【BMO Vol.8】BIG MAGIC Open Vol.8 渡辺雄也杯 エキシビションマッチ

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Text by 森安 元希

BMOスタンダードも優勝者が決まった日曜日の夕方ごろ。

【殿堂就任セレモニー】同様、渡辺 雄也がレッドカーペットを歩いて入場する。

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Bigwebマンが導き役となって歩く姿はまるで花嫁のよう―...?

観客の拍手喝采で迎え入れられた新殿堂は、今度は壇上ではなく、1人の男の横へ立った。

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斉田 逸寛。

先ほど終えたばかりの【BIG MAGIC Open Vol.8 渡辺雄也杯】、その優勝者だ。

花嫁役の渡辺の前に片膝をついて座り、手を差し伸べる。

これから始まるのはプロポーズなのか、結婚式なのか―...そうすると、あずにゃんはどうなるのか?


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ひとしきりの小芝居が終わり、司会進行のもと2人のスピーチが会場に流れた。

これから始まるのは2人の披露宴でも二次会でもなく、エキシビション・マッチだ。

渡辺雄也杯優勝者と渡辺雄也その人との直接対決であり、勝者には25万のファイト・マネーが送られる。

フォーマットはスタンダードだ。試合形式は『メイン1戦の3本先取』。

少し前までのプロツアー決勝方式が採用されている。


【殿堂就任セレモニー】で"封じ手"として既にこのエキシビション・マッチで使用するデッキを決めている渡辺。
斉田はもちろん、渡辺雄也杯を優勝した『青白フラッシュ』を使う。

渡辺雄也杯決勝トーナメント同様、試合前にこのデッキリストの交換が行われる。
殆ど同時にウェブ上でも、渡辺の使用するデッキリストが公開された。

そして渡辺の使用デッキが判明した瞬間に、生放送を観る観客と会場中の全員が驚きの声。

なにより斉田が今日一番の雄叫びをあげた。


【斉田のデッキリスト】

【渡辺のデッキリスト】

この試合は、『青白フラッシュ』同型戦となった。

メインボードの差は些細なものだろう。

しかしサイドボードに《サリアの槍騎兵》《消えゆく光、ブルーナ》《保護者、リンヴァーラ》のパッケージを用意した渡辺。
それとは全く違うアプローチでカウンター呪文の種類と数を揃えている斉田。

どちらの方法論が、勝るのか。


サイド戦の回数が必然的に多くなる3本先取式。
おそらくはハッキリとゲーム展開に違いの出る形になるだろう。


斉田「胸を借りる気持ちで挑みたい」


渡辺「どちらが挑戦者ということもなく、対等な立場で戦いたい」


試合へ向けた意気込みを合図に、いよいよ席に着く。


さて、ここから普段であればダイス・ロールの大小で先手・後手を決める訳だが―...
2人の間に立つヘッドジャッジから素晴らしい提案があった。


ジャッジ「せっかくのエキシビション・マッチです。
"BIG MAGICらしい"先手・後手の決定方法としましょう」


渡辺と斉田の頭の上に大きいクエスチョン・マークが浮かぶ。BIG MAGICらしいとは、いかに。

そして有無を言わせず用意されたサプライは、ダイス―...ではなかった。

『カラデシュ』が4パック。


ところで皆さんは"パック勝負"と呼ばれるマジックの遊び方(?)をご存じだろうか。
カジュアル・オブ・カジュアル。基本的にはゲーム性を持たない遊び方だ。

2人がそれぞれ新品のブースター・パックを剥き、レア・カードのマナコストの大小を比べる勝負方法だ。
ローカル・ルールで比べる数字の数える場所がまちまちだったりするのだが、基本はマナコストだ。

ジャッジ「『カラデシュ』を剥いて出たアンコモン3枚とレア1枚の4枚のマナコストの合計が大きい方が、先手後手を選ぶ。」

ジャッジの説明に、即座に渡辺から質問が出る。



渡辺「はい!フォイルが出た場合はどうしますか!」

ジャッジ良い質問ですね。フォイルやマスターピースが出れば、それを5枚目とします」


ちなみに、4パックのどれを剥くか選ぶのはジャンケンで決めてください。という説明が入る。

そこはジャンケンなのかい!と観客の突っ込みが聞こえたのかどうかはさておき、渡辺が高らかに宣言した。


渡辺「先に選ぶが良い」

パックを先に選ぶ権利を斉田に譲った。

おお。これが渡辺の、殿堂の懐の広さ(?)だ。



おのおの慎重にパックを選び、いざ裏向きのままに開封する。
ジャッジがカードの不順やエラーパックかどうかだけをチェックした。



その結果、渡辺雄也は通常通りの4枚。
対する斉田は―...5枚がパック勝負戦に該当することが判明した。

つまり、フォイルかマスターピースが剥けたのだ。どちらかは未だ裏向きだから不明だ。

最も、確率的にはフォイルの可能性の方が圧倒的に高いのだが。


2人はジャッジの指示のもと、アンコモンから1枚ずつオープンにしていく。


1枚目
渡辺《品種改良の力》5マナ。
斉田《通電の喧嘩屋》2マナ。



2枚目
渡辺《天才の片鱗》4マナ。
斉田《魔性の教示者》4マナ。



3枚目
渡辺《金線の使い魔》3マナ。
斉田《発明者の見習い》1マナ。



ここまでがアンコモンだ。

そしてレアカード。



渡辺《造命の賢者、オビア・パースリー》1マナ。
斉田《静電気式打撃体》3マナ。

ここまでで渡辺は計13マナ。斉田は計10マナ。


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5枚目のカードが4マナ以上であれば、エキシビション・マッチに勝利だ。
...間違えた、エキシビション・マッチの先手権を得る。

ゆっくりとカードが裏から表へ捲られていく。
この瞬間、会場の全員が、固唾を呑んだ。


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ドンッ!―...マスターピース!カード名は《Mox Opal》!!
右上に書かれている点数で見たマナコストやいかに―...


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ドコドコドコドコドコ―...(ドラム音)


―...焦らさなくても、本当はみんな知っていた。0だ。加算は、ない。

《Mox Opal》を見つめながら、斉田が放心する。


しかし結果は変わらない。先手は渡辺 雄也に決まった!
ついでにパック勝負で剥けたカードも全部、渡辺 雄也のものに!ずるい!

パック勝負に興奮した観客たちが、今までに聞いたことのないような拍手を喝采する。

まだゲームの勝者は決まっていない。

ゲームは、これから開幕するのだ。



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Game 1


先手後手決定の興奮さめやらぬ(?)なか。
1マリガン同士でゲーム・スタート。

しばらく全く動きのない渡辺に対して、《スレイベンの検査官》調査ドローから《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》と繋げる斉田。
この《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が《呪文捕らえ》されると、ゲームが少し渡辺に傾いたか。

《大天使アヴァシン》の睨み合いを渡辺が《空鯨捕りの一撃》で打開してゆき、
致命的となるアクションに対して的確に《呪文捕らえ》を合わせ続けた渡辺がゲーム中盤をコントロールしていく。

転機となったのは、やはり斉田が《密輸人の回転翼機》2機を用意したあたりだ。
《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》と合わせてプレッシャーをかけていった。
最終盤、壮絶なマナフラッドにまみえた斉田であったが《密輸人の回転翼機》2機で超高速で土地を捨てていき、
事故の側面が出るよりも早く渡辺のライフを0にまで引き下げることに間に合った。


斉田 1-0 渡辺







渡辺は、半分程度の可能性で、『青白フラッシュ』同型戦になることを予想していたという。

その為、サイドボードの《神聖な協力》か《領事の旗艦、スカイソブリン》かの取捨選択で最後まで悩んだという。
《領事の旗艦、スカイソブリン》は同型戦に無類の強さを誇る(らしい)のだが、
この悩みの決定はしかし、昨日朝の地点では範囲の広く浅い《神聖な協力》に傾いてしまっていた。

サイドボーディング中。
両者の間に、会話は全くない。

ひたむきに真剣な表情で入れ替えを図っていく。




Game 2

お互いにゆっくり。実にゆっくりとした立ち上がり。

ゲーム最初のスペルが、渡辺の4T目《折れた刃、ギセラ》だ。
このターンも渡辺は本当に珍しく、長考から入った。

これを《停滞の罠》で封じて今度は斉田が《折れた刃、ギセラ》を着地させていく。

渡辺、《石の宣告》で《折れた刃、ギセラ》を弾き、《密輸人の回転翼機》を置く。

このようにアクションしてはリアクションする一進一退の展開が続いた。
《大天使アヴァシン》の応酬のあと、渡辺《サリアの槍騎兵》を着地させた。

サイズの面でも優秀で単体で《大天使アヴァシン》に立ち向かえるスペックだが、あまり使われていないカードだ。
だがロングゲームが簡単に予測されるミラーマッチでは、その魅力が十分に活きた。
これが《保護者、リンヴァーラ》を探し出して重厚な展開を約束していく。
両者の《大天使アヴァシン》が変身して《浄化の天使、アヴァシン》になっても中々お互い動き出さない。

だが、しばらくして、7マナまで土地を伸ばした渡辺が動いた。

《消えゆく光、ブルーナ》を唱えた。

打ち取られていた《サリアの槍騎兵》を回収。
これが《折れた刃、ギセラ》を更に探し出して、《消えゆく光、ブルーナ》は八面六臂の活躍を見せた。
そして次ターン、渡辺はこの《折れた刃、ギセラ》をプレイ。

斉田の手元に、《消えゆく光、ブルーナ》か《折れた刃、ギセラ》か、どちらかを対処する術はない。

奥義炸裂、《悪夢の声、ブリセラ》合体変身。




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エムラクールに唆された二人の天使が、一体の大きなエルドラージとなって天にそびえた。


渡辺 1-1 斉田



サイドボーディング中はやはり静かだ。
この静けさが、台風の到来を予感させる。




Game 3

怪獣決戦ともいえる様相のGame 2と異なり、《密輸人の回転翼機》が小気味良くエンジンをふく。
渡辺が2機の《密輸人の回転翼機》と《折れた刃、ギセラ》をサクッと展開すると、揮発するように斉田のライフが溶けた。

渡辺 2-1 斉田

まだ終わらない。3本先取だ。
静かなサイドボーディングも、3度目となった。

慎重に。慎重に。

互いの75枚のリストを見比べながら、どのような60枚になるのか。
それにどう対応する60枚を組むべきなのか。

斉田は特にリストとサイドボードを見比べ直す。
普段はやわらかい表情と、語り口調だが、今ばかりは力強い眼で。



Game 4

斉田は渡辺に、中学生のころ十数年前のPWCで負けたことがあるという―...

その古き雪辱を果たす機会が、今与えられていた。
斉田が勇気の1マリガンで勝負を仕掛ける。

勝負は《密輸人の回転翼機》のにらみ合いになるかと思われたが、《断片化》を引き込んでいた渡辺が
《否認》を構えつつ《密輸人の回転翼機》を一方的に回しだした。

斉田も同様に《虚空の粉砕》を握りつつ《スレイベンの検査官》2体を展開していくが、
盤面に対するプレッシャーは若干弱かったようだ。
中々渡辺の攻勢に待ったをかけられない。

《呪文捕らえ》を《呪文捕らえ》しあうような中盤戦のスタックの積み合いは、
《石の宣告》で流され、一まず戦場がサッパリとした頃。

渡辺が《否認》を構えた状態で《大天使アヴァシン》をプレイ。
均衡を崩すには最適なクリーチャーだ。
斉田が《空鯨捕りの一撃》を打ち込み、これが弾かれたところで試合の流れは傾きを極端にした。

2枚目の除去を持たない斉田、渾身の《大天使アヴァシン》プレイで《大天使アヴァシン》を打ち取りたい。

しかし、渡辺は持ち続けていた《呪文萎れ》で躱す。

斉田 1-3 渡辺


ゲーム3勝を先に達成したのは、渡辺。

サイドゲームがどのような展開になるか想定し、それに合わせたサイドボーディングを行っていた。
ゲーム全体を、より読み切った形となった。

BIG MAGIC Openスタンダード、最後を締めくくるエキシビション・マッチは渡辺 雄也の勝ち!


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