は流石にちょっと言えないですね(笑」

勿論これから戦う奥村に対してはそう軽くはテクニックを明かさない。
この1枚のイン・アウトが、これから始まるマッチを決めうる一手になるかもしれないのだ。


―...二日間に渡ったBMO。
互いが募らせてゆく思いの丈の強さとは反対に、今回のTOP4の面々は楽しそうに会話を交えていた。
それは互いに対するリスペクトの側面もあるのかもしれない。


斉田はPWCチャンピオンシップを制した経験を持つ。
現在のPWCを代表する1人として、初代ミスターPWC渡辺雄也への挑戦権を欲していた。

PWCで渡辺雄也と試合で邂逅したのは中学生の頃だったという。
そのときの敗戦が、彼を勝負の熱さへと目覚めさせたのか。

十数年に及んで磨き続けてきた槍の鋭鋒がいま、目標ののどもとにまで突き刺さろうとしている。
しかしその為には、目の前の新進気鋭を打ち倒さなければならない。

そして『青白フラッシュ』は、彼の卓越したプレイングを体現する最も適切なデッキなのだろう。


奥村もまた、優勝という称号と名誉に強く惹かれている。

仲間のビルダーが組んだという『バント・ミッドレンジ』を手にしている。
「岡井の『青白フラッシュ』に全く勝てなくて、カジュアルなデッキを持ち込んだ」と軽い口調だ。

しかしトップメタと定めた『青白フラッシュ』に対する考察内容や、
メタゲームの推移を機敏に追い続けているのは、これまでからも明らかだった。

時に"殺意"とも形容される"メタ殺し"のカードのチョイスに間違いがなかったのは、決勝戦に立つことが証明している。

憧れのプレイヤーが握る、最強と踏んだトップメタデッキに対して、威風堂々と立ち向かう。


斉田「楽しみましょう」
奥村「楽しみましょう」


最後にひと際の笑顔を浮かべて、ゲームが開幕する。


sai-oku.jpg

スイスラウンド1位抜けの斉田が先手でゲームを動かしていく。

《スレイベンの検査官》から《密輸人の回転翼機》のロケットスタート。

奥村の直前の話では「メインの先手《スレイベンの検査官》《密輸人の回転翼機》みたいな動きは負けます(笑)」
と話していたが、果たしてその通りになった。苦笑いをこぼす。

スイスラウンド2位の奥村が決勝トーナメント初の後手スタートとなった。
《導路の召使い》からの立ち上がりで、3T目のビッグ・アクションを取れるかどうかが大事なところだが、
《導路の召使い》自体が《反射魔道士》で戻される。逆境に対し、笑顔を濃くしていく。

奥村は《反射魔道士》で《スレイベンの検査官》で戻してダメージレースを鈍化させるが、焼け石に水か。
斉田の下に《無私の霊魂》が追加され、《密輸人の回転翼機》がエンジンをふかしていく。

2体目の《反射魔道士》でこの《無私の霊魂》を戻す奥村だが、今度は《スレイベンの検査官》が舞い戻ってきて《密輸人の回転翼機》アタックが止まらない。
実に四度にも渡るアタックをボディで受けながら、逆転の為の戦力を用意していく。
《無私の霊魂》2体、《反射魔道士》2体。
ここから《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》で+1/+1のエンブレムを獲得した。

パワー3の飛行を2体を用意して、これで《密輸人の回転翼機》をようやく止められる―...
奥村の安心はしかし、斉田が《大天使アヴァシン》を追加したことで無為に帰る。

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斉田

そしてパワー3を達成したことで、ブロッカーとなるはずの《無私の霊魂》が《空鯨捕りの一撃》の範疇に収まってしまった。
1体が落ち、もう1体が《停滞の罠》で潰される。


斉田 1-0 奥村


Game 2

《密輸人の回転翼機》が廻られてメインを落としたら「サイド後で頑張る」と宣言していた奥村の先手。


斉田が1T目《港町》からの《スレイベンの検査官》スタートだ。

奥村、今度は2T目《密輸人の回転翼機》を置いて機先を制する。
3T目には《不屈の追跡者》を搭乗させていく。これで空も地上もパワフルだ。

斉田も《密輸人の回転翼機》を置き、
《不屈の追跡者》をバウンスした《反射魔道士》で搭乗していく。
パワフルな戦線に対し、テンポを押し付けていく。『青白フラッシュ』の基本スタイルだ。

奥村の展開は《森の代言者》を着地させるに留まる。

斉田、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》でトークンを出し地上をより固めながら、《密輸人の回転翼機》を回していく。
次の総攻撃では打点が10点に近い。

しかし奥村はここで《森の代言者》で《密輸人の回転翼機》にメイン・フェイズで搭乗した。

そのままフェイズを進行させず、《新緑の機械巨人》をプレイ。
+1/+1カウンターのばらまき能力を、《密輸人の回転翼機》にも及ばせた。

《密輸人の回転翼機》に2つ、《森の代言者》に1つ、《新緑の機械巨人》自身に1つ。

これで次の6枚目のセットランドを行って《森の代言者》を成長させられれば、3体ともサイズが5/5以上となる。
いずれも単体で《大天使アヴァシン》で打ち取られることもなくなるようにカウンターを配置した。
加えて、5/5になった《密輸人の回転翼機》は《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を落とす好プレイだ。

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奥村

地上のサイズも奥村が上回る。斉田は、翌ターン、なにも動けずドロー・ゴーとなった。

奥村のアタックに斉田は《大天使アヴァシン》を合わせるが、奥村は《呪文萎れ》でカウンターで弾く。

攻守の入れ替えがハッキリと行われたターンとなったが、ここから斉田が再び怒涛の巻き返しをはかる。
《石の宣告》で《新緑の機械巨人》を対処。
《反射魔道士》で《森の代言者》を戻してブロッカーをなくしたところに、クリーチャーたちを一気にレッドゾーンへ送り込む。


この総員アタックで残りライフ1となった奥村に対して、続いて斉田は《呪文捕らえ》をメインでプレイ。
これで《密輸人の回転翼機》に搭乗し、奥村が再展開したブロッカーより1体、上回る形でアタックを仕掛けるが―...
奥村から《密輸人の回転翼機》へと《自然のままに》が打ち放たれる。

《断片化》には出来ないインスタント・タイミングでのコンバット・トリックだ。

つまり、これが通れば、コンバットは崩壊し奥村の勝ちがほぼ決する。
これを躱せれば、斉田の勝ちが決まる。

いずれにしても斉田が最後に残す1枚のハンド次第だ。

斉田は軽快にパシン、とカードを戦場中央で公開した。

《払拭》。

斉田 2-0 奥村

斉田Win!


《払拭》を示し、勝敗が決した瞬間。

斉田よりも早く、斉田を応援する観客たちが沸いた。
そのなかには中道もいる。

奥村への賛辞でもあるように、奥村を応援する観客たちも熱戦に拍手した。
そのなかには岡井もいる。

斉田「8割でも、9割でもなく。10割。10割の引きだった」

《新緑の機械巨人》を退けた《石の宣告》が、《自然のままに》を防いだ《払拭》が。
劣勢を退けるカードの全てが、斉田にとってベストなタイミングのベストなドローであった。

それを後ろで見ていた仲間たちも、大きく頷いていた。

僅かに一手ばかり届かなかった奥村本人の表情も明るい。
がぷり四つとなった腕の見せあいの展開に、誇らしげささえある。

試合が決してからもしばらく周囲は興奮さめやらぬなか、盛り上がり続けていた。
それは斉田がこれまで築き上げてきた仲間たちとの信頼の証だ。

彼らとともに今後も斉田のマジックの歴史は続いていきそうだ。
今日の称号は、その1ページに刻まれたことだろう。

BIG MAGIC Openスタンダード Vol.8 渡辺雄也杯、優勝おめでとう、斉田 逸寛!


―...そして戦いは、渡辺 雄也とのエキシビジョン・マッチへと続く。