[BIG MAGIC Sunday Modern] 決勝 木村 一生 vs 棚橋 雅康

Text by Moriyasu Genki


モダン・フォーマット


2003年7月移行に発売されたセットに収録されたカードのみを使用できる、カードプールの広さとしては『中量級』の環境だ。
2011年のフォーマット開始から7年が経過して、現状ではトップクラスの人気も誇っている。


禁止・解禁の改定も度々行われているが、おおむね受け入れられているカードが多いようだ。
「環境で最も優勢なデッキが確実に第3ターン以内に勝つことをなくす」「環境の多様性を保つ」という2点の基準がある。
その為、いわゆる"3ターン・キル"のデッキは時々姿を現しては、消えてきた。


【《猛火の群れ》型感染】や【《炎の儀式》入りストーム】は最たる例となるデッキであり、禁止によって平均キル・ターンを遅くしている。
(環境初期から存在する【親和】や【バーン】が時々ハンドを使い切って3ターン・キルを決めるのは、確率的に問題ないとされているようだ。)


そうしたなかでも、"3ターン・キル・コンボ"を果たせるデッキの構築をプレイヤーたちは諦めなかった。


今回のBMSundayモダン決勝の卓につく棚橋と木村も、その3ターン・キル・コンボを目指すデッキを持ち込んできている。
ここまでスイスラウンド9回、シングルエリミネーション2回の計11回戦を終えての着席だ。
順調かつスピーディにコンボを成立させてきているのだろう。


棚橋の【無限入り緑白カンパニー】はメタデッキの1つだ。


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《療治の侍臣》と《献身のドルイド》の2枚を戦場に揃えると、《献身のドルイド》はアンタップのコストが"-1/-1カウンターを0個のせる"となり、
無限に緑マナを発生させることが出来るようになる。
そこから《召喚の調べ》で《薄暮見の徴募兵》をサーチし、起動型能力でライブラリーのクリーチャーカードすべてにアクセスできるようになる。
《歩行バリスタ》X=∞でフィニッシュする。というのが基本となる形だ。構成パーツがほぼ全て3マナ以下のクリーチャーなので《集合した中隊》でパーツを集めることも容易だ。


[デッキリスト](1位 棚橋)


新カード、《豊潤な声、シャライ》も無限パーツを守るだけでなく起動型能力も緑マナだけで無限パンプ可能とデッキに噛み合う1枚だ。



対する木村の【アイアンワークス】は―...知名度に対して、実際にその動きを把握できているプレイヤーは少ない。



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[デッキリスト](3位 木村)



簡単には『《クラーク族の鉄工所》と《屑鉄さらい》を揃えて各種キャントリップ機能を持つアーティファクトを生け贄に捧げつつ回収。
これを繰り返して少しずつマナを貯めるチェイン・コンボ』という説明になるのだが、
実際の手順はハンド・戦場・墓地の状態によってループ形成に至るまでの構成は変わりやすい。


つい先日のグランプリ・ハートフォードでも優勝を飾ったばかりのタイムリーなデッキタイプでもあるのだが、
実際に回すのは難しすぎるという点もあってか今大会も1%を切る3人しか持ち込んでおらず、使用者率はこれまでとあまり変わっていない様子だ。


木村もグランプリの優勝を受けての使用ではない。以前から使い続けているらしく、「もっとひっそりとしてて欲しい...笑」と
メタにあがってくることで対策されることを嫌った発言をしていた。
逆を言えば使用者率に関わらず使い続けてきたということでもあり、その回し方は"職人"級の上手さだ。
つい先ほどの準決勝においても攻撃力の高い【人間】の攻勢をライフ1で守りきっている。


新カード、《減衰球》は相手に使用されるとチェインが止まってしまうキラーカードだが、
自分が使う分には自分より早いチェインコンボの相手を止めつつ、不要となれば《クラーク族の鉄工所》で生け贄に捧げても良い。
サイドボードの《アンティキティー戦争》も、数枚並んだ1マナ・アーティファクトたちが一斉に殴りはじめることを考えると脅威の一言だろう。



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(左、棚橋 右、木村)




どちらのコンボが、いつ決まるのか。
決着は驚くほどスピーディだった。



Game 1


棚橋の先手。《貴族の教主》をプレイ。


後手の木村は《彩色の宝球》を設置。
見ようによっては【トロン】のようにも見えるが、既に棚橋も木村のデッキタイプは把握済みだ。



2ターン目、棚橋は《療治の侍臣》と《極楽鳥》をプレイ。
それを受けて《古きものの活性》プレイから《精神石》と《オパールのモックス/Mox Opal》を設置して、木村も一気に準備万端だ。



3ターン目、棚橋は《召喚の調べ》で《献身のドルイド》を用意した。
召還酔いが明ければ無限マナ成立だ。
その使い道となるカードはまだ示されてこそいないが―...終焉はもうじきだ。


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「あと1ターンか―...」
棚橋のクリーチャーに視線をやりつつ、木村は最後のドローになるかもしれないカードを引いた。
そしてそれは、事実、木村にとって最後のドローステップとなった。


引いたカードを見て、力強くハッキリと「よし」と頷いた。


《クラーク族の鉄工所》プレイ。
しかるのち、《屑鉄さらい》プレイ。
《マイアの回収者》プレイ。


ここまで揃えば、あとは《精神石》を頂点に、1・2・3マナのキャントリップ・アーティファクトを繰り返し循環する。


ゆっくりと、しかし確実にたまっていく無限マナ。
1枚ずつ、1枚ずつ、しかし引く動作は途切れず無限ドロー。



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この2つの無限が揃い、木村はデッキ内に用意されている全ての勝ち筋で勝つことが出来るようになった。
そのうちから最も分かりやすいカードをプレイすることでゲームの勝利を証明した。


《引き裂かれし永劫、エムラクール》キャスト。


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棚橋 0-1 木村


お互いにほぼ干渉の余地がない等速のコンボ同士の対決は先手有利というように噂されることもあるが、
今回は《クラーク族の鉄工所》が召還酔いの影響を受けない分だけ、木村が"後の先"を制した。



Game 2


棚橋が《極楽鳥》から《献身のドルイド》と、またもスピーディに動き出す。
木村も《彩色の星》、《胆液の水源》と、しっかりと準備を始めてゆく。


3ターン目の棚橋が唱えた《集合した中隊》はまだ《療治の侍臣》を探しださなかったが、2枚目の《献身のドルイド》と《漁る軟泥》を用意した。
次ターンからの墓地経由のループへ一定のプレッシャーをかけることには成功した。


木村はこの牽制をどう潜り抜けるかが肝だが、ひとまず《彩色の宝球》と《マイアの回収者》を置いてゆく。


棚橋は4ターン目も《集合した中隊》を唱えて、そろそろ《療治の侍臣》を見つけ出したいが―...
ライブラリーから参上したのは《薄暮見の徴募兵》と《貴族の教主》だ。
使えるマナソースはかなり潤沢になってきているので、一気に展開もしてゆきたいが《漁る軟泥》の為に緑マナも残しておきたいというジレンマがある。
ここは待ったの姿勢をとった。


木村も一旦、ここで迂回する。
《発明の領事、パディーム》をプレイして、アーティファクトたちに呪禁を付与。


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《再利用の賢者》や《クァーサルの群れ魔道士》といった棚橋が用意しているであろうアーティファクト破壊への耐性をつけておく。


棚橋におとずれた5ターン目。Game 1の倍にも近いほどのターンが進行したともいえるが、ゲームの終わりはまだだ。
棚橋は薄暮見の徴募兵を起動するが《療治の侍臣》は見つからない。
戦場に《クァーサルの群れ魔道士》を追加してターンを終えざるをえない。


木村もまた、とっくにコンボを揃えていてもおかしくない"回り"をみせる棚橋が《療治の侍臣》に辿りつけなかった不運の結果、5ターン目をむかえた。


アップキープに《発明の領事、パディーム》が追加のドローを木村にもたらすと―...
【アイアンワークス】最大にして唯一といっても良いほどのキーカード、《クラーク族の鉄工所》をプレイした。


この《クラーク族の鉄工所》自身ももちろん《発明の領事、パディーム》によって呪禁を獲得しており、
棚橋の《クァーサルの群れ魔道士》を乗り越えてチェーン・コンボをはじめることが可能だ。


更に《屑鉄さらい》プレイしてから《胆液の水源》を"食べて"、《彩色の星》を回収でチェーンを開始を宣言する―...


だが《彩色の星》を対象にとったところで、棚橋が待ったをかけ、《献身のドルイド》を-1/-1カウンターを載せながら起こし、緑マナを捻出した。



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《漁る軟泥》起動で、その戻ろうとする《彩色の星》を横から"食べる"ことで、チェーンに制限をかけようというものだ。
木村はハンドではなく追放領域に《彩色の星》を置く。


他にキャントリップ・アーティファクトがハンドになけれ、チェーンは止まるのだが―...
デッキの大半が、そのあるべきカードで構築されているのが【アイアンワークス】だ。
ハンドから別の1マナ・アーティファクトが展開され、チェーンが再始動する。
そのままプレイ・生け贄・回収を繰り返し《オパールのモックス》が登場すると、棚橋は「もうダメですね」と握手をもとめた。


―...もし棚橋が《発明の領事、パディーム》のことを失念して《クァーサルの群れ魔道士》をプレイしていなければ、もう2回分、墓地に介入する余地があった。
それで完全にチェーンが途切れたかどうかは不明だが、ミス・プレイだった自覚は強いようだ。苦く笑って反省していた。


・どのようなルートでコンボが決まるのか。
 ・どのタイミングで介入すればコンボが止まるのか。


・どのような対策をすれば良いのか。
 ・どのような対策対策が投じられているのか。


「分からん殺しのデッキでもあるので」と木村が言うように、アイアンワークスを相手どるのは見た目以上に困難なようだ。


使う側・使われる側両面から研究の進むトップメタのデッキと異なり、こうした使用者率の低いコンボデックは"ローグ"とも称され、なかなか全容を把握することは難しい。
だがしかし、【ランタンコントロール】がグランプリ優勝を機に少しずつ利用者が増えたように、【アイアンワークス】も同じ道筋を辿るかもしれない。


加えて、"アナログ・ゲーム"としての部分も木村は上手かった。


たとえば最終局面、棚橋が《漁る軟泥》をコントロールしていても普段と変わらない宣言とテンポでチェーンをプレイし、
棚橋側にどこがキー・アクションとなるのかを極力意識させないようにもしていた。


もっと分かりやすいところでは、マナの計算だ。ルートによっては赤青ストーム以上にカードのプレイとマナの増減を管理しなければならないが、
正しく素早く、複数のダイスを利用して相手にも最大限分かりやすい形で示していた。木村の職人技の最たる部分が表現されていた。


アイアンワークスは《クラーク族の鉄工所》と《屑鉄さらい》の2枚コンボと呼ぶには、あまりに多くのカードがチェーンに関与する。
その為には全てのカードと組み合わせの挙動・結果を管理・把握していなければならない。


一朝一夕で回せるものではない。木村は明らかに長年、これを回し続けてきている。そう感じさせるにたる、風格がある。


「2ゲーム合計8ターンの間」という短いターン数ながら、試合をみていた全員が感じたことだろう。


準決勝の記事で"《クラーク族の鉄工所》所長"と称されている。
木村 一生といえば【アイアンワークス】、【アイアンワークス】といえば木村 一生。
互いが互いの代名詞になる日も近いかもしれない。


木村 一生、優勝おめでとう!



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