【GP静岡2017春】晴れる屋 vs BIG MAGIC Series Vol.4 駆け抜けろ!楕円競争

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1.楕円競争

ここはカラデシュ次元のとある町"シズオカ"。

中央区のような領事府の支配も、改革派の喧伝もさしたる影響も及ぼさない地域だが、二つの名所は賑わいをみせていた。


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名所の一つは、言わずとしれた"マウント・フジ"だ。

カラデシュ最大の霊峰は、潤沢に生み出されるマナの影響か、今日も青白く艶めいている。

その恩恵を貰うべく山頂を目指す修行者や登山者の列が途切れる日はないそうだ。

そしてもう一つ。総合施設"ツインメッセ"のなかに設営されたレース場だ。

カラデシュ独自のスポーツ"楕円競争"は、ここシズオカでも人気の競技であった。


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"楕円競争"は基本的には先着を狙うカー・レースだが、搭乗する機体の種類は制限がなく会場が許すのなら飛行機でも良い。

かといって、改革派の秘密兵器《キランの真意号》や領事府の《領事の旗艦、スカイソブリン》が持ち出されることはないのだが。

(先日まで1番人気であった《密輸人の回転翼機》は違法性を指摘され、最近急に姿を見せなくなっている。)

ともあれ、競争相手への妨害や同盟の支援も積極的に許されている"なんでもアリ"が特徴のスポーツだ。

特に今日開催されるチーム戦は重要なレースであり、特設ステージが用意されているようだ。

既に観客は立ち見席を埋め尽くすなか、満を持して2つのチームがステージへ入場する。

2.チーム"晴れる屋" vs チーム"BIG MAGIC"

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喝采の拍手を浴びながら、MC三星が場を温めた特設ステージへと2チーム6人が登壇する。

司会、岩SHOWと実況解説、ローリー(殿堂、藤田 剛史)を間に挟み、2チームがにらみ合う形となった。


赤の学生服でユニフォームを揃えている方がチーム晴れる屋だ。

3人全員が"プレインズ・ウォーカー"という珍しい特徴を持っている。

彼らは別種のテーブルスポーツ"MTG(マジック:ザ・ギャザリング)"のプロ集団だが、今日のチーム戦のために"楕円競争"初参加を決めたようだ。

右から、"J-SPEED"の異名を持つスピード狂、原根 健太

チーム晴れる屋のニューフェイスでありながら既に世界を相手にしてきた経験を持つ原根のドライヴィング・テクニックが今宵初めて明らかにされる。ライディング・デュエルの本場からの殴り込みだ!

中央は副将であり冷静沈着なテクニカル・プレイヤー、"不惑の大阪店長"中島 主税

ジャパン次元の首都・東京で勢力を築いてきた晴れる屋は最近、西の大都市・大阪にも支部を建てた。

その群雄割拠の戦国最前線で陣頭指揮を担うのが、中島だ。ローリーをして"ホテルマンっぽすぎる"と言わせる別の意味で似あっている学生服は見どころだ。

そして大将は言わずとしれた"ハッピーの伝導者"齋藤 友晴

数多あるMTGの戦績に彩られる晴れる屋の総大将。

彼の行動原理は常に"ハッピーの最大値"だ。

自らの幸せも去ることながら、世界のすべてをハッピーで包もうと本気で信じて動き回る。

その熱い思いを機体に託した。

 

 

青の学生服で対抗するチームBIG MAGICもまた、MTGのプロたちだ。

宿敵かつライバルであるチーム晴れる屋との対抗戦を行うべく、楕円競争の会場を訪れた。

こちらもチーム晴れる屋と同じく、3人ともが優れた魔導士"プレインズ・ウォーカー"だ。

左から「"競走路の熱狂者"と言えば、僕」でおなじみ井上 徹

チームBIG MAGICの新入りは、MTGでメキメキと戦績を伸ばしつつある新星だ。

先のグランプリでは三つ巴環境・ともすれば二強環境と呼ばれるなかで、

「赤黒エルドラージ」という新しいデッキを華々しくデビューさせた。今度は自らのレースデビューの番だ。

中央に仁王立つのは副将、松本 友樹

彼の製造した大型バイク"松本ハーレー"はMTG界を縦横無尽に走り回った。

しかしながらその真骨頂はその場でデッキを組むリミテッドの腕だ。

国内最大の参加者となったグランプリ・千葉2015のタイトルホルダーは、ハンドルを握ると人格が変わるとまことしやかに噂されている。果たしてその噂の真偽やいかに。

そして"WCSの体現者"でありプロツアー優勝者、瀧村 和幸

強烈に刺激的な髪形とは対照的に、礼儀を重んじるスピリットの持ち主。

独自の感性でMTGを語り、環境を相撲などの別の競技に例えてきた。楕円競争の本質もその哲学により解析済みか?

 

 

3.レース前の意気込み

MC三星の合図のもと、こうして今日の特設レースを競う6人が出そろった。

ローリーからマイクが渡され、レース前の意気込みをそれぞれが語る。

原根

「当然勝ちます!作戦は、"当たって砕けろ"!」

勢いのある声明に、観客たちも改めて割れんばかりの拍手を送り、最初から最高潮の盛り上がりだ。

中島

「今日は、実力通り戦えば勝てます。ウチには若さも老練さも勢いもあるので、負けませんね」

冷静沈着の前評判通り柔らかい物腰だが、たしかな自信の表明だ。

因縁のチームBIG MAGICとはこれまでプロレス次元や夏祭り次元、戦国次元を渡り歩いて対戦し続けてきた。
チームメンバーも入れ替わるなか、中島は両軍合わせて唯一の皆勤賞でもある。
このチーム戦の特徴を誰よりも把握していることだろう。

井上

「皆さん、《競走路の熱狂者》と言えば、僕!頑張ります!」

生まれ変わりではないかと語られる、《競走路の熱狂者》と井上の相似性はなにか理由があるのかー...それは謎のままだ。
とにかく井上は、熱狂して走りだす。それだけを決めた漢の相貌(かお)をしていた。

松本

「作戦は、"当たって勝ちます"!」

原根を明確に意識した、松本の意気込み。
弱いから砕けるのだと言わんばかりに、原根を挑発する。2人の間に因縁はあるのか。
もしくは一番挑発しやすそうなところだから攻めてるのか。

最後に大将同士の掛け合いが繰り広げられた。

齋藤

「ハッピーかい?」

瀧村

「ハッピーだよ!そりゃ、そう」

"スポーツマンシップに則り、正々堂々と戦おう"という意思が現れたやりとりだろうか。

齋藤

「楕円競争、俺、負けたことないんだよね」

瀧村

「楕円競争なんかやったことないよ!なんだよ!」

したり顔の齋藤。思わず本音が漏れる瀧村。

ふたりの発言は全く正反対のようにもみえるが、齋藤が言うところ楕円競争に負けたことがないというのは、"楕円競争で戦ったことがないから負けたこともない"という叙述トリックの活用だ。

要は2人とも初挑戦ということになる。正しくは、6人ともだ。

齋藤

「作戦は、"バナナの皮を置いて相手をスベらせる"ことです。そちらの作戦は?」

瀧村

「作戦―..."バナナの皮を置いて相手をスベらせること"で、お願いします」

おそらく世界一有名なカー・レーサーの常套手段を採用するという齋藤。

急に話をふられた瀧村もノっかったが・・・お互い、トークとしてはスベってしまったか?

盤外戦術を得意とする齋藤が引きずり込んだ分、一歩リードか。

それを哀れんだか、ローリーがそこへ助太刀にはいり瀧村に耳打ちをする

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瀧村

「はい!作戦変更します―...カメの甲羅をぶつける、で!」

ローリーからアドバイスを受けた瀧村が力強い再宣言をした。

バナナの設置がレース一番手が取る常套手段なら、二番手がしないといけないことは亀の甲羅を相手にぶつけることだ。

もはや半分時事ネタなのでなかなか掘り下げにくいが、今回闘うべき場所は、法廷ではない。

 

 

4.ルール説明

それぞれの意気込みも語り終わったところで、楕円競争初心者たち6人に三星、岩SHOW、ローリーがルールを解説してゆく。

楕円競争を1vs1の形式で3周(先鋒・副将・大将の順)行い、周毎の勝ち負けをつけてゆくのだという。

しかし最終的な勝敗はその後に行われるMTGのゲームで決するということだ。

楕円競争に負けるとMTG戦でのハンディキャップが追加されてゆく減点方式だ。

そのハンディキャップの内容も明らかにされた。

1周目は「負けたら6枚ハンドからスタート。勝った方は7枚からスタート」

2周目は「負けたらライフ15からスタート。勝った方は25からスタート」

3周目は「勝った方が先後決定権を得る」

というものだ。

3周全てに負けると6枚ハンド、ライフ15、後攻からのスタートだ。

書いてみると"あれ?意外とそこまで絶望的ではないんじゃない?"と思うかもしれないが、

もちろん"ライフ25の先攻"を選べるものなら選ぶだろう。※フォーマットはスタンダード構築。

そして肝心のMTG戦で負けた方は相手チームの所属するショップの宣伝を全力で行うという屈辱的な罰が待っている。

ひとしきりルール説明が終わり、いよいよ競争の時がきた―...とMC三星が緒戦を闘う原根、井上をスタート地点へ誘導する。

岩SHOW・ローリー

「ちょっと、ちょっとちょっと!打ち合わせ通りにやって!」

あまりにもスムースな誘導に観客は全員いまからスタートするものだとばかり思ったが、岩SHOW・ローリーによるデモンストレーション・レースが予定されていたのをMC三星が失念していた。

意気揚々とスタート地点へ向かっていた原根、井上はいったん引き下がり、岩SHOW・ローリーが機体に乗り込んだ。

ここで一旦、今回使用する機体の説明が必要だろう。楕円競争の醍醐味は機体であるといっても過言ではない。

伝説級の機体が使われることはない旨は先述のとおりだ。

では、質実剛健な《霊気圏の収集艇》?

スピードが売りの《高速警備車》?

はたまた空中分解が約束された《無謀者の競走車》?

いやいや。

ここツインメッセでは、より観客と搭乗者にフレンドリーな機体が用意されていた。

《三輪車/Tricycle

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2台の《三輪車》が、スタート地点にセットされている。

誰がどう見ても本当の幼児用だ。搭乗0というかパワー0でしか乗れないくらいのテキストが空に浮かんでいる。

岩SHOWもローリーも、大人にしてもガタイが良い方だ。

姿勢よく座ることさえままならない

 

岩SHOW

「無理むり無理むり!」

ローリー

「こんなん絶対漕がれへん!」

非難ごうごうのなか、MC三星が素早い進行で「スリー・ツー・ワン、ゴー!」とスタートの合図を切る。

切るのだが―...?

MC三星

「いやいやいや(笑)お2人とも、ゴー!ですよ!スリー、ツー、ワン、ゴー!ゴー!

MC三星は2人に何度スタートを切らせようとするのか。

それもそのはず、2人が本当にスタート地点から一歩も前へ進まないからだ。

観客たちに「これ、進まなすぎてちょっと不味いんじゃない...?」という空気が流れ始めたのいち早く察したのは、岩SHOWだ。

岩SHOW

「うおおおお!!」

大地がゆらぐような掛け声で、急加速する。

三星

「速い!速いはやい!良いぞ岩SHOW!全然良くないけど、良いぞ!」

三輪車が漕げないなら、普通に走れば良いじゃない。

マリー・アントワネットはそんなこと決して言わないが、岩SHOWはそう決めた。決めたからには、やる男だ。

そして岩SHOWの走り出しを見て、ローリーも後を追って駆け出した。

その勢いのまま一周して、2人がゴールしたのはほんの十数秒の出来事だった。

岩SHOW Win!

三星

「お分かりいただけたでしょうか。こういうレースです」

厳密に言葉にはしないが"なんでもあり(バーリ・トゥードゥ)"であることを示唆した運営陣。

観客たちと参加者たちの間に、今度は"ちょっと思ってたのと違うかもしれない"という雰囲気が漂いはじめた。

岩SHOW

「一応ちゃんと漕ごうとしてね!禁じ手は、いざという時だけにしてください!」

最後に息をぜえぜえと切らした岩SHOWから補足がはいり、いよいよ晴れる屋 vs BIG MAGICの戦いが始まる。

5.先鋒(原根 vs 井上)戦

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チーム晴れる屋先鋒、原根。

チームBIG MAGIC先鋒、井上。

三星のスタートの合図とともに、観客とローリーたちが驚く。

井上、まさかの順調な《三輪車》での漕ぎ出しを見せつけていた。

さっきのデモの無様なルール違反はなんだったのかと岩SHOWらに自問自答させるように、井上の《三輪車》が風を切って進む。

「《競走路の熱狂者》と言えば、僕」

そのキャッチコピーに偽りはなかったようだ。

対する原根も一所懸命に漕ぐのだが、中々というか全く進まない。

余りの大差に折り返してきた井上とぶつかってしまうほどだ。

明らかにわざとぶつかっているのだが、自分もぶつかった衝撃で転んでいるので、井上との距離は1歩分も縮まらなかった。

結局、圧倒的大差を保ったまま、井上がゴールテープを切った。

井上Win!

 

6.副将(中島 vs 松本)戦

中島の体躯が良すぎてヘルメットが被れないというアクシデントがあり、搭乗してからのスタートが若干遅れる進行となった。

そしてこのやり取りで生まれた若干の遅れが、更なるアクシデントを引き起こしてしまうことになる。

松本

「待ってるあいだに、足、つりました

観客の大爆笑のなかレースの開催も危ぶまれたが、若き力で継続を表明したのは松本自身だ。

これはもう、松本を評価するしかないだろうと満場一致で初期ライフ+5点のボーナス点を得た(中島はヘルメットがかぶれないナイスボケでライフ+2点を得ている)。

その後ようやく両者の準備が整い、スタートの合図がかかる。

出だしは中島がリードしたかと思いきや、いきなり体勢を崩して転倒した

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なおここで中島の転倒が面白すぎるということでローリーがボーナス点を与えようとしたが「ばら撒きすぎでしょ!」とつっこまれ、一旦保留に

中島がなんとか体勢を取り戻し、勢いが拮抗する展開となった。

中盤は松本が先行したが、やはり足をつった影響があらわれ減速。

ゴール間近というところで一度完全にストップしてしまい、追ってきていた中島がその隙を"刺した"。

松本は順位を挽回すべく勢い良くペダルを踏むが、逆にそれがあだとなって、こちらも転倒してしまう

これが決定打となり、中島の勝利が決まった。

中島Win!

 

7.齋藤 vs 瀧村

楕円競争最終戦がいよいよ始まる。

若干興奮気味にオーバーアクションの齋藤と、内に情熱を燃やす瀧村。

対称的なスタンスで試合に挑む大将同士が、1勝1敗のなか真剣ににらみ合う。

岩SHOWの「スタート!」と共に始まる最終競争―...となるはずであったが、スタート直後、ローリーから物言いがついて中断となった。

齋藤による立ち漕ぎの上にフライングが認められた為、再スタートを切るべきだというものだ。

齋藤は岩SHOW・ローリーの指示に従いスタート位置につきなおしたが、レースに熱中する瀧村は物言いによる中断に気づかず、競争路を1周しきってしまった

残念ながら既にノーゲームが決まっていた為、完走はなかったものとして2周目を走ることとなった。

スポーツマンシップに篤い瀧村は少しばかり肩で息をしていたが、裁定に従って2周目のスタートに着いた。

そして再び岩SHOWの「スタート!」で始まった最終競争―...

1周を漕ぎきったことで運転に慣れてきた瀧村が有利なポジションでカーチェイスを繰り広げる展開となった。

早々に正当な手段では勝てないと踏んだ齋藤、競争路をショートカットして瀧村に体当たりをかます!

これで体勢を崩した瀧村を後目に齋藤がゴールに先着して勝利―...とは勿論ならず、今度は危険運転として再びノーゲームとなった。

多少の小競り合いはともかく、体を預けるような体当たりは、怪我をするということで、改めて禁止と表明された。当たり前なのだが。

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二度の中断を経て、三度目の正直。岩SHOWの「スタート!」で今度こそ最終競争が始まった!

実は二度目の競争でも中断の声を無視して完走していた瀧村。少なからず体力は消費していたようだが、それに替えがたい経験を得ている。

三周目ともあればもはや《経験豊富な操縦者》と称して差し支えないだろう。事実、レース展開は一方的なものとなった。

早々にレースを諦めた齋藤は、瀧村の真面目なまでのストイズムに過去のチームメンバーをダブらせたのだろうか、三度目の完走をあたかも自らのチームメンバーであるように祝った。

僕たちが見たかったスポーツマンシップとは、"Good Game!"の正しいありようとは、この光景のことだったのかもしれない。

瀧村Win!

 

8.MTG大将頂上決戦

締めっぽくなったが、これからが本戦だ

対戦条件を確認しよう。

フォーマット:スタンダード

1ゲーム先取

初期ハンド:BIG MAGIC 7 vs 晴れる屋 6(1回のフリーマリガン権あり)

初期ライフ:BIG MAGIC 20 vs 晴れる屋 27

先後決定権:BIG MAGIC

後攻側がライフに余裕がありつつハンド6枚ということで、思ったより良い塩梅なのかもしれない。

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《三輪車》のハンドルを強く握りつづけて握力がすり減った瀧村のデッキを松本が代わりにシャッフルしながら、準備が進んでゆく。

闘うのは瀧村だ

その間、齋藤からルール適用度の確認がはいる。確かに誘発忘れや細かいコミュニケーションエラーで、大切なところだ。

若干の協議の末、岩SHOWから言い渡された競技レベルは「ややプロレス」。

競技レベル:プロレスについてはこちらに詳しい。やや、というところで少しだけプロレス寄りの裁定が出るのかもしれない。

瀧村

「実は、友晴さんのデッキ知ってるんですけど―...ライフ27あるのはキツい。これはゲームに大きく響きますね

試合開始直前に差し向けられたマイク・パフォーマンスでは、弱音とも思える一言を漏らす瀧村。

齋藤が先ほどまでMTGの大会で使っていたデッキをそのまま持ち込んでいたとすれば、この7点という数字が大きく影響するだろう。

それはハンド1枚・先手後手の差よりもむしろ大きいと踏んでいるようだ。

弱気なところを垣間見せた瀧村だったが、ハンド7枚を見てキープを宣言してからは勝ちに餓える狼の目つきをしていた。

対する齋藤は、多くを語らずハンド6枚スタート故に与えられたフリーマリガンの権利を執行。そのままダブルマリガンで5枚のハンドを確認して、キープと伝えた。

既に多くのアドバンテージを喪失している齋藤だが、諦観の様子は一切ない。

いついかなるときでもハッピーの最大値を求める姿勢を崩さないのが、彼が彼たる所以だろう。

今回何度となるのか岩SHOWの開始の合図で、いよいよ正真正銘の最終戦が始まった。

先手瀧村が《花盛りの湿地》を置いてターンを渡す。

現行のスタンダードで、このカードを積極的に使うデッキタイプの数は少ない。少ないが、強い。

瀧村はかなり極端な独自のチューンナップを施した"緑黒アグロ"を手にしていた。

対する齋藤の第1ターンは《植物の聖域》から《霊気との調和》からの《山》サーチだ。

こちらは3枚みてもまだデッキタイプが全く確定しない。

ティムールカラーを含んだデッキはTier 1にも3種類あるのだ。

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瀧村は《巻きつき蛇》からはじまる鉄板・最強のアクションだ。

盤面を形成していくことを表明した瀧村に対し、齋藤の第2ターンのアクションでデッキコンセプトはほぼ分かることになるだろう。

プレイは、《織木師の組細工》。これでスタンダードプレイヤーには、齋藤のデッキがなにか分かった。

このカードがはいるデッキは、実質1種類しかないからだ。

瀧村は「ライフ30です」という齋藤の宣言に、普段の1.5倍長い旅路にため息をつく。

そのまま《キランの真意号》、《地下墓地の選別者》"緑黒アグロ"にしては少し見慣れないカードを続けざまに展開し、縦横に攻め立ててゆく。齋藤の準備が整う前に、どれだけ攻める姿勢を見せられるかが大切なのだという。5ターン目には2枚目の《巻きつき蛇》と《歩行バリスタ》を置いて、詰み将棋の段階に入ることがもうじきであることを示唆した。

そんななか、3ターン目にアタックした《巻きつき蛇》が、齋藤が手をかざした途端にテーブルの隙間に消えたりしたが、無事見つかって事なきを得た。齋藤はとぼけた顔をしているが、いかんせん競技レベル「ややプロレス」とあっては、このくらいの反則は見逃しのようだ。

真っ当なプレイとしても、瀧村が出だし勢い良く走りだすのに対し、3ターン目《ならず者の精製屋》、4ターン目《天才の片鱗》と、言うなれば盤面へのプレッシャーはそこまででもないカードを続ける齋藤。

しかしその手順において順調に蓄積してゆくものがある。エネルギー・カウンターだ。

自らに溜まったエネルギー・カウンターが6つあることを確認してからの齋藤のアクションは―...

もちろん、《霊気池の驚異》プレイだ。

こうなると難しいのは瀧村だ。なにもなければ致死量のダメージを与えられる戦線を既に構築できているが、《霊気池の驚異》からインスタント・タイミングでなにが捲れるかを考えて動いていかないとならない。

もちろん大当たりとされるあのカードがめくれた場合もだ。

瀧村

「ムズすぎ、バグ!」

瀧村は初めてここで時間をとり、松本、井上らとプレイングの相談しはじめた。

松本も選択の難しさに同調していたが、井上は「勝ってますね」と気楽だ。

結果、第1メインで《ピーマの改革派、リシュカー》をプレイし、《歩行バリスタ》と《ピーマの改革派、リシュカー》自身を、カウンターを乗せる対象に選んだ。

中島

「スタック!」

《歩行バリスタ》の成長は見逃せない斎藤陣営は、副将 中島が機先して声を挙げた。

ここで当然のことながら、齋藤はエネルギーを支払い《霊気池の驚異》を横にねじる。

圧倒的不利な盤面。欲しいカードは1種だけだ。

1!

2!

3!

4!

5!

6!

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齋藤は勢いよく裏向きのカードを1枚ずつテーブルに置いて、大当たりを探しにゆく。

残りライブラリー50枚弱に4枚しかないそれを一発で引き当てられるものなのか―...

絞るようにして6枚のカードを見た齋藤、中島、原根は揃ってにんまりと笑顔を浮かべた。

齋藤

「あったもんね~ウラモグ!」

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大当たり、《絶え間ない飢餓、ウラモグ》の登場

固唾をのんで見守っていた観客たちからも、驚きと喜びの雄たけびがあがる。

スタンダード最大最強のエルドラージが、自らが呼び出されたときの余波だけで《歩行バリスタ》と《キランの真意号》を久遠の闇へと追いやろうとする。《歩行バリスタ》は置き土産に齋藤自身に数点のダメージを与えてからの退場だ。

ウラモグ登場はしてしまったものは致し方ないと割りきった瀧村は、残った戦力で総攻撃を仕掛け、巨躯の脇を縫ってダメージを与えてゆく。1体は《絶え間ない飢餓、ウラモグ》に止められるが、ダメージ自体は少なくない点数が通った。

これで齋藤のライフは―...残り7。最大ライフ30からここまで与えたということは、23点を瀧村はもぎ取っている。

《織木師の組細工》を考慮して、本来であればちょうどゲームに勝てるダメージだ。

こうなるとチーム晴れる屋で唯一楕円競争に勝利している中島の、7点分の貢献度が果てしなく大きい。

瀧村がゲーム前に懸念していたように、このライフボーナスが明確にゲームの流れを変える分水嶺となった。

九死に一生を得て耐えた齋藤は、《織木師の組細工》起動でライフを安全圏に引き上げつつ、緑黒のクリーチャー軍団 対 ウラモグでライフレースを仕掛け、程なくして勝利を収めた。

斎藤 Win!

チーム晴れる屋 Win!

1時間を超える長丁場となった楕円競争、MTG決戦もいよいよ決着がついた。

展開としてはチームBIG MAGICが楕円競争に2勝、MTGも常に攻勢を続けていたが、最後の最後にチーム晴れる屋が大逆転劇を演じることとなった。

BIG MAGICファン、晴れる屋ファンどちらも納得の展開だったのではないだろうか。

晴れる屋 vs BIG MAGIC Series Vol.4が終わった。

これで2勝2敗だと語る中島。「決戦は次に持ち越しですね」と、Vol.5の開催が急遽決定した。

瀧村もうなずきながら「次はガチンコ(通常ルールのMTG)しましょ!」と同調する。

「僕ら、なんのプロですか?MTGのプロですよ!」

ここまでで一度も通常ルールでMTGをしていない晴れる屋 vs BIG MAGIC Series の根幹を揺るがすような発言も飛び出たが、なにはともあれ、次回の開催予告を待ち遠しにしてほしい。

9.宣伝タイム

最後に、上手くまとまったところで全員が忘れかけていたが中島が思い出して、敗者チームへの罰が執行された。

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瀧村

「新店として大阪店ができたばかりの晴れる屋さん。おめでたいですね。

そしてなんと!札幌店と福岡店も近日オープンらしいです!日本マジック、益々盛り上がっていきます。

皆さん是非、利用していってください。サプライもケースやスリーブなど素晴らしいものがたくさんでています。

ブースでもまだまだお買い物、出来ますよ!」

流暢な宣伝にむしろチーム晴れる屋側が驚くという事態になり、瀧村の意外なポテンシャルが1つ詳らかにされた。

晴れる屋 vs BIG MAGIC Series Vol.4 駆け抜けろ!楕円競争、これにて閉幕。

次回へつづく

10.後記

イベントステージが終わり、全員で控え室へ戻ってからのひと幕。

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着替えもままならず、齋藤が《霊気池の驚異》をセットした返しのターン、改めて《ピーマの改革派、リシュカー》でカウンターは本来どこへ置くべきだったのか。の検討会が当の瀧村を筆頭に、チームBIG MAGIC内で始まった。

《絶え間ない飢餓、ウラモグ》がめくれるパターン。めくれないパターン。

可能な限り裏目を作らない状態で、もう少しやりようがありえたのではないか?という論調だ。

元よりライフのボーナスを考慮しなければ致死ダメージを与えてはいるのだが、勝利に渇望する瀧村は、それでも自らに反省点を見出そうとしていた。イベント終盤で語った「僕らはMTGのプロである」という発言は、笑いを誘う言葉でも、イベントへの反論でもなく、彼のスタイルそのものの心からの表明であったことを示すエピソードだ。

はたして次回 Vol.5の内容は本当にガチンコとなるのか―...?乞う、ご期待!

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