【GP静岡2017春】BIG MAGIC オールスターが語る、スタンダードで勝利するための思考と感覚

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By Kazuki Watanabe

グランプリ・静岡2017春の本戦は、スタンダードで行われている。ここで少し、現在のスタンダードについて再確認してみよう。

この環境のスタンダードを形容する場合、「三竦み」と表現されることが多い。

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強烈なサヒーリ・コンボを内蔵する「4色サヒーリ」、《キランの真意号》を中心に素早くビートダウンを繰り広げる「マルドゥ機体」、そしてここ最近は少し控え目な印象を受けるが、潜在的な強さは変わらない「黒緑」の3種類がその「三竦み」の構図に含まれる。

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とは言え、誰しもがこの構図に安易に飲まれることを良しとしているわけではない。「三竦み」の中でも様々な変化が起きているし、「ティムール《電招の塔》」「黒赤エルドラージ」「スラムダンク」といった、構図外から殴りつけるデッキも姿を表している。

勝利を掴むためには、環境を読み解く必要がある。環境に対して思考を巡らし、感覚を研ぎ澄まして、デッキを調整をしなければならない。

では、BIG MAGIC 所属プロ、BIG MAGIC ELDERS、そしてBIGsはどのように環境を読み、戦いを繰り広げているのだろうか?

明日以降も戦いを控える彼らの詳細なデッキリストは掲載できないが、彼らの思考と感覚を聞いてみよう


加藤「三竦みに取り込まれて、"じゃんけんで負けてしまう"というのは嫌だったんです」

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筆者が「今回使用したデッキ」について質問すると、BIGsの加藤 健介はそう答えながら続けた。

加藤「なので、三竦み以外のデッキを探しました。そして今回は石村 信太郎さんがMORPTQを抜けたときに使用していた、『rizer型霊気池』を、BIGsの何人かと調整してみました」

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安易に"じゃんけんで勝った、負けた"を嫌った加藤たちの選択は、過酷なMORPTQを勝ち抜くという"確かな実績"を持ったデッキだった。とは言え、

加藤「色々なカードを試しました。特にサイドボードは、自分が使って一番しっくりくる形を見つけるまで時間をかけましたね」

と、自分の思考と感覚を落とし込むことは忘れていない。改めて、このデッキの強さに聞いてみると、

加藤「このデッキは、"4ターン目に《絶え間ない飢餓、ウラモグ》を唱え"という最強の動きがあるんです。この動きに耐えられるデッキは、環境に存在しません」

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と明確に最強な動きがあることも大きな理由だったようだ。さすがにその"ブン回り"は低確率なようだが、まったくないわけではないらしい。

加藤「さっきのラウンドは、1ゲーム目、2ゲーム目にその動きができたんですよ。対戦相手は知り合いだったのですが、少し申し訳なかったですね......」

気まずそうに語りながら、「でも、ブン回りがあることって実はとても重要なんです」と続ける。

加藤「グランプリは、長時間の戦いです。何ラウンドも対戦する中で、そういった"あっという間に終わるゲーム"があると体調的にもメンタル的にもかなり楽になるんですよ」

勝ち続けるプレイヤーは、体調管理にも気を配る。Byeを所持しているとはいえ、初日の9回戦を戦うことは、トーナメントに慣れているプレイヤーでもやはり過酷なのだ。そしてその上で、デッキ自体が自分に合っていることも決め手となっている。

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加藤「どちらかと言えば、コントロール寄りのデッキが好きなんです。相手の動きに対応して動く方がしっくり来ます。このデッキの場合、そこにブン回りが加わっているので、感触はかなり良いですね

環境の予想について、「ほぼ予想どおりでした」と自信を持って答える加藤。環境予想の末に使用を決めたデッキの感触も、予想どおりのようである。明日の活躍に期待しよう。


続いて、見事初日を全勝で終えた"はまち"こと、BIGsの藤本 岳大にデッキについて聞いてみると、

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藤本「ローリーさん(先日BIG MAGIC 所属プロになった藤田 剛史)に『MOのリーグで絶好調だけど、乗り得ちゃう?』と言われたので......」

と控えめな解答が返ってきた。

藤本「基本的な枠組みは『緑黒昂揚』なので、感覚自体は掴みやすかったですね。《巻きつき蛇》→《ピーマの改革派、リシュカー》という強力な動きはもちろんありますし、その上でこれまでの『緑黒』よりも強くなっているな、と」

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デッキの中身に調整が加わっていることも重要だが、「『緑黒』が強い理由は、メタゲームの変化も大きいんです」と藤本は続ける。

藤本「たとえば、『マルドゥ機体』の構築が"対サヒーリ用"になってきているんです。《致命的な一押し》がフル採用されることが減ってきて、メインは3枚、人によっては2枚まで減らして『サヒーリコンボ』に効く《ショック》を4枚にしていますよね。『マルドゥ機体』が『サヒーリコンボ』を強く意識している結果、『緑黒』の立ち位置は少し変わってきてます

先ほど述べたとおり、藤本は全勝で初日を終えた。これまで「マルドゥ機体」とは1回しか対戦していないと言う。

藤本「想像よりも『マルドゥ機体』の数は少ない印象がありますね。全勝ラインに少なくて、1敗ラインには多いのかもしれません。デッキは明確に強いですからね。予想では、全体の50%が『マルドゥ機体』、45%が『サヒーリコンボ』、2%『緑黒』、1%『《電招の塔》』、そしてその他、という感じでしょうか」

そこへ、藤本にデッキを勧めた藤田がやってきた。

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「デッキを改良するところはあるか?」と聞いてみると、

藤田「61枚にして、《耕作者の荷馬車》を入れた方が良かったかもなぁ......」

と呟いた。「土地ではだめなのか?」と問いかけると、藤田は少し笑いながら、それでいて鋭い眼光ではっきりと次のように答えた。そして、その言葉の背後に、筆者は殿堂プレイヤーの凄みを見た。

藤田マナは足りないけど、土地はいらない

そう言い切ると、そのまま藤本と二人でデッキについて語り合い、時折"マジックのセオリー"を交えながら、鼓舞する言葉をも述べていく。

すべてのマジックプレイヤーにとって心強い先輩である藤田がBIG MAGIC 所属プロになったことで、藤本を始めとするBIGsたちは、さらに強く成長していくに違いない。


さて、この会話にもう一名が加わった。独創的な「緑黒アグロ(機体型)」を持ち込んだBIG MAGIC 所属プロ、瀧村 和幸である。早速、この環境について伺ってみた。

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瀧村「時々、『この環境は除去が強い』と言われますよね? それは確かに合っています。ですが、その強い除去に頼るようではダメなんです

《致命的な一押し》や《無許可の分解》の名前を挙げながら、以下のように続ける。

瀧村「この環境で重要なのは、除去よりも肉体(クリーチャー)です。強い除去の代表である《致命的な一押し》をどれだけ信用しても、『サヒーリコンボ』に対して効かないことがその一例ですね」

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この言葉を聞いて、藤田も「そうそう、そのとおり」と答える。

藤田「相手のクリーチャーを受け身気味に除去していたら、あっという間に負けるよ。除去するなら、『攻撃するため、ブロッカーを退けるため』という意識を持たないと」

藤本、そして瀧村も深く頷き、

瀧村「この環境は、ある意味でリミテッドに近いんです。なので、リミテッドが強い人、つまりコンバットが上手い人は勝っているイメージがありますね」

と続け、再びこれまでの対戦、環境分析について話を続ける。その魅力的な会話は、次のラウンドのペアリング発表が告げられるまで途切れることはなかった。


対戦終了後にトッププレイヤーたちが楽しそうに会話している光景は、言わば「大会の風物詩」だ。そしてその会話には、「マジックが強くなるためのエッセンス」が詰まっている。

そこで繰り広げられているものは、時に冗談を交えながら、トッププレイヤー同士が経験、思考、そして感覚を言語化し、知識を共有している会話なのだ。

この瞬間も彼らは会話を繰り広げ、明日へ、そして次の戦いへ力を蓄えていることだろう。ここでお届けしたものは、その一欠片に過ぎない。

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