『7年前。4年前。今。そして未来の話』



By 森安 元希

 

『日本勢はなぜ勝てなかったのか?』

http://archive.mtg-jp.com/eventc/ptams10/article/008381/

 

7年前。もう7年前の話だそうだ。僕がMTGを始めて、そう日も経っていない頃の話。

当時まだモニター越しでしかしらなかったプロ・プレイヤーたちの苦闘。

"プロツアー・アムステルダム2010"の敗戦を切り口に、日本勢の課題が記された記事が話題となった。

 

①コミュニティの消失(縮小)

②海外との練習・情報の差

③ビルダーの不在

 

『あの日見たクソデッキの名前を僕達はまだ知らない。 vol.4 PTアムステルダム10 -オリスチャント-』

http://www.hareruyamtg.com/article/category/detail/603

 

これらの課題がその後どのように日本勢を成長させてきたかを、"まつがん"こと伊藤 敦氏が著したのが2013年のことだ。

日本のプロ・シーンの勢いは当時より落ちたとしながらも、現Dig.cards所属プロ 行弘 賢選手の活躍にフィーチャーした"アンサー記事"だ。

 

行弘選手がプロツアー・アムステルダム2010で選んだ【オリスチャント】。

そしてTOP4に入賞したプロツアー・アヴァシンの帰還での【リアニメイト】のデッキ解説を中心として行弘選手のデッキビルダーとしての目覚ましい成長を表現している。

文中の表現を借りれば、新しいコミュニティを形成しながら『行弘は、だから勝った。』とした。

 

それから4年。この間に、また日本のプロ・シーン、競技シーンは姿を大きく変えた。

1つはスポンサー・チームとスポンサー・プロの登場。

 

・晴れる屋「Hareruya Pros」

http://www.hareruyamtg.com/article/hareruya_pros/

 

・BIG MAGIC「BIG MAGIC所属プロ」

http://www.bigmagic.net/player.html

 

・Cygames「Team Cygames」

http://team-cygames.com/

 

人数で言えば、この3企業が擁するチームのスポンサー・プロが多い。

特に『シャドウバース』などのデジタルゲームのヒットで知られているCygamesの"別業種"からのスポンサーは世界的にも稀で話題を集めた。

 

この他にも行弘選手が所属するDig.cardsなど、看板プレイヤーを用意するような形で少人数を支援する会社も増えてきている。

 

そして晴れる屋とBIG MAGICはそれぞれ「Hareruya Hopes」「BIGs」というプロを目指す競技プレイヤーの支援を標榜したチームも設立している。

最近は所属コミュニティ毎にユニフォームを揃えてチームを公言しているところも増えてきているが、プロツアー出場をはじめとしてプロを目指していることを大々的に打ち出しているのがこの2団体の特徴だ。

 

しかしながら、そのどちらも「練習を共にすることを意味するチーム」であることを表現しておらず、またそのようには機能していない様子だ。

実際、構成メンバーには関東在住のプレイヤーが多いようだが、宮城の熊谷 陸選手や大阪の藤本 岳大選手を筆頭に、本隊と地域的に離れている選手たちも所属している。

 

そして「Hareruya Pros」には多数の海外プレイヤーが在籍するように、こうしたスポンサー・チームは(地域的・練習団体的な意味での)コミュニティとはまた意味合いが異なる、新世代の集団のようだ。

 

このスポンサー・チームの活躍に伴い、大きく変わったことがもう1つある。

 

海外との情報戦で、3つの課題ならぬ「3つの武器」を得ていることだ。

 

① 「プロツアー前合宿」

1つは、プロツアー前にCygamesが主催する直前合宿だ。

 

http://team-cygames.com/2017/05/10/2895/

 

その規模はTeam Cygamesのみに留まらず、BIG MAGIC所属プロやBIGsも含むプロツアー参加者を中心に、複数団体・広域のプレイヤーが参加している。

練習の密度と情報の確度が明確に高まっている様子は、記事などを通して多くに知れ渡る。

 

② 「超巨大プレイスペース」

もう1つは、「晴れる屋トーナメントセンター」の存在だ。

 

http://www.hareruyamtg.com/article/category/detail/1036

 

400人クラスのプレイヤーを受け入れるデュエルスペースを確保した晴れる屋高田馬場店は実際に毎日複数トーナメントを開催している。

3戦3勝のデッキリストを迅速にアップロードし、膨大な数で以てメタゲームを進行・解析してゆく。

個人主催の草の根大会が開催されなくなったことも含めて、"デッキリストの出所"の1つとして重要度は年々高まっている。

 

また「Hareruya Pros」「BIG MAGIC所属プロ」らプロ・プレイヤーもここを活用している姿が頻繁に確認されている。

しかし必ずしもプロ・プレイヤーと大会にこまめに通う草の根プレイヤーに深い交流があるわけではないようだ。

400人を受け入れる超巨大なデュエルスペースは、大中小さまざまなコミュニティを1つに合併させずに共存させている。

違うコミュニティだからこそ出てくる新しい意見の芽を残しつつも、実際に隣あうように座るなかでは情報の見落としも少なくなっていく。

加えて、この総インターネット社会においても、対外的にはある程度の情報クローズを保つことも可能だ。

非常に独特(ユニーク)な場所だと、利用者の1人としても感じている。

 

この「違う場所で活動する同じチーム」というシステムのスポンサー・チーム。

「同じ場所にいても違うコミュニティ」という形を受容する晴れる屋トーナメントセンター。

この2つの要素が相互作用して、「コミュニティの消失(縮小)」という問題への1つの回答となっていると感じている。

 

③ 「ウェブによる情報共有」

そして、もう1つ。

これもスポンサー体制の確立に付随する要素だが、競技プレイヤーがウェブ上で発表する記事が増えている。

プロ・プレイヤー自体の増加も勿論理由の1つだが、スポンサー・チームが発表の場を用意している。

公平に広く多くのプレイヤーが読めるような形で記事が発表される体制の整備がなされてきている。

 

代表的なものとして、ライターとしてもプレイヤーとしても活躍するまつがんの記事とその評価が日本の現状を指し示している。

彼は現状レベル・プロではなく、またプロを目指す集団に所属しているわけでもない。

しかし競技プレイヤーの1人として、また日本が誇るデッキビルダーの1人として、晴れる屋サイトを中心に記事を上げている。

《死の影》を初めてフィーチャーした【Super Crazy Zoo】を発表したことは、いまや彼の代名詞であり看板の1つなのは間違いないだろう。

 

http://www.hareruyamtg.com/article/category/detail/200

 

そしてつい先日発表したばかりの【エターナル・デボーテ】は《山賊の頭の間》で《献身のドルイド》に速攻を持たせて即時にコンボをスタートする"1ランク上の緑白無限コンボ"として世界の注目を集めた。

 

http://www.hareruyamtg.com/article/category/detail/4250

 

膨大なデータベースとなりつつある晴れる屋サイトに登録されているソリッドなデッキリストを紹介する"週刊デッキウォッチング"連載と合わせて、まつがんの記事を読まずに日本のメタゲームを理解しているとは言えないだろう。

 

http://www.hareruyamtg.com/article/category/tag/%E9%80%B1%E5%88%8A%E3%83%87%E3%83%83%E3%82%AD%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%83%E3%83%81%E3%83%B3%E3%82%B0

 

そして、もう1人。評判高い記事を著すプレイヤーがいる。

グランプリ・シンガポール15優勝でも知られている「BIGs」所属の人見将亮(みっくす)が著す"みっくすはかく語りき"シリーズは、今のモダンを読み解くうえで不可欠な存在だ。

 

http://mtg.bigmagic.net/mt/mt-search.cgi?IncludeBlogs=3&tag=%E3%81%BF%E3%81%A3%E3%81%8F%E3%81%99%E3%81%AF%E3%81%8B%E3%81%8F%E8%AA%9E%E3%82%8A%E3%81%8D&limit=20

 

先日の"グランプリ・神戸2017"に合わせてモダン環境を総括した回が更新されている。

ここまで各デッキタイプの特徴や戦略、サイドボードのイン/アウトが明確な理由とともに詳細に記された"モダンの実用書"は数少ない。

基本的にはMagic Onlineでの膨大な数の戦績を根拠としており、説得力にもひときわ秀でている。

モダン入門書としても、グランプリで勝利を狙う競技プレイヤーにとっても活用できるバイブルと言えよう。

最新回は「マーフォーク」について。環境に存在するデッキをなるべくフラットに満遍なく触った上での意見を述べようというこだわりを感じる。

http://mtg.bigmagic.net/article/2017/06/kiji/hitomimasaaki/11.html

 

もちろん、この2人の記事以外にもマジックをプレイするうえでとても為になる記事は増えている。

逆に言えば、発表されているサイトや記事が日本語圏のサイトで格段に増えているので、誰を・なにを"おさえておけば良い"のかが不鮮明になっているともいえる。

今回は、そのなかから独断と偏見で、お勧めの記事を紹介したい。

これらに目を通しておけば、マジックの最新情報に置いて行かれることはないと断言できる。

【プレミアイベント結果/晴れる屋】

USA Legacy Express

http://www.hareruyamtg.com/article/category/tag/USALegacyExpress

 

Kenta Hiroki氏のタイムリーなイベント報告記事。

毎週更新で先週末までのイベントの結果がデッキリスト共に掲載されるので一括して情報が得られる。

注目カードなどの挙動もかなり掘り下げて紹介されており、競技プレイヤー必見。

タイトルとは裏腹に、スタンダードのメタゲームの推移なども非常に分かりやすく説明されている。

 

【レガシー/晴れる屋】

「のぶおの部屋」

http://www.hareruyamtg.com/article/category/tag/%E3%81%AE%E3%81%B6%E3%81%8A%E3%81%AE%E9%83%A8%E5%B1%8B

 

レガシー強者である斉藤 伸夫選手がゲストを招いてレガシーのデッキテクを紹介するレガシー実用書。

2014年ごろのデッキが主体だが少しずつ更新されている。

ローテーションのないエターナル環境ということで、禁止改定以外では紹介されているデッキが全くいなくなるようなことはあまりない。

消費期限が長い記事ともいえる。

パッと見でひとり回しがしにくいコンボの回から読み始めると、得られるものが多い。

実際に第2回でフィーチャーしている「スニークショー」は現役のデッキだ。

 

【シールド/Dig.cards】

「ライザのシールド環境徹底攻略!」

https://dig.cards/columns/rizer/seald-akh

 

リミテッドといえばライザ。そう呼ばれて久しい石村 信太郎選手がシールドを攻略する。

現状Dig.cardsで発表されているのはRPTQに向けた『イニストラードを覆う影』と『アモンケット』の2記事だが、

彼が著したものが発表された日から世界のシールドが変わるというほど詳細に書かれている。

ドラフトではなくシールドに絞って書かれているところも無二。

 

【背景物語/晴れる屋】

「あなたの隣のプレインズウォーカー」

http://www.hareruyamtg.com/article/category/tag/%E3%81%82%E3%81%AA%E3%81%9F%E3%81%AE%E9%9A%A3%E3%81%AEPW

 

公式の翻訳記事も手掛ける若月 繭子女史による背景物語の解説記事。

詳細な考証と物語世界への深い愛情がマッチした文体で、誰にでも読みやすい形で紹介される

連載期間6年の超長期連載記事なので、興味ある次元の回から開こう。

最近のお勧めはここまでの一大サーガの終着点である「戦乱のゼンディカー」ブロック回。

各キャラクターの掘り下げなどがされている。

 

【初心者向け/mtg-jp】

「金子と塚本の「勝てる!マジック」」

http://mtg-jp.com/reading/katerumagic/index_2.html

 

金子 真実氏と塚本 樹詩氏タッグによるmtg-jp公式連載コラム。完結済み。

順を追って読むことでフォーマットや戦略セオリー、マナベースまで一通りのことが学べる入門書。

メタゲームなどタイムリーな話題はないので、MTGが終わるまで実用的であり続ける。

確率などの具体的な数字も示しており、経験者が読み直しても得るものの多いシリーズ。

順に読んでほしい。ものすごくお勧め。こういう記事が書きたいと常々思っている。

 

【デッキビルダー/遊々亭】

高尾 翔太のデッキ解説

http://yuyu-tei.jp/blog/mtg/categorylist.php?d=cat

 

個人的に行弘選手と比肩すると感じるデッキビルダー、高尾 翔太選手のデッキ解説記事。

自作デッキの紹介と環境デッキの解説が混在するが、やはり自作デッキの紹介回は作者自らの意見が余すところなく読めてお得。

最近では「赤黒エルドラージ」回など。

 

【デッキ紹介/mtg-jp】

デイリー・デッキ

http://mtg-jp.com/reading/iwashowdeck/

【カード紹介/BIG MAGIC】

カード・オブ・ザ・デイ

http://mtg.bigmagic.net/article/show/card-of-the-day/

 

岩SHOWによる毎日更新の紹介記事2種。豊富な知識を背景に、御座なりな文章は1つもない。

BGMのようにするすると文章を読みたい方向け。

「ゼウスと波動機」「Deadguy Red」のように今昔での比較があるような回は、再発見が多い。

 

 

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【初心者向け+4ターンキル/BIG MAGIC】

Damage 4 Wins!

http://mtg.bigmagic.net/article/cat11/damage-4-wins/

 

カジュアル寄りのプレイヤーがスタンダードを中心に新環境の4ターンキルデッキ作成に挑戦する記事。

第1回『白い《ゴブリンの熟練扇動者》』を読んだあとに第11回『《血怒りの喧嘩屋》と相方』がお勧め。

http://mtg.bigmagic.net/article/2017/05/article/%E8%A8%98%E4%BA%8B/%E6%A3%AE%E5%AE%89%E5%85%83%E5%B8%8C/12.html

 

番外編の『Beginner 5 Wins! 2017』も最初の初心者向けに一推し。

http://mtg.bigmagic.net/article/2017/05/article/%E8%A8%98%E4%BA%8B/%E6%A3%AE%E5%AE%89%E5%85%83%E5%B8%8C/12.html

 

【eWallet取り扱い/BIG MAGIC】

「eWalletで賞金を受け取ろう2016」

http://mtg.bigmagic.net/article/2016/07/ewallet2016.html

 

グランプリやプロツアーでの賞金がeWalletというサイトを経由しての支払いに変更になったことを受けての、受け取り方紹介記事。

メガバンク別の記載方法、SWIFTコード一覧等への外部リンクなどサポート充実で、全体の80%くらいはカバーできていると評判。

 

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今回紹介したのはMTG記事のうちのごくごく一部だ。

一部競技の上では直接関係ない戦略記事でないものもあるが、情報は多角的であるべきだろう。

スタンダードのように変遷の早いフォーマットは、幾つかの記事を複合的に読み進める必要がある為、特定のものを挙げていない。

 

ものすごく話が戻って、こうした記事の拡充は「情報戦のための3つの武器」、最後の一振りという話だ。

スマートフォンの普及で記事が出先でも気軽に読めるようになって、スピーディに共有されるようになったのも大きい。

自分は巨大プレイスペースにて練習をしながらにして、他の練習場所の結果・情報を得られるのだ。

 

もちろんこのデジタルガジェットの進化によるメリットは日本特有のものというわけではなく、世界の各コミュニティが共通して持っている。

それでも、他に劣っているとされていた部分が明確に「戦いあえる」ようになっているのは間違いなさそうだ。

 

今一度、"プロツアー・アムステルダム2010"の敗戦で示された日本勢の課題を見直してみよう。

 

①     コミュニティの消失(縮小)

②     海外との練習・情報の差

③     ビルダーの不在

 

これらは、今、どのような現状となっているのか。

 

① スポンサー・チームやトーナメントセンターを中心としたコミュニティの再形成

② 記事の拡充と普及の高速化による海外との情報戦の格差の消滅

③ 行弘選手、高尾選手らをはじめとした新世代のデッキビルダーの台頭

 

このような形となっているように見える。

これらの発想が正しいかどうかはともかく、いま、日本のプロ・プレイヤーはこれまでになく増えている。

(LCC普及によるアジアGPへの参加率増加も要因の1つ―...という話は、別の機会にて。)

 

それは4年前にまつがんが懸念していた「プロ・シーンの勢い喪失」からの、明確なV字回復だ。

具体的な戦績も増えている。

 

プロツアー・戦乱のゼンディカー優勝 瀧村和幸選手。準優勝、玉田 遼一選手。

プロツアー・カラデシュ優勝 八十岡翔太選手。

この4年の間に2人のプロツアー優勝者が増えている。

プロツアー・アモンケットで渡辺 雄也が準優勝、行弘選手が3位入賞などトップ8に2人以上の日本人が入賞する機会も多い。

いま『日本勢は、勝っている』。それは間違いない事実のようだ。

 

それだけではない。

 

グランプリ・静岡2017優勝 桐野 亮平選手。

グランプリ・京都 2015/2017 3位入賞 原根  健太選手。

グランプリ・千葉 2016 準優勝 木原 惇希選手。

 

トップ・プロたちはもちろん、新しいプレイヤーの活躍も目覚ましい。

彼らがプロツアーでその名を馳せる日も遠くないかもしれない。

 

最後に期待を込めて、ひと言。

 

『日本勢は、これからも勝ち続けるのか?』

 

その答えは、未来にある。