BIG MAGIC所属プロ 松本友樹 プロツアー『アモンケット』の結果から読み取れるメタゲームの変遷
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1.はじめに
皆さんお久しぶりです。松本友樹です。
5月12~14日に開催されたプロツアー『アモンケット』は、多くの人々が想像しなかっただろう結果になりました。
今回の記事では、今シーズンのスタンダードのメタゲームがどのような変遷を経てこのような結果に至ったのかについて、プロツアー直前のSCGやBMO、MOの結果を元に解説していきます。
2.プロツアー『アモンケット』以前
PT開催2週間前。
アモンケット発売翌日にアメリカ・アトランタの地でSCGが開催されました。
この時、上位を占めたのはアモンケットが発売する前である、『霊気紛争』環境におけるTier1デッキ、マルドゥ機体でした。
そして5月3日。SCGの次に開催された大規模大会、BMOでは緑黒が優勝こそするも、メタゲーム自体は機体と霊気池の海と行っても過言ではない結果になりました。
さらにその翌日開催されたBMInviでは、前日の結果を受けたのか、機体に有利な霊気池がトップ4の席を3つも埋めてしまいました。
一方その頃、同時期ではMOでは青赤コントロールが5-0リスト内での存在感を示していました。
以前存在していた青赤《電招の塔》デッキの亜種、あるいは発展系として見られたこのデッキは、《電招の塔》の要不要・色の選択など考えなければならない点は多々ありましたが、間違いなく強いデッキでした。
そうしてコントロールなら青赤、コンボなら霊気池、ビートダウンなら機体という"3強"体制が形成されました。
これがPT開催の1週間前。
恐らく多くのプロプレイヤー達も、その認識に大きな差は無かったかと思います。
彼らはこの構図を崩すに足る強大なデッキを模索し、あるいはこの3つの中における最高の選択肢を選ぶべく、各々のデッキのポテンシャルを探っていきました。
そういった作業の中、とある変化が生まれていきました。
それが青赤コントロールの衰退です。
青赤コントロールは上位2つの機体と霊気池のどちらにも対応できるデッキです。
構築を機体か霊気池、メインボードはどちらかを意識してある程度よせる必要がありますが、サイドボード後はどちらを相手にしても有利にゲームを進めることができます。
いえ、正確には有利にゲームを進めることができた・・・と、言うべきでしょう。
この青赤コントロールが衰退する原因となった最大の要因がティムール《霊気池の驚異》デッキの存在です。
《霊気池の驚異》デッキには大別して3つのパターンがあります。
1つはコンボ特化型。
《発生の器》や《光り物集めの鶴》等を使い、全力でキーカードである《霊気池の驚異》を探しにいく形です。
この形は霊気池に対する依存度が高すぎて最近姿を見かけなくなりました。
2つ目はミッドレンジ型です。
《反逆の先導者、チャンドラ》や《不屈の追跡者》、《栄光をもたらすもの》等を投入した中速デッキになります。
これらのカードのおかげで、《霊気池の驚異》から《絶え間ない飢餓、ウラモグ》を唱えずとも勝つことができる形です。
そして3つ目がコントロール型。
マナクリーチャーを採用せず、《蓄霊稲妻》に追加する除去として《マグマのしぶき》か《焼けつく双陽》を使い、カウンターとして検閲を投入した上で《天才の片鱗》が使われます。
そして霊気池の当たりでもある《奔流の機械巨人》を1~2枚程度投入する事で、基本は《霊気池の驚異》デッキとしながらも、ティムールコントロールとして動く事を可能にしています。
この3つ目に上げたコントロール型霊気池は『アモンケット』発売当初から完成形に近い構成が世に出回っていました。
現シルバーレベルプロ、藤村和晃さんが組み上げたこのデッキは、その完成度を物語るようにMOPTQを優勝しました。
そしてその75枚をそのまま使用した山本賢太郎さんもBMInviトップ8という成績を残したのです。
序盤は純粋な青赤コントロールとほぼ遜色ない動きができつつ、《霊気池の驚異》からのウラモグという4ターンキルをも併せ持つコンボデッキです。
『アモンケット』が発売して間もないこの時点において、明確に一歩飛び抜けていたデッキでしょう。
また、このタイプが優れている点はもう1つあります。
それが青赤コントロールへの耐性でした。
霊気池を意識しなければ勝つのは難しい青赤コントロールですが、このタイプは意識してカウンターを多めに採用していても尚厳しいのです。
《霊気池の驚異》そのものを打ち消すことができても、やがて10マナを支払われて場に出て来るウラモグという脅威が対処をより難しくしています。
場に出るだけでカード1枚以上の差を確実につけてくる2種類の3マナクリーチャーもまた、青赤コントロールにとっては苦しいものでした。
サイドボードを多く割けばもちろん相性は改善できますが、それは霊気池側も同じことです。
また、青赤コントロールは機体を乗り越えるのに多くの労力を必要とし、霊気池は素の状態で機体相手に有利です。
その上でコントロールとしての立ち振舞もある程度できるとなれば、多くのプレイヤーが霊気池を選択するのは自明のことでした。
これにより、コントロール・コンボ・ビートダウンの内、コントロール・コンボの枠を霊気池が締めることになりました。
このままではプロツアー霊気池になってしまう・・・!
という懸念が参加者達の中にあったかどうかは定かではありません。
しかし、ここで新たなデッキが姿を表したのです。
プロツアー『アモンケット』で台風の目となる黒単ゾンビです。
このデッキはMO上でアモンケット発売直後からちょくちょくと5-0リストに名前を連ねていました。
コントロール型霊気池が優勝したMOPTQの上位デッキリストにもその姿はあります。
ところがSCG、BMO、BMInviと何度も開催された大規模トーナメントにおいても存在感を示すことは無かったのです。
使用者がいなかった、ということではありません。
数こそ少なかったものの、BMOでも5人ばかりではありますが選択されていた方がいらっしゃいましたし、ある意味原型といえる形の黒単アグロもSCGでトップ8に入っていました。
それでも話題に登ることはあまりありませんでした。
何故MOでこれだけ勝ち星を重ねているにも関わらず、話題に上がらなかったのでしょうか。
それは「プロツアー前にMOで勝っているデッキがPTでそのまま勝つ」ということが、稀だからです。
例えばプロツアー『カラデシュ』直前までのMO5-0リストを見てみると、《金属製の巨像》デッキが圧倒的多数を占めていました。
ではプロツアー『カラデシュ』が《金属製の巨像》で溢れかえったか?というと、そうではありません。むしろ負け組となりました。
プロツアー直前になると、プロの調整チームは5-0リストにデッキリストが乗る可能性を嫌ってある程度ゲームを行ったらドロップし、情報が拡散しないようにする事が多いです。
チームによってはMOでの調整を封印している所もあるそうですね。
そうなると、5-0リストに名前を連ねる人の中に、少なくとも調整チームを組んでプロツアーに参加する人がいなくなります。
その上で、環境初期ではMO上で値段が安いデッキや新カードを全く使わないデッキを使う人が多い、という純粋なデッキの強弱以外の部分が結果に強く影響するという特徴もあります。
となれば、MOで勝っているデッキが=プロツアーで勝つデッキにはならない、という事になってしまいます。
このことを知っているプロプレイヤーたちは、MOの結果に注視はしつつもMOで勝つ=強いデッキだとは限らないと認識しているのです。
そしてこのことが、プロツアーにおいて大きな影響をもたらします。
3.プロツアー『アモンケット』
さて、プロツアー『アモンケット』では皆様ご存知の通りの結果になりました。
黒単ゾンビを駆るGerry Thompsonが優勝しただけでなく、トップ8にはゾンビデッキが3人。
その他には霊気池デッキが4人。そして行弘賢さんが使用した緑黒です。
成績上位者の中に、機体の姿はありませんでした。
ティムール霊気池の勝利はある意味必然でした。
プロツアー前から一貫して最強デッキの位置づけに居続けていながらも、複数のバリエーションを持つことで対策が難しいという強みを持っています。
各チーム、各個人間でのメタゲームの認識が異なっていても、それらを受け入れるだけのバリエーションを持つことで、純粋に使用者が多かったという点もあります。
そしてバリエーションが多種多様だったという点も多大に影響しており、コントロール型、ミッドレンジ型、チームGenesisが作成した《炎呼び、チャンドラ》型など同じティムール霊気池といえども、その相手その相手毎に正着のプレイが異なっているのです。
このデッキは間違いなく王者のデッキと呼ぶにふさわしい立ち振舞いで上位を席巻しました。
対して機体デッキは大きく凋落しました。
このプロツアー『アモンケット』においても最大勢力の一角でしたが、トップ8に1人も送り込めない・・・どころか、構築ラウンド成績上位リストにも僅かに姿を見せるばかりです。
このデッキは『アモンケット』において得るものがほとんどありませんでした。
それでも軸が強力な為、沢山の参加者が選択しました。
しかしいくら強力なデッキであっても、対策されていれば勝ち切ることは用意ではありません。
その上、相性が悪い相手が同じ三大勢力に2つもあったのです。
霊気池と黒単ゾンビに対して、機体デッキは非常に苦しい戦いを強いられます。
メインボードは基本的に不利。
サイドボードでコントロールにシフトする戦略は既に広く知れ渡っており、もはや以前ほどの有効性は示せませんが、機体対策のスロットが未だに多く取られている以上、そうせざるを得ません。
そうしてメインボードでも不利、サイドボード後でも相性が改善出来ないとなる相手が全体の過半数を占めた結果、機体は負けてしまったのです。
そして、ゾンビデッキです。
ゾンビデッキには大別して2種類ありました。
それは白黒と黒単です。
この2つの違いとして
・黒単は機体に有利
・白黒は機体に不利だが黒単ゾンビに有利
という点がありますが、今回のPTではそれ以外はほぼ同等でした。
基本的に霊気池に有利で、青赤コントロールには不利がつきます。
先程、MOで勝つデッキがそのままプロツアーで勝つことは少ないと述べました。
では、何故今回のプロツアーだけ違ったのでしょうか。
それには3つの要素があります。
まず、1つ目。
MOにおける『アモンケット』の実装が普段よりも1週間早く、MO上で流行しているデッキが精錬された事。
次に2つ目。
実際に自分もゾンビデッキを組んでみた、という方はご存知でしょう。
ゾンビデッキには神話レアがほとんど入っておらず、構築するコストが非常に軽いのです。
その上で強力なデッキというのは、これまで中々ありませんでした。
MOで流行る要素を兼ね備えていつつも、しっかりと一線級であるという2つのポイントを兼ね備えた稀有なデッキ。それが2つ目の要素です。
そして3つ目。
上記の要素により、多くの人がゾンビデッキの対策をしていなかったという点です。
ゾンビデッキは少し使えばその強さが分かるほどの強力なデッキです。
しかし一直線のクリーチャービートダウンという特性故に、全体除去に非常に脆いという弱点も持っています。
特に黒単ゾンビは単色です。
もし機体と同じくらい厳しくマークされてしまったのならば、サイドボード後に機体のようにプランを変更して対抗する事ができないのです。
ゾンビデッキの前評判が機体程もあれば、今回の結果のようにはならなかったでしょう。
機体デッキには全体除去は大して有効ではない。だから全体除去は取らない。その流れに、ゾンビは乗れたのです。
MOでしか勝たなかったからこそ、MOだけで勝ってしまったからこそ、逆に対策されなかった例といえるかもしれません。
4.これからのメタゲーム
さて、プロツアー『アモンケット』が終わってスタンダードがどうなるかを話しましょう。
まず、現在の環境をまとめると以下のとおりです。
Tier1:ゾンビ系 霊気池
Tier2:機体 緑黒系 赤緑系ビートダウン 青赤コントロール
そして今後どう変化するかですが、まず霊気池とゾンビが2強として君臨することは大きく変わらないと予想出来ます。
霊気池は圧倒的なパワーを持ちつつも、対策が困難という特性を持っているためです。
霊気池に有利な構成・有利なデッキは存在しますが、霊気池に強いデッキで他のデッキに強いという構成は難しいのです。
霊気池vsゾンビは霊気池側が不利だと言われていますが、《光輝の炎》や《焼けつく双陽》を意識してサイドボードに取ることで、相性を大きく改善できるでしょう。
《没収》や《失われた遺産》などのメタカードもありますが、それらを沢山入れれば勝てるというような単純なものではありません。
強く意識されることで勝率は下がりますが、ベストデッキである事は変わらないのではないかと考えています。
対してゾンビ系は、霊気池と比べると若干厳しいでしょう。
ビートダウンという性質上、対策が容易だからです。
ゾンビだけを倒そうと思えば、例えば大量の除去+《ゲトの裏切り者、カリタス》で簡単に勝つことが出来ます。
もちろんそんな構成にすれば霊気池に全く勝てなくなりますが、とにかくゾンビだけを倒すだけならば、出来なくはありません。
ただ、バランス良くゾンビを対策する事は意外と難題です。そこが厄介な点ですかね。
メインボードの強みを残しつつサイドボードで全体除去を取れるデッキ、というものは多くありませんし、もしそれが出来たとしても霊気池とゾンビの両方に勝てなければそのデッキを使う意味は無いのですから。
という事で、ゾンビだけを対策することは可能でありつつも、霊気池の存在がそういうデッキを抑制し、結果としてゾンビは上位デッキとして君臨するだろうと考えています。
ただゾンビがトーナメントで優勝するには、プロツアー前よりも険しい道程になるのではないでしょうか。
1つ進んだメタゲームにおいて、ゾンビはTier1.5と呼べる位置にいるのではないかと予想します。
そして、ここから期待できるのは青赤コントロールです。
青赤コントロールは機体・霊気池のどちらにも勝つ、ということは困難です。
ですが、霊気池に五分・ゾンビに有利ならば可能でしょう。
機体とマッチングすると大きな不利は否めないでしょうが、機体がいない世界ならば大きく羽ばたける可能性を秘めています。
長期的にはわかりませんが、今後ひと月程度ならばTier1の位置に座ることも可能だと考えています。
最後に機体です。
このデッキは現状負け組に分類されてしまいました。
しかしそのポテンシャルは欠片も失われていません。
確かに霊気池には不利です。
それでも霊気池が対策を怠ったならば、その隙を付くことは可能です。
黒単ゾンビに対してもサイドボードを割くことで五分程度までには何とか持ち直せます。
なにより、ゾンビ同型に強い白黒ゾンビに対して、機体は明確に有利が付けられます。
白黒ゾンビは対ゾンビを意識されて全体除去が多くなってきてからも、サイドボードに控えるギデオンなどである程度対抗できるデッキでもあります。
機体の影が薄くなり、同型に強い白黒ゾンビが流行すれば、その時こそ機体が活躍する好機になります。
機体は以前ほど支配的なデッキではなくなってしまいました。
メタゲームを読み、使うタイミングを見計らう必要があります。
しかし、最適なタイミングで機体を選択することが出来たならば、このデッキは再び栄光を手にする事ができるでしょう。
5.最後に
次のスタンダードGPまでこの環境が大きく動くことはないので、それまでは霊気池か青赤コントロールがオススメです。
青赤コントロールは緑を足してのティムール電招の塔とするか、それとも純正の2色にするか悩ましいところですが、このデッキはプロツアー直後のメタゲームに最も合致していると考えています。
アモンケット環境はまだ始まったばかりでもあります。
プロツアーが終わった後に新しいデッキが作られ、メタゲームが一遍する事もあります。
メタゲームを読みながら、是非新たなデッキ作成に挑戦して頂けたらと思います。
この記事が皆様の環境理解の一役にでもなれば幸いです。
それでは、またお会いしましょう。
ご覧頂きましてありがとうございました!