By Yohei Tomizawa
グランプリ本戦決勝戦と同時に、PTQ決勝戦の幕は開く。
4日間の最後を飾るこのビックイベントには353人もの参加者が集まり、過酷な勝負が繰り広げられた。それこそ決勝戦に来るだけでも、相当なものだ。
プロツアーの権利をかけ戦うのは髙野 駿斗とジョン カーラン/Jung Ga-Ram。「ジェスカイ」と「アブザン」、カラーボードの違う2つのミッドレンジデッキはギルド同士が手を取り合い協力し成り立っている。
ギルドとは一つの輪。その輪が広がり手を取り合うことでデッキとしての形を成し、そのデッキを手に2人は戦う。
ギルドとは一つの輪。この対戦の結末を、互いの友人は輪を成し見守っている。
人と人同士の繋がりは周囲へと伝播し、コミュニティへ至る。形成されたコミュニティは新たな人や別のコミュニティとの出会いを呼び込む。
これより決勝戦。2人はそれぞれのコミュニティを背負い戦う。
そして何よりも、自身の名誉のため。
:ゲーム1
決勝戦で先手を選んだのは髙野。彼はスイスラウンドを全勝を駆け抜けているのだ。
タップインで始まるも、すぐに《凶兆艦隊の向こう見ず》により口火は切られる。ジョンは《マーフォークの枝渡り》を3/2で召喚しダメージレースの構え。
2点のクロックを刻み、続く《ベナリア史》。盤面は髙野有利となり、一方的なアタックが続く。
《暴君への敵対者、アジャニ》、《ドミナリアの英雄、テフェリー》とお互いにプレインズウォーカーを出すも、髙野は盤面のクリーチャーで、ジョンは除去呪文にて対処し、維持することは叶わない。
手札、ライフはほぼイーブンだったこの場は、唐突に動き出す。髙野は上空へ《再燃するフェニックス》を召喚し、続けて《暴君への敵対者、アジャニ》でパンプアップを果たす。
ジョンもクリーチャーを展開していくがそれは最早壁ともならず、ダメージレースも追いつかない。《不和のトロスターニ》を召喚し、盤面の4体のクリーチャーをパンプアップするが地対空のすれ違い、睨みを利かす《凶兆艦隊の向こう見ず》のため、思ったほどダメージを与えられない。
6点まで上がったパワー、繰り返された《再燃するフェニックス》のアタックにより、ジョンに残されたのは1ターンのみ。
《不和のトロスターニ》を除く4体のクリーチャーをレッドゾーンへ送るが、海賊と《封じ込め》が行く手を阻むとジョンは肩をすくめ滑らかにこう言った。
ジョン「OK,next game.」
髙野 1-0 Jung
『ワールド・マジック・カップ2017』に出場経験をもち、Deck Boxというコミュニティに所属するジョンは2度目の来日と教えてくれる。
今から15年前の初グランプリ、それはちょうど静岡であり、その日も今日と同じようにPTQを戦っていた。
結果はトップ4で終わってしまったが、今、ジョンは過去を乗り越え、決勝の舞台へいる。
あと少しで、忘れ物に手が届く。
:ゲーム2
ジョンは《マーフォークの枝渡り》、《野茂み歩き》と、《翡翠光のレインジャー》と順調にクロックを増やしダメージを刻む。
2連続タップインの髙野はやや遅い出だしとなり、4ターン目の《残骸の漂着》から。ここでは《野茂み歩き》を除く2体がリムーブされた。
追加のクロックがなかったことで髙野は力強く《再燃するフェニックス》を解き放つ。それでも、返しにジョンがキャストしたカードに比べれば可愛いものだったかもしれない。
平らな場で、アドバンテージの塊をキャストすると天秤はジョンへと傾く。
髙野は《再燃するフェニックス》と《ベナリア史》による短期決戦を画策するが、有り余るドローから次々に解答を提示する。
《秋の騎士》で英雄譚を破壊すると、《再燃するフェニックス》には《翡翠光のレインジャー》によって公開された《残骸の漂着》をチラつかせる。
さらに《不和のトロスターニ》を召喚することでダメージクロックを2段階上げると、ライフの少ない髙野は受け切れない。
最後のドローも土地であることを確認すると、髙野も短く口にする。
髙野「ネクストゲーム」
髙野 1-1 Jung
リップサービスではなく、髙野は都内の各店舗を列挙する。特定の店に属さず、大会参加と自身のスキルアップのため、いくつもの店を渡り歩いている。
そして出会ったのが、髙野の周りにいる友人たちだ。
友人と書いてもルビは"ライバル"だろう。
そこには複雑な気持ちが渦巻いているだろうが、今だけは誰もが髙野の勝利を願っている。お互いにプロツアーを目指し戦うと友として、またテーブルを挟んで顔を突き合わす敵同士として。
:ゲーム3
髙野はサイドボードで長時間悩む。それこそジャッジたちから指摘されるほどに。
しかし、ジョンは寡黙にシャッフルを続け、悩み続けることを許可する。
それは周囲の誰にもわからない、2人だけの時間。
PTQの決勝の舞台にいるものだけが味わえる、満足感と緊張と悩みが凝縮した一時。
束の間の時間を経て、最後の7枚が配られた。
ゲーム2の勢いそのままに、ジョンの《野茂み歩き》でスタートする。
しかし、全勝街道をひた走る髙野は、この場面で見事なトップデッキをみせる。
絶対的メタカード《トカートリの儀仗兵》、そしてこのクリーチャーをジョンは除去することができない。
《マーフォークの枝渡り》、《翡翠光のレインジャー》と続けるが、それはコストパフォーマンスの悪いバニラに過ぎない。
ジョンの動きを止めたところで、今度は前進するために髙野は上空へ《再燃するフェニックス》を配置する。
ジョンの探検は急速に終わりが近づいている。ジョンの場のクリーチャーたちも、同じように空を見上げることしかできない。
4点、4点。ゆっくりと、しかし着実にゲームは終焉へと向かう。それは《暴君への敵対者、アジャニ》をともなって、1ターン短くなる。
祈るようにドローを繰り返していたジョンは、5マナ目を置くとクリーチャーを含めフルオープンで返す。髙野のアタックを受け、ジョンの残り時間は後1ターン。
その髙野のエンドにジョンは《大集団の行進》をX=4でキャストする。絆魂を絡めての延命ともとれるが、それこそ《不和のトロスターニ》や《不滅の太陽》を設置できれば逆転となる。
筆者が覗いた髙野の手札はまたも土地。
しかし、その隣には《軽蔑的な一撃》。
髙野 2-1 Jung
右手を出し、敗北を認めたジョン。またも、同じ地で苦汁をなめる結果となってしまった。それでも別れ際、彼は力強く宣言した。
「次こそ、静岡の地で勝つよ。」
『ワールド・マジック・カップ』出場、それは十分過ぎる戦績だ。ジョンはマジックである一定の成果を残しているといっていいだろう。
彼が言いたいことは単純なプロツアーへのプロセスではない。15年前のトップ4、今日のファイナリストと少しずつステップアップした先の勝利にこそ、意味を見出しているのだ。
だから、次の静岡の地で開催されるPTQで勝つことを宣言し、会場を後にした。
着実にプロツアーへの階段を上っていた髙野は、遂にその手で夢を掴んだ。
自身の原動力であり、頂点と語ったその舞台に!
グランプリ、PPTQと全てのエネルギーをプロツアー一点にかけていた。それこそ『グランプリ千葉』では12勝3敗と、後1勝と目の前に迫っていたプロツアー。それが、今、現実のものとなった。
苦しい時期も、戦いも多かっただろう。
その全てが、報われる。
他のプレイヤーを圧倒し、全勝でつかんだ夢の舞台。走り続けた先のゴールは、遂にやってきた!
プロツアー出場、おめでとう髙野。
『プロツアーロンドン』予選、優勝は髙野 駿斗!おめでとう!