Damage 4 Wins ! 第8回[異界月。緑と黒の4ターン・キル]
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Text by 森安 元希
『異界月』
『イニストラードを覆う影』の第2セットの全容が明らかになりました。
2009年に発表された『ゼンディカー』以来、連綿と続いてきたエルドラージ・サーガの一旦の終決が描かれました。
そして『マジック・オリジン』でフィーチャーされた5人のプレインズウォーカー(※)が初めて結託したエピソードです。
これまで複雑に絡みあっていたストーリーラインが初めてまとまりを見せました。
(※ギデオン・ジュラ、ジェイス・ベレレン、チャンドラ・ナラー、ニッサ・レヴェインらがゼンディカー次元で宣言していたエルドラージ撃退を志す"ゲートウォッチの誓い"に、今回リリアナ・ヴェスが加入しました。)
『スタンダード』
またイニストラードの生き物たちがエルドラージへと変わりゆくシーンが多数カード化されました。
変身ギミックのアレンジとして合体ギミックの新登場も大きく話題となっています。
セットとして全体のカードパワーが高いという評価も広く聞こえてきています。
『タルキール龍紀伝』『マジック・オリジン』、『戦乱のゼンディカー』『ゲートウォッチの誓い』、『イニストラードを覆う影』『異界月』。
3ブロック制で初めて最大のカードプールを迎えるスタンダードはどのような変遷を迎えることになるのでしょうか。
『相手を低速化させるカード』
今回、既に事前に評価されているカードの幾つかに共通点があります。
"相手の展開のスピードを低速化させる"ことが強いカードです。
最も顕著な例が《異端聖戦士、サリア》です。
マナ基盤もブロッカーの展開も1ターンずつ遅らせることで、合わせて2ターンずれこませることも期待できます。
3色デッキは再び数を減らすようになるかもしれません。
《呪文捕らえ》は呪文版《忘却の輪》ともいえる能力も評価が高いです。
《変位エルドラージ》とのコンビが期待されていますね。
これらを採用して、相手とゲームスピードに差をつけている間に勝ち切るようなデッキの隆盛が予測されています。
『自分を高速化するカード』
しかし《異端聖戦士、サリア》も《呪文捕らえ》も、あまり"自らの展開をサポートする"能力ではありません。
それでは、直接的に"自分のデッキのキルターンを速めるカード"は増えなかったのでしょうか。
リストを眺めると幾つか発見できました。大きく分けて4種類です。
【吸血鬼】
《流城の死刑囚》は、カードを消費してゲームスピードを獲得する典型的な1枚です。
2T目《流城の死刑囚》→3T目《手に負えない若輩》マッドネスはコンボと言って差し支えなさそうです。
(※起動型能力のコストでマッドネスが誘発、プレイが先に解決する為《手に負えない若輩》にも+1/+1の修正がかかります)
《怒り刃の吸血鬼》も同様に高速化に一役買える能力を持っています。
《癇しゃく》を捨ててプレイすると、自身のトランプルと合わせて本体ダメージを狙い易いです。
《流城の死刑囚》同様、《手に負えない若輩》と合わせて3T目の攻撃に迎えます。
デッキタイプとしての【吸血鬼】は《血の間の僧侶》と合わせて中盤の展開が大きく補強されました。
【人間】
再録ですが《小村の隊長》は所謂ロード能力に近い全体修正で、優秀なダメージソースとなります。
また話題の合体カードの片割れである《ハンウィアー守備隊》は、久しくなかった赤のアタッカーとして注目を浴びています。
《サリアの副官》はもちろん、《小村の隊長》や《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》、また《優雅な鷺の勇者》と複合的にシナジーを持つ《ハンウィアー守備隊》は中速の人間デッキに赤を足しうる明確な理由となりそうです。
依然として《ウェストヴェイルの修道院》は強そうですね。
中盤の戦力として他に《異端聖戦士、サリア》を獲得していることもあり、ますます【人間】の隆盛が予想されます。
【スピリット】
これまでデッキタイプとして作るには少し枚数の足りなかった【スピリット】が《霊廟の放浪者》と《無私の霊魂》を獲得しました。
特に《霊廟の放浪者》は毎ターン順調にスピリットを展開するだけで1マナ・パワー2・飛行というハイスペックが保証され、ダブルアクションによっては平均的な1マナ・アタッカーの水準を上回りそうです。
《聖トラフトの祈祷》があるものの、【吸血鬼】、【人間】そして【狼男】など他の部族たちに比べるとスピードそのものは一歩落ちます。
《鎖鳴らし》を筆頭とした飛行と瞬速によって隙のない展開が可能なのが一番の強みです。
【単体で性能の高いクリーチャー】
『イニストラードを覆う影』から引き続いて部族シナジーに重点を置いたクリーチャーが多い『異界月』。
その中でも展開に左右されず、安定したスペックを発揮できるクリーチャーもいます。
特に高速化に影響するクリーチャーは2種類。
《ケッシグをうろつくもの》は緑としてはスタンダード唯一の無条件1マナ2/1クリーチャーです。
またマナフラッド(土地過剰)やロングゲームに対応した起動型能力で、いつでも強いという特徴があります。
狼男や変身ギミックのシナジーをプラスで持ちますが、意識せずとも採用できるスペックです。
《嘆き細工》は3マナ・パワー3・速攻という中堅の強烈なアタッカーです。
こちらの昂揚能力は自分の構築とお互いの展開次第という、安定した成果を期待するには少し難しいですが、時々達成していると嬉しい効果です。
比較的スロースターターになりがちな緑黒というカラーリングが採用できる速攻クリーチャーは、見た目以上に強力であることが多いです。
『グッドスタッフ』
これらのカードの中でやはり、唯一部族シナジーを持たない《嘆き細工》が浮いているように見えます。
前回の当コラムで取り上げていない【スピリット】がダメージ的にはまだ線が細いというところで、この《嘆き細工》を活用したデッキリストを考えてみようと思います。
アーキタイプの分類として、各カード間のシナジーよりも単体のカードパワーを優先した構築が【グッドスタッフ】(良い人材を集めたデッキ)と呼ばれることがあります。
今回は部族デッキに対抗できる4ターンキル【グッドスタッフ】を組めるかどうかを考えてみましょう。
『カラーポジションとしての緑黒』
スタンダードのメタ上に緑黒を軸としたデッキタイプが既にあります。【過ぎ去った季節コントロール】です。
黒の豊富な除去と緑の中盤の場持ちの良い優秀なクリーチャーを中心に、最終的に《過ぎ去った季節》で莫大なアドバンテージを獲得して物量戦を仕掛ける、長期的ゲームプランのボードコントロールデッキです。
『タルキール覇王譚』直前のセット、『テーロス』期にあった【緑黒星座】も同様のアプローチでした。
緑黒という色の組み合わせはこうした"中長期戦を見据えた戦略"を得意とすることが非常に多いです。
しかしながら高速のゲームメイクを得意とするカードも単体であります。
《精神壊しの悪魔》を始めとする、いわゆる"スーサイド(ライフを失うデメリット)能力を持ちサイズに優れたクリーチャー"は黒の十八番です。
またタルキールでピックアップされた"疾駆"能力は速攻を得意とする赤の他に黒も持ち、《マルドゥの影槍》と言った優秀なクリーチャーは『タルキール覇王譚』期の黒単ウィニーを支えました。
スタンダードにある緑黒の生物のうち、特に4T目にダメージを与えることに優秀なカードが2枚あります。
《狩猟の統率者、スーラク》と《冷酷な軍族》です。
共に4T目プレイで5点を与えることで速攻の少ない緑黒デッキでの優秀な「〆め」の1枚となります。
『《薄暮見の徴募兵》/《爪の群れの咆哮者》』
この2種類の「5点」を支える優秀な2マナ・クリーチャーがいます。
2T目にプレイした《薄暮見の徴募兵》がそのまま変身すると、3T目の《狩猟の統率者、スーラク》が《爪の群れの咆哮者》と共にダメージを与えます。《狩猟の統率者、スーラク》が与える5点が2倍の10点になります。
"2枚合わせて16点のダメージ"を稼ぐことで、4ターンキルを一気に現実的なものにします。
3T目に《爪の群れの咆哮者》から2マナの生物と《冷酷な軍族》を合わせてプレイすることも容易で、ハンドの生物を使いきれないというような機会を減らしていきます。
『補完するべきダメージソースの量』
《薄暮見の徴募兵》(《爪の群れの咆哮者》)⇒《狩猟の統率者、スーラク》を基本の軸とした場合、この2枚だけでは20点まで4点足りません。
《冷酷な軍族》の他にもう1種類、4T目にプレイして"速攻を持たせると4点与える"カードを採用したいところです。
加えて出来れば3マナでプレイできるカードであれば、3-4T目の動きが非常に柔軟に取れるようになります。
カードリストを復習すると候補は数枚ありました。
《首絞め》
《待ち伏せの巫師》
《マラキールの解放者、ドラーナ》
《群れのシャーマン》
《剛力化》
(《威圧ドローン》や《容赦無い泥塊》など事前アクションが必要なクリーチャーは今回求めるカードではありません。)
3T目、4T目どちらでも安定して4点を与える《剛力化》はクリーチャーではありませんが条件をピッタリ満たしています。
動けるターンが異なるカードを分散して採用し、それぞれのターンのアクションが過不足ないようにしましょう。
『サンプルリスト』
これらを踏まえてサンプルリストを作成しました。
『4ターンキル・ルート』
ルート1:『《薄暮見の徴募兵》変身→《狩猟の統率者、スーラク》→《剛力化》』
最も使用カードの少ないルートです。
ルート2:『《茨弓の射手》→《薄暮見の徴募兵》→《群れのシャーマン》→《冷酷な軍族》疾駆』
ルート3:『《ケッシグをうろつくもの》→《首絞め》→《血管の施し》マッドネス+《剛力化》→《嘆き細工》』
こうした別ルートでも支える為、ある程度安定して4ターンキルを狙えます。
シナジーデッキ以上に各ルート間で使用カードの置き換えをしやすいというのがグッドスタッフの特徴の1つです。
『サイドボード』
このデッキが苦手とする相手の動きを考えたときに、地上をブロッカーで固められると突破しにくいことが挙げられます。
速攻と単体のサイズがある程度優秀なものが多いので、単体除去はそこまでネックにしません。
ブロッカーを排除するか飛行のような回避能力を増やすことが定石となりそうです。
今回、新カードでその両方を担うカードが出ました。
《ヴォルダーレンの下層民》はサイズで劣る場合のこちらの戦線と相手の戦線を丸ごと退場させて6/5飛行というマッシブなサイズを戦場に残すクリーチャーです。
《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》と《墓所破り》で頭数を揃えていきましょう。
途中《ゲトの裏切り者、カリタス》を置ければワンサイド・ゲームです。
最も軽い格闘呪文である《捕食》の再録で、除去の為にターンを浪費する可能性も減りました。
3《ヴォルダーレンの下層民》
3《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》
3《墓所破り》
3《捕食》
3《ゲトの裏切り者、カリタス》
ひとまず75枚完成しました。
『最後に』
これまで、Damage 4 Wins!はいわゆる"軽く早い"ウィニークリーチャーを並べる形が多くありました。
今回、単体のサイズの平均としては最も大きい形となりました。
パワー3以上のパワフルなクリーチャーを沢山採用できています。
また、緑黒というカラーリングとしての紹介も初めてのことです。
まだまだ4ターンキルには様々なアプローチがありますので、これからも紹介していければと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。