岩SHOW MTG進化論:ニッサから見えてくるカード達

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text by 岩SHOW

平行進化

 "進化論"とはまったくもって便利なフレーズである。〇〇進化論、と表記するだけで内容がありそうに見えてカッコイイ。10年以上前、トリプルHというプロレス界の大スターが、大ベテランのリック・フレアーと共に「プロレスラー進化論」を唱えて、賛同した選手らとエボリューションなるユニットを結成して活動していた。実力・ルックス・ダーティーさ、すべてを兼ね備えたパーフェクトな悪役であったが、結局プロレスラー進化論とは何なのかは観ている側としてはわからなかった。それっぽいから細かいことはどうでも良いってことだ。このコラムのタイトルもそういう考えでつけた。特に大それたことを語るわけでもない、進化論に関する専門用語を交えた学術的な内容という訳でもない。

 マジックも20年を超える期間をかけてカードが作られ続けてきた。これはもう歴史と言ってしまって良いだろう。近年よく耳にするのは「クリーチャーは昔よりむちゃくちゃ強くなって、呪文はかなり落ち着いた」というお決まりのフレーズ。・・・本当にそうだろうか?確かにレガシーなんかを見ると、活躍しているクリーチャー達は何れも新枠である。ただ、ベレレンフォントが導入され新々枠などと呼ばれるカードデザインに変更となった『マジック2015』以降のクリーチャーの姿はというと、それほど見なかったりする。まあエルドラージはよく見るか。一時期は確かにインフレしていたが、ある一定の期間を過ぎればクリーチャーも落ち着いてきたものだ。先日スローバック・ガントレットなるイベントをMO上で遊んで、『ミラージュ』~『エクソダス』の頃のクリーチャーに触れたが、システム・クリーチャーはあの頃の面々の方がイカれていたりするなと。《貿易風ライダー》とか完全にブッ壊れている。また、呪文だって《致命的な一押し》なんてオールタイムで見ても相当に優秀なものでヴィンテージでも使われるレベルで、過去の呪文引けを取らないどころか優れている。そして、過去には存在しなかったプレインズウォーカー。コイツらだって壊れた呪文だ。こう考えると、一般的に言われているクリーチャーインフレ・スペルデフレという風潮も鵜呑みには出来ないなと。

 強くなったか弱くなったかはさておき、近年のカードには直系の祖先がいるなぁと思わせるデザインのものが増えてきた。ネタ切れと言えばそれまでかもしれないが、歴史の集大成と見ることも出来る。最新のカードと繋がる過去のカード達を紹介していこう、というのがこのコラムの狙い。だから、マジックの戦術的な話なんかは一切ない。ただただ僕個人の思い出とか、感想とかを述べていくだけ__随筆だ。大して使われなかったカードも、最新スタンダードのトップメタデッキに入っているカードのご先祖様だということにしてやれば報われたりするかなと、そういう思いもある。今まで僕がやってきた「マジックにはこんなカードやデッキがあってこれは本当にすごいんだ!」という活動と特段の違いはないね。駄菓子みたいに栄養はないけど、その瞬間を楽しんで貰えたら嬉しいなと。

《自然に仕える者、ニッサ》 X緑青

自然に仕える者、ニッサ.jpg

【+2】 占術2を行う。

【0】 あなたのライブラリーの一番上のカードを見る。それが土地・カードであるか、点数で見たマナ・コストが自然に仕える者、ニッサの上に置かれている忠誠カウンターの総数以下であるクリーチャー・カードであるなら、あなたはそれを戦場に出してもよい。

【-6】 あなたがコントロールする土地を最大2つ対象とし、それらをアンタップする。ターン終了時まで、それらは飛行と速攻を持つエレメンタル・クリーチャーになる。それらは土地でもある。

 最新のプレインズウォーカー《自然に仕える者、ニッサ》は史上初のXコストX忠誠値。スタンダード環境に実に4枚目のニッサというハイペースっぷりも驚きだが、能力的には確かにジェイスよりはニッサの方が相応しいか。ゲートウォッチの初期メンバーも、ようやく単色から色を得るに至ったかと思うと感慨深い。ニッサはキャラクターが最も変化したメンバーでもある。初期の刺々しさから随分丸くなったというか、社交的になったもんだ。青が足されたのはこういう内面の変化の現れなのだろう。旧世代は5色扱えるのが当たり前だったが、それ故にカード化する時に皆が皆5色になってしまい、デザインすることが難しかったのだろうなぁ。

 何はともあれ初のXプレインズウォーカーだ。これまで忠誠値-X能力こそあったが、忠誠値そのものが可変式のものはなかった。早いターンで出して占術と0能力を交互に繰り返して盤面を築いても良いし、8マナ10点火力として投げつけるなんて選択肢も。これだけ挙動にレパートリーのあるプレインズウォーカーというのも面白い。使うのが今から楽しみだ。

世界を目覚めさせる者、ニッサ.jpg精霊信者の賢人、ニッサ2.jpg生命の力、ニッサ.jpg

 このニッサを何と比べるか・何が見えてくるか。やはり、同じ系列に肩を並べる"歴代ニッサ"がまずは思い浮かぶ。通算7枚目のカード化となるが、土地をクリーチャー化させるという能力は《世界を目覚めさせる者、ニッサ》《精霊信者の賢人、ニッサ》《生命の力、ニッサ》と共通するものだ。1枚を永続的に4/4トランプル・6枚を永続的に6/6・1枚を次の自分のターンまで5/5速攻ときて、今回は2枚をターン終了時まで5/5飛行速攻と、そのどれもがサイズ・能力・期間が異なるものとしてデザインされている。毎回使用感が異なるものにして飽きさせないようにしてるなぁと、感心しきり。ギデオンとの大きな違いでもある。

生きている大地.jpgコーマスの鐘.jpg

 土地をクリーチャー化させるカードというものはマジック黎明期から存在する。最も古いものは《生きている大地》《コーマスの鐘》。24年間、土地をクリーチャー化するカードはリリースされ続け、その間に源獣サイクルゼンディコンサイクル、覚醒呪文など・・・5色すべての色で多種多様なカードが作られた。それでも、ニッサを始め緑のカードが強く印象に残る。《粗野な覚醒》のようにトーナメントで採用されたカードだってあるし、前述の《生きている大地》のように基本セットにそういったものが入っていたというのも要因であろう。

 ニッサがこの能力を担当するようになってから、クリーチャー化する土地はサイズがかつてよりも大きくなって戦闘がしやすくなった。しかし黎明期のカードはいずれもクリーチャー化したところでサイズが小さく、戦闘に用いるにはなんとも使いづらい、リスキーなものが多かった。永続的にクリーチャー化させるエンチャントは1/1にし、一時的にクリーチャー化させる能力でもパワー2が限界といったところ。つまりは、使いにくい。無理して使うまでもないカードといったところだ。《Balduvian Conjurer》なんてその典型だね。タップするだけで氷雪土地をターン終了時まで2/2のクリーチャーにする。本人が2マナ0/2という弱いスペックな上に結局これをタップしているので、額面上《灰色熊》よりも効率が悪いクリーチャーとなってしまっている。

Baluduvian Conjurer.jpgバルデュヴィアの霜覚師.jpg

後に『コールドスナップ』でこれのアッパー調整版《バルデュヴィアの霜覚師》が登場。氷雪土地を同じく2/2のクリーチャーにするが、その効果は永続的であり、しかも飛行を持っている。元と比べてコストが割高のカードになったが、安かろう悪かろうよりゃよっぽどマシだ。緑なら《Thelonite Druid》なんてどうだろう。2マナ1/1、2マナタップとクリーチャー1体生け贄で、森がすべて2/3になる。2/3というサイズが面白いが、こちらも化ける土地が森と制限されてしまっているのが惜しいし、クリーチャーを1体損失してしまっているのがやや痛い。まあ概ね本人をサクるんだろうが。同じくコストを要求してくるのが後継ともいえる《獣たちの女帝ジョルレイル》。伝説のスペルシェイパーサイクルを形成する1枚である彼女は手札2枚と3マナタップという尋常ならざるコストを要求してくるが、対象のプレイヤーがコントロールする土地をすべて3/3にするというなかなかの破壊力。相手の土地だけをクリーチャー化させて《地震》で吹き飛ばすみたいなことも狙えるので、能力の幅は広がっている。本人が重く、また召喚酔いでタイムラグが生じるという点が《Thelonite Druid》と同じ欠点だ。

獣たちの女帝ジョルレイル.jpgThelonite.jpg

Thelonite=セロン教繋がりでもう1枚、ニッサとは関係がないがオマケでカードを紹介させてほしい。《Thelonite Monk》というこのカマキリ男。無茶苦茶武闘派のスタイルなのに。4マナ1/2とド貧弱。その能力はDruidと同じく、クリーチャーの生け贄を要求してくる。セロン教とはセロンを信奉する人々の集まり。セロンは氷河期によりもたらされた世界的な食糧危機を解決するため、漆黒の手教団よりスラルを作り出す技術を提供してもらい、それを基に魔法によって新種の生命を創り出す。意思を持たぬ菌類、サリッドはセロン教徒であるエルフ・人間・昆虫人間によって育てられて爆発的に増え、食料や森の生命力を高めるための生け贄として用いられた。Thelonite達がクリーチャーを生け贄に捧げる能力を持っているのはこういう背景があるからなんだろう。でMonkは何をするのかというと、対象の土地1つを永続的にただの《森》にしちゃうのだ。・・・重いし、効果なんやそれ。まあ、フレイバーにはのっとっている1枚ではあって僕は大好きなんだけども。初めて買った『フォールン・エンパイア』から飛び出した思い出の1枚。原画が安く手に入ったりしないものか。部屋に飾りたい。


Thelonite Monk.jpg

 【-6】能力から想起されるカードの話だけしてもしょうがないのでそろそろ他の能力も・・・というか【0】能力の話をしよう。【+2】は占術2、以上で終わってしまう。ライブラリーの一番上のカードを捲って、それが土地なら戦場に出す。そうでないなら・・・別の処理を行うという能力。この手の能力はすでに何度か目にしているはずだ。再びの登場となるが《精霊信者の賢人、ニッサ》の能力はまさしくこの系譜で、土地なら戦場に・それ以外なら手札に加えるというもの。「バント・カンパニー」でこれを用いてアドバンテージを稼ぎまくったという方も少なくないはず。今回のニッサは土地以外の場合、アドバンテージが取れるかは確定していない点が異なる。忠誠カウンターの数以下のマナコストのクリーチャーを戦場に出す。うまくヒットすればカードの枚数だけでなくマナの面でのアドバンテージまで得てしまうが、毎度確実に狙ったものがヒットするとは限らない。2枚目のニッサがトップに居座ることだってあるわけだ。一長一短、どちらが優れているとは一口には決められない。精霊信者の賢人が持つより確実な能力が好き、という人だっているよね。これらの能力の系譜をたどると、まず浮かび上がるのが《とぐろ巻きの巫女》。精霊信者の賢人とまったく同じ能力を持つこの2マナクリーチャーは非常に使いやすく、構築でもこの巫女・・・と呼ぶには少々不気味なエルフの恩恵にあずかるプレイヤーが多数いたものだ。何がどうあれ絶対に得をする能力、というのは素晴らしい。

とぐろ巻きの巫女.jpgクルフィックスの狩猟者.jpg

トップから土地を戦場に、という類の能力であれば《クルフィックスの狩猟者》について触れないわけにはいかない。これが使えた頃のスタンダードは・・・ゲームが長い!それに尽きる。ライフ回復と手札と戦場以外の情報、1ゲーム1ゲームが長引いて、ひいてはラウンドが間延びし、トーナメントの運営も大変だった!今だから笑って話せるが、コイツは良いカードであり同時に"あかん"カードでもあった。『アモンケット』にて亜種とも言える《生類の侍臣》が登場したが、こちらは土地と違ってクリーチャーなのでまだマシだろう。・・・多分。クルフィックスのリメイク元となっているのは《ムル・ダヤの巫女》。コントロール的なデッキで真価を発揮したクルフィックスに比べると、こちらは《溶鉄の先鋒、ヴァラクート》を用いたコンボ寄りのビッグマナ・デッキでの便利なマナブースト役を担っていた。今でも微妙に需要があり、そこそこの値がついている。

ムル・ダヤの巫女.jpg未来予知.jpg

トップからアドバンテージを得るカードという括りで見ると、《未来予知》がその初代にして代表格か。エキスパンション名にまでなったしね(同ブロックの《次元の混乱》はテキスト認知度が無茶苦茶低いだろうということには目を瞑る)。
このエンチャントはトリプルシンボルの5マナと重いものであるが、設置出来た時の見返りは歴代カードの中でも断トツ。何が捲れようが問答無用でアドバンテージを稼ぐんだからそりゃ強い。当時は《クローサ流再利用》《早摘み》で無限マナを作って勝つデッキも生まれた。まあ、弱かったけども。ライブラリーを一度0枚になるまで引ききらなければコンボが出来ず、お膳立てが簡単じゃない&コンボが動き出してもそこでエンチャント破壊を挟まれるだけでストップしてしまうというね。《クローサ流再利用》で下から《クローサ流再利用》《早摘み》の順でライブラリーに置く、というのを延々繰り返して無限マナを得たら、同じループを《予報》でやったり《思考停止》を唱えてライブラリーアウトで勝ち。こういう脆いコンボこそ愛おしい。使わなかったけどね。

あ~そういえば《未来予知》より随分前にもなんかそういう系のカードあった。あれは・・・いや・・・

野生の呼び声.jpg

《野生の呼び声》。4マナで設置して、能力の起動も4マナ。ライブラリーの一番上を公開して、クリーチャーなら出す。そうでないなら墓地へ。
ちょっと考えたらこれは弱すぎるとわかったんじゃないのと。8マナ投資しているので、これで《ラノワールのエルフ》なんて公開しても借金7。得しようと思ったら9マナ以上のクリーチャーを公開したいところだが...
このカードが登場した『ウェザーライト』の時点で、この条件に見合うクリーチャーは実は6種類しか登場していない。《サルディアの巨像》《リバイアサン》《Polar Kraken》《夜のスピリット》《真紅のヘルカイト》《ティーカのドラゴン》。これなら8マナ出せるマナエンジンで真面目に素出しを狙った方がマシだ。1つ前のセットで《自然の秩序》というカードを出しておいてのこの仕打ち、残酷としか形容できない。・・・9マナ以上の6種類は緑じゃないので、そういう点では《野生の呼び声》が上回っているか?《俗世の教示者》《吸血の教示者》から投げつけよう!というのは、『第6版』を買ってこのカードを引いてしまった僕ら中学生の発想だった。皆で頑張ってデッキを作ってみて、いざ対戦。そこには、1勝もできないまま帰宅する友人の姿が。《堕落》連打してごめんな。

 《野生の呼び声》に比べれば、同じくスカる可能性のある新ニッサの能力も随分と有情であることがお分かりいただけるかと思う。土地が出せるだけマシだ。あのレアの力を持たぬレア頃を思い出せば、カッカせずに使える。そう、《動物の魅了》よりも良いんだ。自分で占術できるだけ、相当に良いんだ。このカードが気に入ったのであれば、どうかそんな心境で使ってやってほしい。同セットには相性の良い《生類の侍臣》もあるし。これでプロツアーで活躍するレベルで強かったら面白いし、もしそうじゃなくてもこんだけ書かせてもらったし、どっちに転んでも良い出会いだったよ。最後にこのニッサを使ったデッキを紹介して・・・・・・・・・お、思いつかないのでナシ。いつの日か、その時の最新セットのカードを眺めてこのニッサを思い出すことがあるんだろうな。

今度は今回とは逆に最古のカードから最新のカードへと、文字通り進化していく過程を辿ってみようかと思っている。その機会があれば・・・だけども。