情け知らずのエロン/Eron the Relentless
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先週のWayne England氏追悼ウィークに続いて、今週もあるアーティストに捧げる一週間にしたいと思う。同じくこの2016年2月に逝去したChristopher Rush氏だ。Rush御大の経歴を振り返ると、元々はダンジョンズ&ドラゴンズの設定資料のイラストを担当していたアーティストだった。そこでの活躍が認められ、同じウィザーズ・オブ・ザ・コーストから出される新製品、「マジック:ザ・ギャザリング」の創立時のメンバーに抜擢される。勿論、マジック最初のセット『アルファ』に収録されたカードのいくつかのイラストを担当したわけだが、彼の最初の仕事で重要だったのはそれだけではない。まず、僕らがよく知るパックやカード背面に印刷されているMagic : the gatheringというロゴ。これのデザインを手がけたのは、何を隠そうRush御大だ。今日まで23年間変わらない看板、誰が見ても印象に残る、パワーに満ちたデザイン。まずこのロゴを見て、マジックというゲームに引き付けられた方も少なくないはず(僕もその一人)。さらに、この史上初のカードゲームの根幹であるマナという存在。その姿を描いた"マナシンボル"のデザインも彼の手によるものだ。各色のイメージ、力の根源をスタイリッシュかつキャッチーな形にした功績は、何よりも称賛されるべきだ。マジックのビジュアル面の父と言ってもよいだろう、そんなRush御大が手掛けたカードを今週は紹介していこう。
まずは個人的にグッとくる1枚、《情け知らずのエロン》について語っていこう。不敵な笑みを浮かべる、某格闘漫画の任侠キャラのような疵面の男。ただそれだけのイラストなのだが...底知れぬパワーを感じるではないか。ロン毛・ピアス・ブランドものっぽいバンダナと、チャラ男要素で構成されてはいるものの、その眼光の鋭さは「本気になれば強キャラ」感を漂わせている。このエロンという男は、次元ウルグローサに住まう人間の男性。元々はアイゼンという都市国家出身のただの泥棒であったが...ある堕落した魔道士から、センギア城に住まう太母(吸血鬼の一族に属する、しかし人間の女性)の書庫から呪文書を盗んでくるよう依頼を受ける。センギア城に侵入したエロンは適当に呪文書をかっぱらってくる_魔法知識がないため、本当に適当に。これを依頼主に渡したエロンは、その報酬としてその呪文書に最後に記されている呪文を自分にかけるよう要求する。エロンは、この呪文が何であるかもわからないし、最後というのもなんとなくだ。これがたまたま、不老不死の呪文であり、彼は不死身の肉体を手に入れ...あぁ、語りだすとスペースが足りない。残念だが、ここらで打ち切ろう。とにかく、不死身の男なのだ。
このエロンの設定を再現したカードは、実にシンプル。5マナ5/2速攻、不死身の再生能力付き。トリプルシンボルと重く、生け贄系除去などいくらでも処理するすべはあるが、マジックで完全な不老不死を再現するのは難しいんだなと。破壊不能が如何にすごい能力かがよくわかる。今ならトランプルの1つも欲しいところだが、当時としてはこれでも強い方だったためちょくちょく赤単デッキで使用されていたようだ。『ホームランド』のカードで構築で使われた、というのは勲章のようなものだ。
後に『時のらせん』でタイムシフト枠として再録。裂け目を越えてやってきた、若き頃のエロンなのだろうが...不老不死の彼ならば、『ホームランド』から500年ほど経った『時のらせん』の時代にも若い姿のまま生き続けているであろう。残念ながら、この同一人物二人が出会って対消滅、みたいなストーリーが描かれることはなかった。