Damage 4 Wins! 第7回『イニストラードの部族ビートダウン』

タグ:, , ,

Damage 4 Wins!

『イニストラードの部族ビートダウン』




Text by 森安 元希

 

『モダンの変遷』

先日、モダンフォーマットにて4ターンキルの代名詞の1枚、《欠片の双子》が禁止となりました。
制定以来、覇者の一角であり続けた【欠片の双子】の陥落はモダンを激変させるに十分な出来事です。

(デッキタイプ【欠片の双子】=《詐欺師の総督》本体に《欠片の双子》をエンチャントし、タップして出した《詐欺師の総督》トークンによって本体をアンタップ。制限なく行えるこの無限速攻トークンによって1ショット・キルを狙う赤青主体のコントロール・コンボデッキ。禁止前、4回行われたプロツアーのうち2回を優勝した。)

 

 

今度は《難題の予見者》と《現実を砕くもの》を獲得した【エルドラージ】の隆盛によって環境は再定義を余儀なく迎えることとなり、モダンの主力デッキは大きく割合を変更しました。

(デッキタイプ【エルドラージ】=《ウギンの目》と《エルドラージの寺院》によるマナ加速により、『戦乱のゼンディカー』ブロックで獲得した軽中量級のエルドラージを高速展開するビートダウンデッキ。プロツアー『ゲートウォッチの誓い』ではトップ8に6人を輩出した。軸となる色拘束が緩く、様々なカラーバリエーションを誇る。『ゲートウォッチの誓い』発売から2か月と少しという短期的な期間で《ウギンの目》が禁止されることとなった。)

 

しかしながら、《ウギンの目》と《エルドラージの寺院》のないスタンダードフォーマットでは、【エルドラージ】の脅威は限定的です。ゲームスピードとしてはミッドレンジと呼ばれる、中間に位置する速度のデッキタイプというポジションであり、速さという方面から環境を定義するものではありません。

 

速度の指標という観点では【アタルカレッド】がスタンダードを定義づけ続けてきました。

(デッキタイプ【アタルカレッド】=《僧院の速槍》《ケラル砦の修道院長》といった果敢クリーチャーを並べて《アタルカの命令》などのパワー修正のスペルで一気にライフを詰めるウィニーデッキ。)

 

 

『スタンダードのローテーション』

 

断続的・不定周期のモダンの禁止改定と違い、スタンダードはローテーションによって環境が変化します。

『イニストラードを覆う影』の発売を迎えると同時に、『タルキール覇王譚』と『運命再編』がローテーションから外れます。

『タルキール龍紀伝』『マジック・オリジン』『戦乱のゼンディカー』『ゲートウォッチの誓い』『イニストラードを覆う影』という少し変則的な5セットによるスタンダードが開幕しました。

まだまだ未知である新スタンダードでは、どういった変化が予測できるでしょうか。

幾つかピックアップしてみましょう。

 

 

『4色デッキの退場』

『ゲートウォッチの誓い』発売以降は【マルドゥグリーン/ナヤブラック】【4色ラリー】のような4色デッキがTier 1(使用者率最上位)に位置づけられていました。

 

(デッキタイプ【マルドゥグリーン】=《包囲サイ》と《ゴブリンの闇住まい》をクリーチャー戦力に、白緑黒赤の優秀な呪文で盤面をコントロールする、アドバンテージを損失しないカードの多いミッドレンジ・コントロールデッキ。最終期、市川ユウキによってマナ基盤の強化と《神聖なる月光》をメインから採用した派生【ナヤブラック】が登場した。)

 

(【4色ラリー】=白青黒緑の優秀な軽量クリーチャーを大量に展開し、中盤以降は《先祖の結集》でそれらを墓地から一斉に引き戻して《ズーラポートの殺し屋》や《ナントゥーコの鞘虫》の能力に利用してライフを削りきるビートダウン・コンボデッキ。アクションや選択肢の幅広さから、プレイングは難解だが強力。との評価が多かった。)

こうした4色デッキはフェッチランドや氏族(3色タップイン)ランド、また『タルキール覇王譚』のカードを最大限に活用していたもので、非常に多くのパーツを喪失することでデッキの根幹が無くなりました。

多色のマナ基盤の弱体化という観点で、『4色デッキ』はなくなる。少なくとも、大幅に数を減らすでしょう。

想定されるゲームスピードによっては3色デッキも遅いと判断され、2色にまとまることが増えそうです。

 

 

『新しい土地サイクルの性質』

《港町》から始まる5枚のレア土地カードが新しくマナ基盤に加わりました。

条件を満たせばアンタップ状態で戦場に出せる友好色(白青/青黒/黒赤/赤緑/緑白)の2色土地です。

まだ一般的ではありませんが、ここではこれらを『SOIランド』とします。

(『シャドウランド』と呼ぶ人たちもいるようです。)

 

SOIランドは『戦乱のゼンディカー』のバトルランド同様、2色をサポートしますが、役割が大きく異なります。

少なくとも3ターン目でなければアンタップで置けなかったバトルランドに対し、SOIランドは1-2ターン目からマナを出せる可能性があるのです。

前環境における【アタルカレッド】の特徴であった「2色のビートダウン戦略」を強力にサポートすることでしょう。

 

 

『変身システムが諫めるスピードの差』

旧『イニストラード』ブロックより、変身のメカニズムも再録されました。

『マジック・オリジン』の両面プレインズウォーカーと異なるのは、殆どが第2面もクリーチャーであり、第1面と使い道が全く変わるのではなく、単純に強化されるということです。

 

20160323230225

 

そして『呪文を唱えない』という変身条件によって、初動が3-4ターン目というようなデッキは、1-2ターン目の変身クリーチャーの勢いに押しつぶされかねません。中でも《ラムホルトの平和主義者》は優秀なサイズから注目を集めています。

コントロールのようなデッキも、こうしたスピードあるカードに合わせて軽量級の対策カードを一定枚数、採用することになるでしょう。

 

 

『ビートダウンをサポートする環境』

『4色の退場』『SOIランド』『変身』から共通して想定できるのは、環境を最初に定義づけるものとしての『2色ビートダウン』の登場です。

序盤から繰り出せるアタッカーが豊富なイニストラードの3部族【吸血鬼】と【人間】、【狼男】の3種類のデッキタイプがそこに位置することになりそうです。

それでは、この3種類のデッキタイプはそれぞれデッキタイプとしてどんな性質を持つのでしょうか。

実際に何枚かをピックアップして、比較してみましょう。

 

 

デッキタイプ【吸血鬼】

207027028
287101

 

1ターン目《ファルケンラスの過食者》

2ターン目《ファルケンラスの後継者》

3ターン目《戦争に向かう者、オリヴィア》

4ターン目 《ファルケンラスの後継者》を変身させて《マラキールの解放者、ドラーナ》をマッドネスで唱え、《戦争に向かう者、オリヴィア》で強化する。

これで丁度20点です。最もオーソドックスな【赤黒吸血鬼】としてのパターンです。

必要なカードはクリーチャー4枚、《戦争に向かう者、オリヴィア》の能力で1枚、土地が3枚(赤/黒/黒)の8枚です。

パワー2⇒パワー2~3⇒パワー3+αと順調に展開できます。

飛行クリーチャーが多いので相手のブロッカーに悩まされにくいのが特徴です。

 

デッキタイプ【人間】

012107005

1ターン目《ドラゴンを狩る者》

2ターン目《サリアの副官》

3ターン目《アラシンの先頭に立つ者》

これで4ターン目23点です。【人間】はタルキール龍紀伝の【戦士】とも組み合わせやすいため、ダメージの底上げが可能です。

(デッキタイプ【戦士】=タルキールブロック全体でフィーチャーされた戦士クリーチャーのビートダウンデッキ。【アタルカレッド】とほぼ等しいキルターンスピードを持ち、GP神戸2015を準優勝している。

主要カードの1枚《刃の隊長》が今回のローテーションで落ちた。)

 

この場合に必要なカードはクリーチャー3枚、土地も3枚(白/1/白)の6枚と枚数が少なく済みます。

必要なパーツが少ないということは、再現しやすいということでもありますね。

《サリアの副官》や《アラシンの先頭に立つ者》によって同程度のサイズの戦闘で有利です。

 

 

デッキタイプ【狼男】

043051037
044052038

 

1ターン目《村の伝書士》

2ターン目《内陸の木こり》

3ターン目《ガイアー岬の山賊》

【狼男】はクリーチャーが毎ターン変身すればこれで4ターン目22点です。

使用枚数は【人間】と同じくクリーチャー3枚、土地3枚(赤/緑/1)です。

変身は相手のアクションそのものに依存するため最も不安定な要素ですが、かわりに達成した場合はP/Tにも修正がかかり、1枚の強さが大きくゲームに影響する中長期戦ではとても強力です。

※また殆どの第1面は人間でもあるので、【人間】と組み合わせることも検討できます。

 

【吸血鬼】【人間】【狼男】三者三様の特色があることが分かりました。

この3サンプルのうち使うカードの枚数と色が少ない【人間】が最も4キル・シチュエーションの再現が簡単そうです。

今回は【人間】に絞って、デッキを考えてみましょう。

 

 

【1マナ】

まず主軸となる1マナ・クリーチャーからピックアップしていきます。

4ターン目までに6点を与えるクリーチャーであることが望ましく、人間でそれを満たすのは4種類います。

白の3種類《ドラゴンを狩る者》《アクロスの英雄、キテオン》《探検隊の特使》のうち、《ドラゴンを狩る者》が戦士シナジーで優先されます。《アクロスの英雄、キテオン》も強力ですが、4ターンキルを目指す上では伝説のデメリットが影響を及ぼすので、《探検隊の特使》の次点となります。

23_jpn
4b8c2ea6c4de94dd189079ab832fb116

 

これらの1マナクリーチャーのうち1枚を先手1ターン目の手札に含まれるようにするためにはデッキに9枚いれておく必要があるので、4:4:1の配分にします。

 

4b8c2ea6c4de94dd189079ab832fb116

 

プレイしたターンに対して、4ターン目までに合計で何点ダメージを与えるかも、上記のように表にしていきます。

 

 

【2マナ】

2ターン目にプレイして最もダメージが大きくなるのは、《サリアの副官》と《領事補佐官》の2枚です。

しかし自身のパワーだけの計算だけではなく、隣のクリーチャーの数によっても値が変わるので、『期待できる値』ということになります。

《サリアの副官》は1,3,4ターン目に人間・クリーチャーを展開した場合、8点。

《領事補佐官》は4ターン目の攻撃している人間・クリーチャーが他に2体の場合、7点です。

 

4b8c2ea6c4de94dd189079ab832fb116

2マナを2ターン目にプレイするためには、8枚採用しましょう。

ターン毎のリストにすると顕著ですが、"高名"を達成したあとの2度目の攻撃時に値を大きくする《領事補佐官》よりも、出たターンに+1/+1カウンターを乗せて即座に影響を及ぼす《サリアの副官》の方がハッキリとダメージに貢献し続けることが分かります。

 

 

【3マナ】

3マナはやはり《アラシンの先頭に立つ者》が強力ですが、これの能力はかなり不安定です。

《ドラゴンを狩る者》との戦士シナジーの他、自身の二段攻撃によって2ターン目の《領事補佐官》、4ターン目の《サリアの副官》からも大きく影響を受けます。

4b8c2ea6c4de94dd189079ab832fb116

ぶれがあるので難しいですが、1ターン目のアクションが《ドラゴンを狩る者》の場合を表記します。

 

3ターン目に3マナをプレイする場合、6枚程度あるのが望ましいので、もう1種類他のカードの余地があります。

 

 

【4ターン目】

4ターン目のみ少し採用基準が変わります。4ターンキルにおいて、4ターン目は速攻を持つクリーチャーか、既に戦場に出ているクリーチャーにパワーの修正を与える手段が必要となります。

白のカードでは(4マナではありませんが)《天上からの導き》のような全体に一時的な修正を与えるカードが最も適しています。

 

4b8c2ea6c4de94dd189079ab832fb116

3ターン目にプレイしても4点程度が期待できますが、2マナのクリーチャーがどちらも「3ターン目に人間・クリーチャーを展開していること」を前提としている打点のため、実質的に合計からマイナス2点され、加点としては2点になります。

この場合、殆ど合計点に貢献しないため、できれば攻撃クリーチャー3体を用意して4ターン目にプレイしたいです。

1,2ターン目に合わせて3体の1マナクリーチャーを展開した場合には、3ターン目のプレイも有効的となります。

(0→2→12→6で4ターン目になにも合わせなくても4ターンキルです。)

 

また『速攻を持つクリーチャー』という観点からは、色が違いますが《無謀な奇襲隊》がデッキにかみ合っています。

速攻を持たない1-2マナのクリーチャーの枚数が多い為、適切なプレイターン目以降にこれらを引いてきた場合、優先して出せるタイミングがありません。

4ターン目に《無謀な奇襲隊》が怒涛することで1-2マナがダメージのソースとなることは、ドローの前後不順を調整する上で、見た目以上に優秀です。

仮に1T目《ドラゴンを狩る者》、2T目《アクロスの英雄、キテオン》からの3T目《天上からの導き》で、3T目までで10点。という弱いパターンの動きだった場合も、4T目のドローで《サリアの副官》を引ければ《サリアの副官》+《無謀な奇襲隊》で合わせて10点はいり、20点に達します。

 


4b8c2ea6c4de94dd189079ab832fb116

1,2,3ターンと展開し続けて《サリアの副官》以外の1-2マナクリーチャーと一緒に速攻する場合が8点です。

※1T目《ドラゴンを狩る者》、2T目《サリアの副官》、3T目《アラシンの先頭に立つ者》、4T目《サリアの副官》+《無謀な奇襲隊》で37点が最大点数の組み合わせです。打点を目指す場合は、これが理想となります。

 

【アクションの補強】

ここまでで合わせて29枚。《無謀な奇襲隊》を有効活用するためには4ターン目に4マナが必要となるため、土地は24枚程度必要なので、29+24の53枚まで決定しました。

 

残りの7枚は、ここまでのカードのなかでアクションが不足しているターンを補強できるカードを採用していきましょう。

《アラシンの先頭に立つ者》のダメージが不安定であること、《サリアの副官》、《領事補佐官》、《無謀な奇襲隊》の能力から、『2マナ以下の軽量の戦士・人間』を採用すると振れ幅が狭まりそうです。

候補は幾つかありました。《隠れたる龍殺し》、《光歩き》、《コラガンの野心家》、《族樹の精霊、アナフェンザ》、緑の《棲み家の防御者》の5種類です。

《族樹の精霊、アナフェンザ》は人間・戦士ではありませんが、多くのシナジーを持ちます。2枚採用したいところですが、伝説なので自身とも相性の良い《光歩き》と散らします。

4b8c2ea6c4de94dd189079ab832fb116

 

3ターン目のアクションの少なさは依然、問題です。クリーチャー2体のところで《天上からの導き》を打って後続が続かないような事態は出来るだけ避けたいです。

シナジーを保ちつつ候補となるのは、《イロアスの勇者》と《永遠の見守り》の2種類です。

4ターンキルの補強という意味合い以外にも、中長期戦を見据えた場合、《永遠の見守り》に軍配が上がりそうです。

4b8c2ea6c4de94dd189079ab832fb116

 

4ターン目に《無謀な奇襲隊》を怒涛する場合、3ターン目は6点に達します。

能動的なアクションの手数はこれである程度確立できました。

残り3枚は動きを阻害する他の要員を減らすカードを採用しましょう。

1つは《ゲトの裏切り者、カリタス》のような1枚でこちらの動きが止まってしまうブロッカーを出された場合です。

もう1つは土地を引きすぎてしまって手数が著しく足りなくなる場合です。(土地が少ない事故に関しては、ある程度緩和できる構築になっています。)

新しい画像

 

最後に土地を調整してメインボード完成です。

4b8c2ea6c4de94dd189079ab832fb116

 

【白タッチ《無謀な奇襲隊》人間】サンプルリスト

8a6f58be090584601728086e40a8cf22

 

【サイドボード】

サイドボード戦では《光輝の炎》などの全体破壊サイドインが想定されます。

《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》や《大天使アヴァシン》などの攻め方の違うカード、また《難題の予見者》で対策カードそのものを抜いてしまいましょう。

(土地に《コイロスの洞窟》が採用されているのは◇マナを確保するためです。)

9dc9446d - コピー
4b8c2ea6c4de94dd189079ab832fb116

 

 

【最後に】

今回、メインボードでタッチカラーして採用しているカードが《無謀な奇襲隊》のみなので、他のサブカラーに切り替えることも簡単です。特に友好色である青には《聖トラフトの祈祷》が、緑には《ラムホルトの平和主義者》を筆頭とした2マナの変身クリーチャーたちや《ドロモカの命令》があります。

 

今回は想定する限りでは一番4ターンキルの確率が高いと考えた《無謀な奇襲隊》型を紹介しましたが、SOIランドを採用できる青型と緑型にもメリットは数多くあります。

また、リストによっては3色構築を含めたより良い別のカラーリングがあるかもしれません。

【吸血鬼】や【狼男】のポテンシャルもまだまだ引き出しがありそうです。

『イニストラードを覆う影』環境、皆でこれから沢山楽しみましょう。

 

それでは、森安でした。不定期連載の為間が空きましたので、久しぶりのDamge 4 Wins!でした。

長らくの文章、お付き合いいただきましてありがとうございました。