【BIG MAGIC Open Vol.9】 BIG MAGIC Open Vol.9 スタンダード 決勝 齋藤 智也(東京都)vs 水谷 陽介(愛知)

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Text by 森安 元希

―...5月4日、午前9時。
会場にひしめく、およそ700人。
BIG MAGIC Sundayのモダン、レガシー。そしてBIG MAGIC Invitational。
3トーナメントの参加者合計は、BIG MAGIC Open史上最大だ。
そのなかでたった2人だけがBIG MAGIC Openスタンダード本戦に参加する。

昨夜やり残した、決勝戦の為に。

齋藤 智也。
関東の、いや日本の、いや競技シーンに熱心な世界中のプレイヤーが彼の名をつい先日、見かけている筈だ。
第8期 スタンダード神挑戦者決定戦の優勝者だ。

自作の【アブザンミッドレンジ】を持ち込んだ挑戦者決定戦決勝における臼井 翔との熱戦。
【ティムール電招の塔】で堂々全5ゲームを戦い抜いた"スタンダード神"和田 寛也との激戦。

そして今回のBIG MAGIC Open Vol.9では環境を新たにしつつも決勝まで勝ち上がってきた。
彼が今、旬なプレイヤーであることを疑う者はいないだろう。

しかし齋藤の強さの根源は"時の運"ではない。
第8期 神決定戦と同じく今回も【ティムール電招の塔】を選択しているが、昨夜の準決勝では墓地の《屑鉄場のたかり屋》を見逃すというミスを犯してメインを落としている。

第2ゲームも土地が詰まり気味のなかの辛勝であった。
決して順風満帆ではなかったが、その都度、調整し、その都度、考え抜いてきた。

以前には2010年度・日本選手権の予選も勝ち抜いており、その際には【青白コントロール】で権利を取ったようだ。

相手の動きをじっと見据えて流れを支配するリアクション・デッキの扱いには年季が入っている。




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その齋藤と正対するのは、水谷 陽介。
齋藤とは対照的に、直近ではあまり名前の露出していない名古屋方面のプレイヤーだ。
普段の調整の場はMagic Onlineだとコメントしている。

Magic Onlineは今回、リアルでの発売に1週間先駆けて"4月24日に新セット『アモンケット』実装"という手法が採られた。
BIG MAGIC Openはリアルの発売を基準に、その1週間後の開催となったが、MOプレイヤー目線では2週間後の大会とも言える。
"その1週間の差"が、水谷になにかしらかのアドバンテージを与えているのは間違いなさそうだ。

その水谷が選択したデッキは【緑黒エネルギー】。
TOP8プロフィールには選択理由を"情の選択"(※理屈ではない)と短く書いているが、スイスラウンドを無敗で勝ち抜いている。
準決勝のビデオ・フィーチャーでは【機体】にも真向勝負で勝っており、実力の高さを視聴者に知らしめた。

齋藤の【ティムール電招の塔】vs 水谷の【緑黒エネルギー】。
"【機体】の海"と呼んで差し支えのなかった今大会で、それらを打ち倒してきた別のデッキタイプ同士の決勝となった。

―...5月4日、午前9時。
前日、11回戦に及ぶ超長期戦の疲労を多少なりとも睡眠で癒せただろうか。

齋藤「【ティムール電招の塔】との練習ってしました?(笑)」
水谷「あんまり出来てないです。【機体】とはバッチリなんですけど」

やはりお互いに最大の仮想敵を【機体】に定めた練習を積んできたようだ。

前日、11回戦に及ぶ超長期戦の疲労を多少なりとも睡眠で癒せたようだ。
デッキチェックの間、互いに笑顔を浮かべて練習環境についての話が盛り上がっている。
水谷が主戦場とするMagic Onlineはリミテッドで遊ぶこともあると話す斎藤。
自身は晴れる屋トーナメントセンターなどでの調整が多いという。

昨日の対戦相手についてライフメモを見ながら、今後のスタンダードやモダンがどうなるのかを話していく。
話題は今回のデッキ選択にも及んでいった。

齋藤「今回も【アブザンデリリウム】組めてたら、使いたかったんですけど」

齋藤のアブザンカラーへの思い入れの強さは、相当なようだ。
尽きぬ話だが、デッキチェックの完了とともに結びとなった。




Game 1

スイスラウンド6位の水谷が先手だ。
8位抜けの斎藤ともども下位抜けであり、準々決勝と準決勝を後手スタートでまくり返してきている。
水谷にとっては決勝トーナメント初の先手であり、斎藤にとっては3度目の慣れた後手だ。

互いにライブラリーのシャッフルをおえて、上から7枚を引いた。

水谷の初手には《巻きつき蛇》。
齋藤の初手には《電招の塔》。
土地と呪文も程々に、がぷり四つの総力戦が期待できそうだ。

水谷が《霊気との調和》をはさみつつ《風切る泥沼》2枚からスタート。
齋藤、《植物の聖域》《霊気拠点》と続けたあと、《牙長獣の仔》に《本質の散乱》を当てる。
対応力の高いカードだけに、《牙長獣の仔》と交換するのは"誘われたのでは?"と逡巡して、口にする。
それでも水谷の展開をいなした事実は変わらず、更地に《電招の塔》設置で"後の先"をとれている。

このタップアウトのところで、齋藤の慮外にあった呪文が飛んできた。

齋藤「メインにはいってるの聞いてないよ!」




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水谷は《精神背信》によって齋藤のハンドをさらしものにした。
《蓄霊稲妻》を確認しつつ、《天才の片鱗》《奔流の機械巨人》の2択から《天才の片鱗》を抜く。
《精神背信》はそのカードを追放させる為、後のち《奔流の機械巨人》で使いまわしもさせない。
そのまま水谷は《巻きつき蛇》プレイをしてターンを渡す。

セットランド・ゴーの斎藤に対して、水谷が《ピーマの改革派、リシュカー》を仕掛けてゆく。
勿論、これの誘発まで解決してしまうと対処できなくなる斎藤は《蓄霊稲妻》を《巻きつき蛇》へと当てて、サイズアップを最小限に抑える。
そして水谷は本命である《光袖会の収集者》を無事に着地させた。

カードの引きましと《奔流の機械巨人》にブロックされない威迫という能力が強く発揮されるマッチだと確信していた。

齋藤は《電招の塔》2枚目を設置して、エネルギー貯蔵の効率を最大にしてゆく。
水谷も《光袖会の収集者》の能力にエネルギーを支払い、ハンドを増やして、追加の《光袖会の収集者》を展開していく。
コントロールの斎藤に対し、ビートダウンの水谷の方がハンドの補充速度が早かった。

《ピーマの改革派、リシュカー》と威迫を持つ《光袖会の収集者》2体。そしてセットされているランドのうち、接死2/2に変化する《風切る泥沼》は3枚。

齋藤にとって、対処すべきダメージソースが多すぎた。そして対処が困難すぎた。


《奔流の機械巨人》で止まらない《光袖会の収集者》は元より、《風切る泥沼》も相打ちとなる。
まして斎藤のセットランドは―...《奔流の機械巨人》に届かない5枚だ。

それでも6マナに達しさえすれば、打開に繋がる。

そう願ったドローは、タップイン土地であった。

水谷 1-0 齋藤

サイドボーディングの合間も語らいがあった。

齋藤「《精神背信》効いたなぁ!あれなかったら、間に合ったと思うんですけどね」
水谷「申し訳ないんですけど、あれ1枚さしなんです(笑)」
齋藤「嘘でしょ!?優勝する人の引きじゃないですか!」
水谷「《闇の掌握》を3枚にしていて(枠を作ってる)。あそこが《闇の掌握》だったら全然違ってましたね」

【機体】が最大勢力である認識は崩さずも、しっかりとコントロールも見据えて枚数調整を行ったと語る水谷。
このマッチアップでの《光袖会の収集者》の評価など、Magic Onlineで築いてきた地力が垣間見えてきた。

【緑黒エネルギー】とは練習が足りてないと事前に語った斎藤はGame 1で見えた情報から入念に水谷のリストを想定し、
話を絶やさないままサイドボーディングに取り組んでゆく。

齋藤「しかし、《光袖会の収集者》が本当に強かった」

齋藤がいま改めて自らを倒すキーカードとなった《光袖会の収集者》へ賛辞をおくり、Game 2が始まる。






Game 2

《霊気拠点》2枚を含んだ土地4、《霊気との調和》、《光袖会の収集者》、《ピーマの改革派、リシュカー》。
水谷は小考ののち、これをマリガンした。
この選択は後に水谷にとって、勝負をわかつ分水嶺となっていた。

齋藤、《伐採地の滝》からの《植物の聖域》で2マナを構えてゆく。
水谷、《森》《霊気との調和》から入って、2ターン目は《歩行バリスタ》X=1だ。
この1点クロックに対し、特別動きを見せない斎藤。

そして齋藤は先手3ターン目に《周到の神ケフネト》設置!
この青神が動き始めるには少しばかりハンドは足りないが、逆にいえばほんの少しだ。

いつ動き始めるか(齋藤のハンドが7枚になるか)を水谷は計算しつつ、展開する。
《巻きつき蛇》プレイ後、《歩行バリスタ》で着実にアタックしてゆく。

そして、齋藤はぴたりと展開を止めた。
《霊気との調和》から持ってきた土地を置くのみでハンドは減らない。

水谷、《ピーマの改革派、リシュカー》をプレイ。
誘発型能力で《歩行バリスタ》と《巻きつき蛇》を対象にしたところで齋藤が《コジレックの帰還》で応える。

既に着地している《ピーマの改革派、リシュカー》の効果でマナ・クリーチャーと化している《歩行バリスタ》が緑マナを出しつつ、《ピーマの改革派、リシュカー》と共に退場。
水谷のもとには4/5の《巻きつき蛇》が生き残り、そのまま残ったマナを使い切って《光袖会の収集者》を戦線に加えた。
着地時のエネルギーも倍速で溜まっていく。

一連の戦線再編成を見届けた齋藤のハンドは、土地3と《奔流の機械巨人》2枚だ。
潤沢にある土地を置かずにターンを終えた。

水谷はここで《ピーマの改革派、リシュカー》2体目をプレイ。
《巻きつき蛇》を6/7に、《光袖会の収集者》を4/3に育ててアタックを仕掛ける。

齋藤が《ピーマの改革派、リシュカー》プレイに対し、「強いなあ!」ともらすのも、仕方ないことだろう。
もらしながらも、お互いに予定調和的に《周到の神ケフネト》を起動し、土地を1枚ハンドに戻した上での1ドローでハンドを7にする。

これで《周到の神ケフネト》が動き出すようになった―...が、
サイズアップした《巻きつき蛇》にしろ威迫の《光袖会の収集者》にしろ、打ち取れるブロックが出来ない。
ライフを守るために《巻きつき蛇》をブロックしてゆくが、その後、水谷の攻勢を覆す手立てはなかった。

水谷 2-0 齋藤




齋藤「リシュカー焼いたときにバリスタがマナを出したとき、2/1(《光袖会の収集者》)でまた負ける!と思ったよ。いや、強かった!」

齋藤はサイドボーディングで《周到の神ケフネト》を増やしたのは、練習不足からの失敗だったと続けた。

Game 2も完勝した水谷が引いた最初の7枚はパッと見、キープしてしまいそうなハンドだった。
しかしあれで始めていた場合、《マグマのしぶき》のような軽量除去1枚で崩壊するパターンや、
もしくは今のように《コジレックの帰還》が合わさると、悲惨な状態になっていただろう。

水谷の選択や行動の全てが、彼の強さを証明し続けていた。
BIG MAGIC Open Vol.9 優勝に相応しい実力を示しきった。

水谷Win!

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