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『計られるゲーム・スピード』
4枚の《思考囲い》と、マナ・クリーチャー(《エルフの神秘家》《森の女人像》)の不在から、デッキが意識するゲーム・スピードはかなり遅いものなのが分かります。 実際に有効的なクロックを形成するのが第4ターンの変異(《棲み家の防御者》か《死霧の猛禽》)による2点アタック。 エンド・カードである《太陽の勇者、エルズペス》が即時にゲームに勝利する性質のカードでないことからも、ゲームのエンド・ターンは第8ターン以降なのが分かります。
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ゲームが第8ターンまで行われると想定すると、《太陽の勇者、エルズペス》と、他に、それぞれ2枚の《黄金牙、タシグル》《英雄の破滅》《命運の核心》のいずれかを引く確率はかなり高まります。 それぞれが1枚ずつしか入っていないと、《太陽の勇者、エルズペス》かこれらのうちいずれか1枚を引くというような数字になります。 明確にはエンド・カードとしての性質を持たない《黄金牙、タシグル》《英雄の破滅》《命運の核心》では、1枚引いただけでは少し力不足という側面もあると思います。
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『探さないサーチ・カード』
また、デッキのうち7枚の占術土地と10枚の特殊なサーチ・カード、4枚のドロー・サポートがあるのも見落とせません。 占術土地は、特定のカードを引くことだけを考えた場合、不要なカードを下に送ることで1ドロー分だけ掘り進めます。
他に今回のサーチ・カードはいずれも"ライブラリーから探す"という性質を持たないのが特徴的です。 基本的に"墓地から選ぶ"ものになっています。 《サテュロスの道探し》、《棲み家の防御者》、《黄金牙、タシグル》の3種類ですね。
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特に《サテュロスの道探し》は3種類ともいえる効果があります。
1つ目はテキスト通り、土地・カードを手札に加えてマナ・ベースを安定させること。 特に第3ターンのセット・ランドがタップインかアンタップインかは大きくゲームに影響します。 3マナの呪文が強いデッキとして、第3ターンに強い動きを取れるかどうかは先手後手の入れ替えにも繋がります。 そうすると2マナの《サテュロスの道探し》で、上から4枚のうちの最も適した土地を入手出来るのは素晴らしいです。
2つ目は土地以外の3枚のカードを墓地に送り、肥やせることです。 これは主に《棲み家の防御者》、《黄金牙、タシグル》に繋げる為の準備アクションです。 本来、カード1枚を使って行う程の効果ではないですが、1つ目の副次(オマケ)効果としては十分です。
3つ目は、2つ目の更なる副次効果です。 ライブラリーの枚数が4枚減ることによって、"墓地に落ちなかった"特定のカードがトップにある確率が上がります。
次の第3ターンのドローでその確率は2/48となり2/47→2/46...第8ターンのドローでは2/43まで引き上がります。 その地点で、特定のカードを引ける総合的な確率は約44%。 《サテュロスの道探し》を経由しない場合の1割増しとなり、かなり50%に近づいてきました。
この3種類の効果の相互影響を踏まえると、《サテュロスの道探し》はデッキを回す上での"潤滑油"と言えるでしょう。 戦闘に関するスペックは最低とも言えるものながら、市川ユウキ選手が明確にキープ基準にする理由の一部だと考えられます。
《サテュロスの道探し》によって準備された《棲み家の防御者》と《黄金牙、タシグル》は、より直接的にハンドを補充する能力です。 特に《棲み家の防御者》は計5マナを支払って"墓地から好きなカードを引く"とも言える能力です。 積極的に沢山のカードを墓地に落とすことで《棲み家の防御者》というカードそのものの質を上げることにつながります。 対比的には、戦闘に関するスペックは"悪くない"ぐらいのものだと思います。
《黄金牙、タシグル》のサーチ能力は先に挙げた2つに較べると緩慢で不確定です。 自身の探査能力によって最初のコントロールこそ効くものの、常に"見えない2枚"が墓地に落とされることで、不確定の要素が取り除かれることはありません。
また起動コストも踏み倒せない4マナ。第8ターン以降を想定しない場合、同じターンに2回起動できないので、急速に手札が増えるということもありません。 この3つのカードのうち、伝説であることを踏まえても、《黄金牙、タシグル》が最も採用枚数が控えめな理由でもありそうです。 人によっては"弱い"と断言しているのも、このあたりの緩慢性が指摘されてのことですね。
ただ、第12ターンを迎えるような非常に遅いゲーム・スピードの展開や、逆に《棲み家の防御者》の変異能力がスムーズに行えないハイスピードのゲームでは評価が変わります。 遅いゲームでは複数回起動できる能力が。早いゲームでは探査から早急に登場して4/5という《かき立てる炎》に負けない高い戦闘スペックが、噛み合います。
ドロー・カード枠の《アブザンの魔除け》は3つのモードを持つことでハッキリ3種類の仕事が出来るカードです。
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特に、白のモード「パワーが3以上のクリーチャー1体を対象とし、それを追放する。」は非常に強い除去なので、ドローとして使われないこともかなり多いです。
緑のモード「クリーチャーを1体か2体対象とする。それらに2個の+1/+1カウンターを好きなように割り振って置く。」も強いですね(上海での市川選手はこのモードで勝利されていた印象が強いです)。
《棲み家の防御者》は勿論、《包囲サイ》といった同サイズのクリーチャー戦にも有用なことから、同じほどハンドを消費する同系戦でもモードの選択は難しそうですね。 また非常に強力ながら、マナシンボルが重い(色の拘束が厳しい)ので、ここでも《サテュロスの道探し》による安定が求められています。
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『全体で見た構成枚数』
こうしてみると、デッキの回りを助けるサーチカード・ドローサポートともに《サテュロスの道探し》を基軸にしているのが分かります。 デッキにカードを1枚入れた場合と2枚入れた場合の引く確率の差が、より顕著になるということも分かりました。
アンタップイン土地8枚を含む土地が24枚なのも、第5ターンまではしっかりと土地を引きたいという目線からも適正な枚数だと思います。 サーチを助ける占術土地の7という枚数も、少なくとも減らすことは無いと思います。
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少数枚のスペルのうち唯一攻めるカードである《太陽の勇者、エルズペス》が、同型デッキでの平均的な枚数である2枚から3枚になっているのも、勝てるカードを引ける確率を上昇させているという視線で、このリストの強みです。
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こうして考えていくと、市川選手の「61枚目(余分なカード)はなかった。」という発言の意図が少し分かったかもしれません。 "理想の60枚に辿りつく過程のデッキ"ではなく、この形の時点で"完成された61枚のデッキ"だということです。
ツールボックス(サーチする1枚挿しが多い・シルバーバレットとも)デッキでは、全体のドローの確率よりも、そのカードがデッキに入っていること自体の方が強みであることが多くあります。 ※《召喚の調べ》デッキでは《再利用の賢者》の有無がメイン戦の相性そのものにも影響する場合もあります。
"ライブラリーから探す"という性質を持たない今回のサーチ・カードに対応させる為に、サーチ先の1枚挿しを2枚にした。 という目線から考えると、大切なのは60枚に納めることではなさそうです。
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『61-1=60 ○?×?』
それでも他に情報がなく、この61枚から1枚を減らしなさい。と、筆者が面と向かってカードを渡されたなら、考えた後、挙げるカードがあります。
《死霧の猛禽》です。
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このデッキは第8ターンあたりをエンド・ターン(勝ち負けを決める大きな山場)にするロング・ゲームだと考えていると書きました。 なので、第3ターンから第5ターンごろの中盤に真価を発揮する《死霧の猛禽》は1枚だけ引いて、《棲み家の防御者》で使いまわすプランが強いと思っています。 他に重量級のカードが多いのでダブル・アクションしにくく、攻める上で圧倒的なクロックを誇るわけではないのも対比して若干ですが評価を落としました。
ですが、あくまで他と比べて、若干です。 "《死霧の猛禽》は強いから4枚!"と言われたら、そうですよね。強いですよね。と言ってしまうくらいの差です。
筆者ではなく、皆さんがこの"61枚のリスト"を見て、"市川ユウキのGP上海調整録"を読まれて、どう思ったのか、どう考えたのかを知りたく、今回筆を取りました。
Damage 4 Wins!の第2.5回(PT優勝の赤単リスト)の時もそうなのですが、どうしてこのリストになったのかを勝手にわちゃわちゃと考えて書くの、好きです。 皆さんともっともっと"強いリスト"・"61枚のリスト"の話、したいです。 今回は"初手にないカードを引くための61枚"の話を書きましたが、"理想の初手のための63枚"の話も、どこかでしたいです。 どのような形でも構いませんので、感想など送っていただけたら、嬉しいです。 (編:このゑ@ハリー:文章置き場 森安氏のブログです、ご意見はこちらにコメントしていただいてもOKとのこと。)
それでは最後まで読んでくださって、ありがとうございました。 グランプリ・千葉、久しぶりのプレイヤー参加でとても楽しかったです。森安でした。
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