くーやんの店舗スタッフ入門 第二回「フェイクを見極めろアゲイン」
タグ:くーやんの店舗スタッフ入門, 日下部恭平, 読み物どうもこんにちは。
BIGMAGIC MTG Managerの日下部です。
以前にマジックのフェイクに関する記事を書かせていただいてからはや3年が経ちました。
1回目 http://www.bigmagic.net/news/0044.html
2回目 http://www.bigmagic.net/news/0088.html
第一回目のタイトルが「くーやんの店舗スタッフ入門」だと言うことすら忘れていました(笑)
再びこうしてフェイクについての記事を書くことはあまり気乗りのすることではありませんが、少しでも皆様に情報を共有出来たらなと思い、筆をとりました。
今回はツイッターで話題になった、ある《暗黒の深部》のフェイクについての記事を書かせていただきます。
偶然にも持ち込まれたお店がBIG MAGIC名古屋店でしたので、現物も入手することが出来ました。
※上記写真はフェイクの物です。
写真では分かりにくいことも多々あるかと思いますが、本物との違いを実物写真を交えて説明していこうと思います。
そして今回は単純なフェイクの見分け方だけでは無く、まずそもそもどうしてフェイクが市場に流れてしまったのか?という現状への個人的な考えも書かせていただこうかと思います。
立場的にも僕が書くのはどうなの?と思われる内容かもしれませんが、皆さまが少しでも良いマジックライフを送れるように考えた結果ですので・・・多少の誤解を生むかも知れませんが、それも覚悟の上で書いていきます。
フェイクの見分け方だけ知りたい方は"その4"の項目まで読み飛ばしてください。
その1 このフェイクの出どころは?
はっきりとした出どころは伏せておりますが「有名店の通販で購入した物」だそうです。
有名店でわざわざフェイクを作っているなんてことは考えられませんので、誰かが作ったフェイクを買い取ってしまい、それが気付かれずにそのまま在庫になって今回のように販売されてしまった、と考えるのが普通でしょう。
その2 有名店なのに見抜けなかったレベルのフェイクなのか?
これは皆さんが疑問に思っていることかと思いますが、僕の答えは「ノー」です。
実際に僕は実物を見た瞬間に違和感を覚え、スリーブに入った状態でも手に持った瞬間に100%フェイクだと確信しました。
国内外問わずマジックを専門的、もしくは主力商品として扱っているようなお店では僕のような・あるいは僕以上にマジックの真贋鑑定に詳しい方々が従事しているはずなので、見抜けないということは無いかなと思います。
ちなみに今回の《暗黒の深部》は、ぱっと見で分からない方でも第一回目で紹介した判別方法で十分に判別可能です。
その3 では何故そのレベルのフェイクが商品に混ざってしまったのか
上記の通り各企業、店舗にはマジックに精通しているスタッフが常駐していると思うのですが、必ずしもそのスタッフが全てのカードをチェックしているとは限りません。
実際BIG MAGICでも所謂パワー9やデュアルランドなどの超高額カードはなるべく僕などの責任者が扱うようにしていますが、一人でこれらすべてのカードをチェックすることは件数的に考えて不可能です。
有名店なら一日に相当な件数のカードを査定したり在庫に入れたり発送していたりするので(もちろんそれらの作業は分担されていると思います)、経験の浅いアルバイトのスタッフがそれらを担当することもあるでしょう。また、どうしても人間がやることなので機械のように100%信頼出来るとは言えません。
実際にフェイクの話ではありませんが、BIG MAGICでもそこそこカードの知識があるスタッフの若い子が
「『タルキール覇王譚』のフェッチランドの日本語Foilの買い取りが来て《溢れかえる岸辺》と《血染めのぬかるみ》の2枚だと思いこんでしまい、買い取って後からよく見たら《溢れかえる岸辺》は間違いなかったが《血染めのぬかるみ》では無くコモンのタップインランドでした・・・」
みたいな冗談のような事案もありますし(笑って許しました)、10800円のカードを見間違えて1080円で売ってしまった、みたいなことも稀ではありますが、確かにあります。
普通に考えればありえないことですが、どんな仕事にもヒューマンエラーはあるよなぁと思っています(もちろん、無くなるようにこれからも最大限の努力は怠らずにやっていく所存であります)。
忙しさや体調の問題なんかで見逃してしまうこともあるのかなぁと思いますし、ましてや「自分の扱っている品物にはフェイクが存在するかもしれない」ということを意識していなければ、多少の違和感があってもスルーしてしまう人もいるかも知れませんね。
とどのつまり何が言いたいかと言うと、基本的には大丈夫なのですが有名店でも100%安心というわけではありません。
もちろんどのお店もフェイクを扱っている可能性があるから買うな!と言っているわけではありません。
カードの販売はどうしても膨大な量の作業を「人間」がしていることなので、万に一つが起こり得ると言うことだけは心の片隅に置いておいて欲しいのです(繰り返し言いますが、基本的にマジックを主体に扱う国内大手は安全です)。
ただし国内のショップから買った場合、悪意があってフェイクを販売したわけではけっしてないと思うので、きちんと伝えれば返品・交換に応じてくれるとは思います。
そういった点を加味すると、やはりオークションや個人バイヤーと取引するよりも、ショップで購入するのが安心かなと思います。
フェイクを販売してしまったお店の肩を持つわけではありませんが、本当にたまたま全員が見逃して販売してしまったのだと思います。
明日は我が身、我々BIG MAGICおよびBIG WEBもより一層注意して、こういったことが起こらないように努めていきたいと、改めて思います。
ということで前置きがかなり長くなってしまいましたが偽物か!?と疑念がちらつくカードに出くわした時にきちんと見分けることが出来るように、今回もフェイクの見分け方を紹介していきます。
ここに来るまでに2度もリンクを張りつけておりましたが、まだ読んでいない方がいればぜひこちらの見分け方も読んでいただけるといいかなと思います。
どちらかと言えばプレイヤーの方よりも各企業、各店舗でマジックを扱っていてまだ真贋鑑定のことが良く分かっていない人に読んでもらいたいなと思って書いたので、店員の心構え的なことも書いていますが・・・その辺はご了承いただければと思います。
その4 見た目で判断できるか見てみよう
それではいよいよ実例を交えてフェイクの見極め方について。
真ん中のカードがフェイクの物です。
どうしても写真だと分かりにくいかと思いますが、フェイクの物は全体的に暗めになっていますね。枠ごとの濃淡もあまりなく、全体的にベタっとした印象があります。
写真よりも実物を見ると全然違うので「この中に偽物がある」と聞かされている状態で現物を見たなら、ほぼ全ての方が見分けがつくと思います。
今回はより分かりやすいように、スキャンして細部まで見ることにしました。
ここにもデータを公開しておきますので、興味がある方は実際見てみて下さい。
(※クリックするとスキャン画像が表示されます。容量が大きいのでお気を付け下さい。)
本物 表面
本物 裏面
フェイク 表面
フェイク 裏面
スキャンして見ることによって何点か分かりやすい違いも見つかりました。
まず一番分かりやすいのが、コレクター番号の間にある「/」ですね。
本物よりもフェイクの方が明らかに濃く少し太いです。
またアーティスト名の横のペンのようなロゴも、よ~く見てみると少し違いますね。
これらは分かりやすいようにスキャンした画像を掲載していますが、わざわざそんなことしなくても実物の物を見比べれば分かるレベルの物です。
このように注意してみれば、単純な見た目だけでも十分に区別のつく物だと分かってもらえたかと思います。が、やはり何も気にしていなければスルーしてしまいそうなので、日頃から「高額カードには偽物があるかもしれない」という意識をほんの少しでも持っておくことが大事なのかなと思います。
さらに裏面を見てみましょう。
裏面は特に分かりやすくて明らかに印刷が雑です。
今回はさらに、スマートフォン用の拡大鏡を取り付ける形で違いを撮影してみました。
こんなやつを使います!
まずこちらが本物の裏面の文字をレンズを通してみた場合の写真です。
そしてこちらがフェイクの物を同じ条件、ほぼ同じ位置で撮影した物です。
二つ並べると違いが分かるかと思います
※左が本物です。
あきらかにフェイクの印刷が雑ですね。
さらに分かりやすくするために、ここからカメラのズーム機能も使って拡大してみましょう。
マジックの本物のカードの裏面は、左側の画像を見てもらうと分かる通り拡大すると色のついたセルが規則正しく並んでいる構造になっていますが、フェイクの物にはそういった様子が見られませんね。
表面は気合いれて作ったけど裏面は自分たち(製作者)が一目で分かるようにあえて粗く作ったのかもしれませんね(カードのみならず、偽造するような人たちは必ず自分たちは見分けがつくようにあえて分かりにくいところに違いを残す、というような話を聞いたことがあります)。
スマートフォンに取り付けられる拡大鏡は何かと役に立つことが多いので、店舗に従事している皆様・ご自分のカードを詳しく見てみたい皆様は導入してみてもいいのではないでしょうか?
というわけで、見た目にも判別がつくポイントはけっこうありますが・・・次はさらに別の角度からも検証していきましょう。
その5 重さを量ってみよう
手に持った時にちょっと重さが違う気がする、厚みが違う気がする・・・と違和感を持った時は、秤で量ってみるのも良い方法です。
人間の感覚は思った以上に優れているらしくほんの少しの違いでも感じ取れるようになっているようなので、違和感を覚えた時点でそれが正解だったようなこともあるそうですね。
話が脱線しましたが、とりあえず秤に乗せてみましょう。
まずは本物を乗せてみましょう。
マジックの通常のカードの重さは大体1.75グラム前後と言われています。これより極端に重かったり軽かったりした場合は、フェイクの可能性が高いですね。
ただし湿気を吸っている物や状態が悪い物、汚れが付着している物などは重さだけで判別するのは難しいので、これだけではなく他の方法も組み合わせるのが効果的だと思います。
《暗黒の深部》数枚と他のマジックのカードも量ってみましたが、やはり1.75グラム前後ですね。0.01単位でズレているのはあまり気にしなくてもいいです。では、いざフェイクの重量は・・・?
1.88グラム!ということで、これだけ極端に他のカードよりも重いですね。
わずか0.13グラムの違いに違和感を覚えられる人間の感覚にも驚かされますが、こうして量ってみると分かりやすいですね。
目安としては、1.8グラムを越えたものはかなりフェイクの可能性が高いです。
このように重さを量ることでも判別する方法はありますので、どうしても気になる方はぜひ一度やってみて下さい(上述の通り、状態の悪い古いカードには向いていません)。
その6 手で触ってみる
写真では伝わらないことなので簡単にだけ説明しますが、今回の《暗黒の深部》フェイクに関して最も分かりやすい違いは、手触りです。
目を閉じて同じ言語の他のカード数枚と混ぜてシャッフルした後でも手触りだけで判別出来るほどの違いがあります。
英語版のカードなのに『テーロス』日本語版の頃のようなヌメっとした手触りなので、これと同じような英語版のカードがあればフェイクの可能性が高いです。
ただし同じ英語のカードでもイベントデッキに入っていたカード達は異なる印刷、手触りの場合もあるので(《恐血鬼》や《新緑の地下墓地》《石鍛冶の神秘家》なんかはけっこう印刷の違う物が存在します)そういったカードの場合は手触りだけでなく何通りかの方法で調べることをオススメします。
その7 終わりに
今回紹介したように手触りや見た目、重さでも判別できますがこの《暗黒の深部》は他にも第一回で紹介したカードの側面を見る方法やライトを透かす方法でも判別することが出来ましたので、皆さんが危惧するような本物そっくりの精巧な物ではなかった、ということをここに宣言しておきます。
とにかく文中でも何度か言いましたが「違和感を覚えた時」、それは大体正しいことが多いです。
もちろん思い過ごしのこともありますが、何か感じた時はめんどくさがらずに何点か、上記の方法を組み合わせて確認してみることをオススメします。
変に構える必要はありませんが、ちょっとだけでも意識しておくと効果のあることだと思います(特に店舗に従事している方へ伝わればいいなと思います)。
業界全体が今一度フェイクについて、強く意識・注意喚起することによって少しでも世に蔓延るフェイクが無くなれば良いなと、それだけを思って書きました。
長々となりましたが、今回も記事を読んでいただいてありがとうございました。
何かご自身がお持ちのカードで気になる点や質問などあればお気軽に@kuuyanbmまでご質問下さい(ご連絡にお時間がかかる場合もありますし写真だけでは分からないことの方が多いと思いますがご了承下さい)
おまけ~もっともっと精巧なフェイクもある編~
今まで発見されたフェイクの中には、今回よりも精巧な物もあります。
俗に言う「CEフェイク」と言われる物などはまさにそれで、コレクターズエディションと言う公式で作られた金枠のコレクターズアイテムを悪用して作られた物です。
※見たことある人もいるのではないでしょうか?
このカード、裏面は金枠に加えて特殊な文字が入っているので一目で通常のカードと見分けがつくのですが、表面は本物の印刷と本物の紙で作られておりますので、即ち本物のベータ版とまったく同じ物です。
この特性を悪用して、特殊な技術で表面だけを一旦剥がし、裏面だけ別の表面を剥がしたカードと合わせて糊付けすることによって「本物で出来た偽造カード」が出来るのです。。
もう一つ、コレクターズエディションは四隅のエッジがカットされていない"スクウェアカット"であるという特性もありますが、当然そこもうまくカットされている物が多いです。今手元にある物に関しては、アルファ版風にカットされている上にわざと使い古されたように汚れた痕までつけてあります。
正直パワー9のアルファ版なんて見慣れていないので、僕もぱっと見では分かりませんでした。
ですが、もちろん注意してチェックしてみると...何箇所か、普通のカードと異なる点があります。
写真では伝わりませんが、糊で貼り合わせしてあるためほんの僅かですがデコボコしているような印象があります。
また四隅もほんの僅かですが浮いている?違和感があります。
また他のアルファのカードと比較しても四隅のカットが少し違うようにも感じられます。
見た目では分かりにくいですが、ライトチェックで疑惑は確信に変わりました。
※左がフェイクの物です
もちろん本物同士を貼り合わせたフェイクなの、で一見ライトは通しますが・・・
※左がフェイクの物です
角度を変えると、真実が分かります。
通常のカードの光の通し方と比べると、明らかにフェイクの方はカードとカードの間にまばらに「黒いシミのような物」が観察できます(おそらく糊です)。そして、光の通り方がカード全面で均一ではありません。
他にも匂いや表裏などのセンタリングのズレなどを見て判断したりしますが、これらは文章で伝えるのは難しいので割愛させていただきます・・・正直僕もまだまだ勉強中ですので、これからもどんどん知識を増やして皆さんに共有していけたらなと思っています。
ちなみにこのCEフェイクは、『インベイジョン』が発売されていた頃には既に存在していたそうなので、相当前の物と言うことになりますね。実際、元の持ち主も気が付かずに使用していたそうです・・・特に高額の物は偽造する側も精巧に作って売ろうとすると思うので、やはりオークションや得体の知れない海外の個人から買うよりは、少し高くても国内の大手で購入されたほうが賢明かと思います。
おまけなのに長くなってしまいましたが今回の記事はここで終わりとさせていただきます。
また次回、願わくばフェイクの記事以外の店舗スタッフ入門シリーズ第3弾でお会いしましょう!