DJ IZMAの赤単エルドラージ解体新書・調整編

※編注 この記事は2019年11月18日に行われた禁止制限告知の前に執筆されました。


0.はじめに


前回の構築編では、赤単エルドラージというデッキの概要をお話しました。


DJ IZMAの赤単エルドラージ解体新書・構築編


今回の調整編は、どのような経緯で赤単エルドラージが開発されて、そこからどのような調整を経て今のリストに行き着いたかを書いて行きます。


デッキの開発経緯から長いスパンでの調整過程を記事にしたものは、私の知る限りそこまで多くはなかったと記憶しています。(だいたいのデッキ解説は1シーズンが対象でした)


過去に例がなかったためどこまで反響があるか不安ですが、デッキの歴史を把握することは、そのデッキ自体の理解力向上になると思いますので、お時間のある時にでも読んでやってください。


 


目次


1.デッキ構築のきっかけ
2.ターニングポイント:血染めの太陽
3.ターニングポイント:反逆の先導者、チャンドラ
4.ターニングポイント:金属モックス
5.アナザーバリエーション:大いなる創造者、カーン
6.アナザーバリエーション:血染めの月
7.おわりに




1.デッキ構築のきっかけ


【むかしむかし/Once Upon a Time】


そもそも、赤単エルドラージを作ろうとしたきっかけは、


燃え柳の木立ち》+《罰する火》エンジンを搭載したエルドラージを作れないか?


という発想によるものでした。


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当時(2017年)の私はエルドラージに色を足してみる実験を繰り返しており、青赤エルドラージ青黒エルドラージを試作してみたものの、せいぜい平日大会3-0やBMOで6-3が精一杯といったところでした。


そんな中で、《燃え柳の木立ち》であれば、赤マナと無色マナを無理なく確保出来るだけでなく、《罰する火》で苦手な接死持ちブロッカーを排除できるため、上手く組めたら化ける!と直感的に思いました。


 


【不快な集合体/Vile Aggregate】


そして、エルドラージストンピィと赤単プリズンから好きなカードを適当にまぜっこして、何故か平日大会3-0してしまったデッキがこちら


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改めてデッキを見返すと、《エルドラージの寸借者》が4枚ガン積みだったり、《密輸人の回転翼機》が採用されてたり、名前だけエルドラージっぽい謎のデビルがいたりと、本当によく勝てたなってレベルの構成になってますね(汗)


izuma02 01.jpg


書いてあることは強い?


3-0したものの、そこからしばらくは別のデッキを回してたりしたので、赤単エルドラージを回すことは全然ありませんでした。


しかし、約半年後に大きな転機が訪れます。


 



2.ターニングポイント:血染めの太陽


【太陽との交感/Channel the Suns】


2018年1月にリリースされた 『イクサランの相克』で登場した《血染めの太陽は、赤単エルドラージに大きな影響を与えました。


izuma02 08.jpg


相性ピンズド


①フェッチランドをはじめ、マナ能力を持たない土地を紙切れにする妨害性能の高さ


②《不毛の大地》から土地を守ることで、罰火エンジンの死角をなくす


③こちらの展開を阻害せず、《裏切り者の都》に至ってはデメリットが消える


以上の3点から赤単エルドラージとの相性は抜群で、まさに《血染めの太陽》は赤単エルドラージのために存在しているカードと言えます。


 


【MTG】週末リレー放送第2部 くーやん エターナルWEEKEND レガシー
「俺がPlateauを1万円にするDeck Win」&赤単エルドラージなど(2018年1月19日放送)


あの人気動画にも登場


 


と言っても、登場してすぐの頃は別のデッキをメインで使っていたため、本格的に《血染めの太陽》を搭載した赤単エルドラージを使い出すのはしばらく経ってからになりました。


 


【勝者の戦旗/Vanquisher's Banner】


いざ《血染めの太陽》型の赤単エルドラージを使い出したのは、《死儀礼のシャーマン》が禁止になってしばらくした2018年9月からでした。使い始めると、平日大会を中心に連戦連勝で好調な滑り出しで、そして迎えた第12期レガシー神挑戦者決定戦。そこでファイナリストという戦績を収めることが出来ました。


対戦相手とスコアがこちら


izuma02 12.jpg


神挑戦者決定戦でのデッキテクはこちら(外部リンク)


 


残念ながら優勝は逃してしまいましたがデッキの手応えはあったので、引き続きこのデッキをメインで使っていくことに。


そして、主戦場がMOになってしばらくして、赤単エルドラージに再び構築上の転機が訪れます。


 



3.ターニングポイント:反逆の先導者、チャンドラ


【チャンドラの革命/Chandra's Revolution 】


2018年12月からMOで赤単エルドラージを回していましたが、その間、構築は迷走していました。


というものの、神挑戦者決定戦では好成績を収めた赤単エルドラージですが、分析した結果、デルバーBGデプスに対して滅法弱いことが判明。


izuma02 02.png


課題が浮彫りに・・・


先ほどの神挑戦者決定戦でも、結果スコアを見返してもらうと分かる通り、実はデルバーに1回も当たってなくて、相性のいい青系コントロールやストンピィやANTにとにかく当たり続けた結果の決勝進出だったわけです。そして最後にBGデプスに負けるという、ある種データ通りの結果でした。


 


それら苦手デッキを克服するため開発したのが、《反逆の先導者、チャンドラ》を中核にすえたランプ型の赤単エルドラージでした。


 izuma02 09.jpg


パワーカードを連打するだけの簡単なお仕事


それまで赤単エルドラージのメインアタッカーの一角だった《ゴブリンの熟練扇動者》や《エルドラージの寸借者》を外して、デッキの軸を後ろにズラしました。


ゲームの展開としても、序盤は《虚空の杯》、《血染めの太陽》、《罰する火》で相手を妨害することに専念し、中盤に《難題の予見者》と《反逆の先導者、チャンドラ》で盤面を構築し、一気に《業火のタイタン》、《殴打頭蓋》、《終末を招くもの》で盤面を制圧するのが狙いです。


 


また、サイドに《罠の橋》を採用して、《反逆の先導者、チャンドラ》《罰する火》《終末を招くもの》だけで勝ち切るプランも組み込みました。《死亡+退場》と合わせてBGデプスへの対策を重視した結果の採用です。


 


いざ回してみると、狙い通りに、デルバーやBGデプスに対する相性は良化し、レガシーチャレンジでもTOP8に入賞することが出来ました。


レガシーチャレンジでTOP8に入賞したリスト


 


【チャンドラの敗北/Chandra's Defeat】


しかし、今度はコンボとコントロールを中心に他の相性が悪くなってしまい、総合的な戦績は低迷してしまいました。


 


izuma02 03.png


テコ入れ失敗!


 


それもそのはず、いくら《衝動のタリスマン》や《反逆の先導者、チャンドラ》でマナ加速すると言っても、これだけ重い構成にすれば全体的に動きはもっさりしてマナフラッドも多くなるのは自明の理です。


目先のデッキ相性に捉われて視野が狭くなった結果と言えるでしょう。


 



4.ターニングポイント:金属モックス


【発想の井戸/Well of Ideas】


そんな中、調整LINEグループで「タリスマン以外に何かいいマナアーティファクトはないか」というテーマで議論した折に、金属モックスという案がメンバーから出ました。


 izuma02 10.jpg


ちなみに最初に候補に挙がったのはこいつ



そこでは刻印の色カウントがあるから半分無色デッキである赤単エルドラージでの運用は厳しいのでは、というところで話が終わりました。


たしかに、25枚前後の土地に加えて、《虚空の杯》《難題の予見者》《現実を砕くもの》《エルドラージの寸借者》《終末を招くもの》を入れれば、《金属モックス》を投入する時点で無色のカード枚数が40枚を軽く超えてしまい、赤いカードを刻印することは困難と言えるでしょう。


しかし、《金属モックス》というアイディアを捨てるのは勿体無く、「無色カードが多いなら減らせばええねん!」と思い至って、土地を含めた無色のカードを限界まで削った赤単エルドラージを開発しました。


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固定概念を覆せ!


【発明品の唸り/Whir of Invention】


神挑戦者決定戦時に採用していた《水蓮の花びら》と違い、継続的に赤マナを供給できる《金属モックス》は、妨害置物を展開した後のクロック展開に大いに貢献して、非常に好感触でした。


例えば、1ターン目に《裏切り者の都》経由で《血染めの太陽》を展開する場合、《水蓮の花びら》や《猿人の指導霊》を使った場合、最悪《血染めの太陽》が打ち消されてしまうと《裏切り者の都》が1枚残るだけなので、その後のクロック展開に大いに支障が残ります。しかし、《金属モックス》を使用した場合は、次のターンも少なくとも赤マナ含む3マナが用意されているため、二の矢三の矢を途切れなく放つことが出来ます。このスピードの違いは、刻印でカード1枚費やす価値はあると評価できます。


当初は《金属モックス》を3枚採用していましたが、後半の引きムラが激しいため2枚に抑えました。結果的にこれが正解で、土地22枚+《猿人の指導霊》4枚+《金属モックス》2枚のマナバランス黄金比は今後も継続することになります。


また、デッキ全体の構成としても、《ゴブリンの熟練扇動者》と《エルドラージの寸借者》を再び採用するだけでなく、新たに《軍勢の戦親分》と《熱烈の神ハゾレト》を採用し、ランプ型とは一転し、速度を重視する前のめりな構成にチェンジしました。


 


カードを入れ替えながら試行錯誤して4-1を繰り返し、13回目のリーグにてついに5-0を達成!


この時点で、59勝42勝17敗の勝率71.2%と非常に好調。デッキ別に見ても、デルバー・BGデプス・コンボ・コントロールのすべてに互角以上に渡り合えるようになりました。


その後、金属モックス型を使い始めて1か月経たない内に、さらに2回目3回目の5-0を達成。


 


その後も、月3~4回のペースで5-0をし続け、MOリーグ5-0リストの常連に。


以後、この《金属モックス》型が赤単エルドラージの主流の構築になります。


 



5.アナザーバリエーション:大いなる創造者、カーン


ここからは、様々な調整の結果で派生した赤単エルドラージのバリエーションの中で、好成績(MO Legacy League 5-0)を収めたものをご紹介します。



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赤単エルドラージのリストを見たプレイヤーの感想の中に、「《大いなる創造者、カーン》を採用してはどうか?」という声をよく見かけますが、実際に試したリストがこちらになります。


 image12.png


ただ《大いなる創造者、カーン》は、赤単エルドラージの中で特別なシナジーを有しているといった訳ではなく、単純なカードパワーからの採用になります。そのため、豊富なマナがウリのポスト系デッキや、デッキのキーパーツをサーチ出来るペインターやサルベイジャーに比べると、若干ありがたみは落ちます。しかし、《大いなる創造者、カーン》の常在型能力は比較的苦手な石鍛冶デッキへの牽制になりますし、《液鋼の塗膜》とアーティファクト破壊の組み合わせたで万能パーマネント除去が出来るため、赤単エルドラージにおいて《大いなる創造者、カーン》が弱い訳ではありません。


 


では、なぜ《大いなる創造者、カーン》が赤単エルドラージにおいて継続採用に至らなかったかというと、環境にマッチしていないことが最大の理由です。


《大いなる創造者、カーン》採用型の弱点として、RUGデルバーに対する相性の悪さが挙げられます。まず、《不毛の大地》、《目くらまし》、《呪文貫き》のせいで《大いなる創造者、カーン》が着地することが難しく、着地出来たとしても、これまで使いどころがなかった《もみ消し》に対して活躍の機会を与えてしまいます。《大いなる創造者、カーン》の常在型能力も意味を持たず、サイド後は《古えの遺恨》が投入されるため、RUGデルバー相手に《カーン》が活躍することは期待できません。


この型を開発して実戦投入したのが6月30日でしたが、当時すでに『モダンホライゾン』がリリース後で、《レンと六番》を得てパワーアップしたRUGデルバーがトップメタに躍り出ていました。今でこそ《もみ消し》採用型は減少していますが、当時は古き良きCanadian Thresholdに近い構成をしていたため、余計に相性が悪くなってしまっていました。


ちなみに5-0した時のマッチアップは、


izuma02 13.jpg


でした。いずれも《大いなる創造者、カーン》が活躍しやすいマッチアップといえます。また、RUGデルバーを回避できたことも、勝因と言えるでしょう。


メタが回ってRUGデルバーの数が減少することがあれば、《大いなる創造者、カーン》採用型も日の目を見ることがありえるので、今後のメタゲームの動向に期待しておきましょう。


 
(追記)
209年11月18日の禁止制限改定により《レンと六番》が禁止となりました。これにより《血染めの太陽》を着地させられずに《不毛の大地》で嵌められることがなくなり、加えて、環境から《もみ消し》の枚数も減少することになると予想されます。
また、新環境がどうなるかはまだ分かりませんが、改定後のMOレガシーリーグでは、《王冠泥棒、オーコ》をキーとしたデッキをよく見かけます。


①《レンと六番》の禁止
②《王冠泥棒、オーコ》の台頭
以上2点によって、《大いなる創造者、カーン》採用型も再び可能性が出てきたと言えるでしょう。


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今なら、『エルドレインの王権』の新戦力である《エンバレスの宝剣》をサイドに仕込んで、《ゴブリンの熟練扇動者》に装備させられたら面白そうですね。




6.アナザーバリエーション:血染めの月


赤単エルドラージにおいて、《血染めの月》は基本的に相容れません。《血染めの月》で基本でない土地を山にしてしまうと、エルドラージは唱えられない上に、《罰する火》エンジンも止まってしまうため、こちらの被害も大きいからです。


しかし、相手に与える影響は《血染めの太陽》よりも《血染めの月》の方が大きく、《血染めの月》だけで勝ててしまう盤面も多いのも事実。



では、こちらの被害を最小限に抑える構成が実現できれば、例外的に《血染めの月》を採用した赤単エルドラージが組めるのか?


その答えがこちらです。


 izuma02 04.jpg


当時のトップメタは先述したRUGデルバーを始めとして、4Cデルバー、ホガーク、BGデプス、ホガークデプス、ANTといった面々でした。そう、《血染めの月》が強いメタだったのです。


(じゃあ赤単プリズンでいいじゃん!という意見もあるかもしれませんが、あくまで赤単エルドラージを使いたいので、その意見は却下します。レガシーは情です)


 


デッキの内容を説明しますと、お気づきの通り《金属モックス》を外して、神挑戦者時点に近い構成にしました。外す結論に至った流れとして、


《血染めの月》の被害を減らす


 ⇒《荒地》と《灰のやせ地》の採用


  ⇒土地の総枚数を増やす


   ⇒《金属モックス》を外す


という思考がありました。


 


また、いくら《血染めの月》を採用するからといってメインにがっつり4枚積むなら、それこそ本当に赤単プリズンでいいのではと考えたため、サイドボードに2枚仕込む程度に留めました。メタ上《血染めの月》が強いとはいえ、完全に腐ってしまうマッチアップが存在する以上、こちらのストロングポイントを消すだけのカードをメインに置くことは合理的でないと考えました。


 


5-0した時のマッチアップはこちら


izuma02 14.jpg


肝心の《レンと六番》に当たっておらず、R2,R3は《血染めの月》が要らないマッチアップでしたが、他のマッチアップではサイド後の《血染めの月》が光った場面もあり、無事に5-0しました。


この《血染めの月》型は、《大いなる創造者、カーン》型に比べてしばらく試しましたが、結局使うのを止めて元の型に戻ることになりました。


理由は、相性が向上すると思われていたマッチアップとの相性が向上しなかったからです。


特にデルバーとの相性が顕著でした。《血染めの月》という強いサイドを得た替わりに、抜いた《金属モックス》の穴が大きく、メインにおいてスピード負けをしてしまうことが多くなりました。土地コンボとの相性が向上しても、デルバーとの相性が低下しては本末転倒なため、お蔵入りとなりました。


今後の《血染めの月》型の課題としては、いかにスピードを失わずに《血染めの月》とエルドラージを両立できるかですね。《大いなる創造者、カーン》型はメタが回れば再び使えそうですが、こちらは構築の抜本的な見直しが必要になると思われます。


 



7.おわりに


今回の調整編は以上になります。


冒頭に述べました通り、開発の経緯と調整の過程を知ることは、デッキの理解力向上になると考えられます。そこから発展して、今後のそのデッキの進むべき方向性を考える上での一助になれば幸いです。


今回は赤単エルドラージについて開発の経緯と調整の過程を書き連ねましたが、ご自身が使っているデッキについて、同様に学んでみるのもいいかも知れません。


それでは、次回の実戦編でお会いしましょう!


 



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