世界激シブ発見:世界の墓場から

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2015.10.06

 



世界、激シブ、発見ッ!

どんなゲームにもシブさというものは潜んでいる。シブいキャラ、シブい技・戦略、シブい演出にシブい...言うまでもない。そういうものが足りないと、ゲームは薄っぺらなものになってしまうと断言しよう。派手なもの、美しくまたかわいいもの、そういうものとシブいものが混ざり合い、世界は形成される。

万を超えるカード達が作り出す世界は、それはもうシブ味に溢れんばかり。そういったシブいカードが好きだからマジックをやっていると言っても過言ではないシブ味ユーザーも数少なくはないだろう。作り手側も、それを見越したようにシブいカードを毎セットに仕込んでくるんだから、これはもう需要と供給が成り立っている。1つの完璧な世界だと言えるのではないか。

そんなシブいカード...あるいはそれらを用いたシブいデッキを紹介するのがこのコーナーだ。これまでは大会結果から「シビィなぁ」と琴線に触れたものを紹介してきたが、今回は自分がシブいと思っているものをとりあげて讃歌を送ってみようと思う。

 

この夏を大いに盛り上げた『マジック・オリジン』。個人的に最注目カードとしてあげたのは《魂の略奪者》。...うん、トーナメントシーンで活躍していないことは承知も承知、大承知。「大活躍すると思うカード」じゃなくて「注目」のカードをピックアップ、故になにもダメージは負っていなぁい!
このカードを注目カードに上げたのには理由がある。今回はレビューの行数に収まらなかった、このカードが受け継ぐある系譜の、長い長い歴史を辿って行くことにしよう。 



「脳漿獣の恐怖」

君は《イチョリッド》を知っているか?黒と墓地活用にフィーチャーしたセット『トーメント』はその両方を愛する僕にとっては、もはや信仰対象に値するセットであった。シブいかシブくないか、そんな騒ぎではない。プロレスラーで言うならば"ネイチャー・ボーイ"リック・フレアー級の存在である、疑う余地はないだろう?いや悪かった、これは聞き流してくれ。

 
 
マジックにハマる=中二病と言われる世界観を愛する者ならば、邪悪を具現化したグロテスクなクリーチャー群と、墓地を利用する禍々しいメカニズムに魅了されるのは当然と言って良い。当時はネット環境もロクなものではなく、月一に発売される雑誌くらいしか情報源はなかった(中高生にとっちゃね)。さらにその雑誌におけるマジックの扱いも「なんか微妙」になり始めたので買ったり買わなかったり。僕は完全にマジックにしか興味はなかったので、他ゲームの情報とかいらんかったのだ。それが徐々にメインになっていく、マジックオンリーの雑誌は翻訳のためかタイムラグを伴って販売される。しんどい時代だった...そんな情報枯渇時代に、かつて西中島南方付近に存在していたBIGMAGICに不定期で通っていた僕はオデッセイ・ブロック第2セット『トーメント』の発売告知ポスターを見て、胸が高鳴ったのを覚えている。「黒で戦え」というキャッチコピーと特大の黒マナシンボル。セットの全容はわからないが、それだけで十分だった。

当時はもう高校生、自分で働いて貯めたお金で欲しいものを買うことが出来るという万能感を覚えはじめた頃。PS2のソフトを買ったり、リーバイスのええジーンズ、スカジャン...マジックにおけるそれを最初に満たしたのがこの『トーメント』のBOX買いだったのだ(多分)。

 

《ラクァタスのチャンピオン》と《もぎとり》の噂は聞いていたので、そこが個人的な目玉レアであった。さて、36パックと言う約束された自由。今では3分ほどで剥いてしまえる量だが、当時は剥いて中身を確認して...さあ次のパック、というペース。これに加えて、当時は日本語に比べ格段に安かった&見た目がカッコイイという理由で英語版を買っていたので、1つ1つ丁寧に訳しながら読んでいくので時間がかかるかかる。今ほどマジック英語にも馴れていないというのもあるしね。たっぷり1時間半ほど楽しんだのではないだろうか。友人達とバリバリやって、その場でデッキを作って対戦するのが楽しくてしょうがなかったのを覚えている。そして、その時パックから飛び出して僕の心を魅了したレアクリーチャーが、2体いた。

 

1体は《ナントゥーコの影》。2マナ2/1でマナを注げばサイズアップする所謂"シェイド能力"持ちという信じられないスペックに驚いたものだ。《陰謀団の貴重品室》と絡めての特大パンチを思い描き、それだけで悦に浸った。
そして、真に心をとらえ離さなかったのは...《イチョリッド》だった。これは運命の出会いとも言えよう。
4マナ3/1速攻。アップキープに誘発する能力で墓地から帰還する。その姿は正しく《灰燼のグール》、否、当時は日本語名を未だ持っていなかったため《Ashen Ghoul》と呼ぶのが正しいか。 

《Ashen Ghoul》と言えば、ある「男のデッキ」の顔として有名だ。「Benzo」という、《ゾンビの横行》を中心とした「大物1匹釣って終わり」ではない画期的なリアニメイト系のデッキがあった。このデッキをより攻撃的に進化させたのが...Ladies and Gentlemen, here comes the Wild Zombie!

 
Wild Zombie
21land
4 《Taiga》
4 《Badlands》
4 《Bayou》
2 《沼/Swamp》
1 《山/Mountain》
1 《森/Forest》
1 《宝石鉱山/Gemstone Mine》
3 《ラノワールの荒原/Llanowar Wastes》
1 《知られざる楽園/Undiscovered Paradise》


20creature
4 《Krovikan Horror》
4 《野生の雑種犬/Wild Mongrel》
4 《灰燼のグール/Ashen Ghoul》
4 《隠遁ドルイド/Hermit Druid》
4 《ゴブリンの太守スクイー/Squee, Goblin Nabob》

19spell 
4 《吸血の教示者/Vampiric Tutor》
4 《ゾンビの横行/Zombie Infestation》
4 《生き埋め/Buried Alive》
3 《炎の嵐/Firestorm》
4 《強迫/Duress》


15Sideboard
2 《窒息/Choke》
1 《地の封印/Ground Seal》
1 《グールの誓い/Oath of Ghouls》
1 《非業の死/Perish》
1 《消えないこだま/Haunting Echoes》
3 《スパイクの飼育係/Spike Feeder》
1 《無のロッド/Null Rod》
3 《紅蓮破/Pyroblast》
1 《破滅/Ruination》
1 《Stench of Evil》

それはもはやリアニメイトではなく、墓地を用いたアドバンテージの獲得と安定したパンチ力を誇るビートダウンデッキだった。その名も「ワイルドゾンビ」。《Ashen Ghoul》は《野生の雑種犬》《ゾンビの横行》で《ゴブリンの太守、スクイー》や《Krovikan Horror》と共に捨てられながら黄泉がえり、3点パンチを繰り返していた。良いデッキ、良い時代だ。

 

話は《イチョリッド》に戻って...《タールルームのミノタウルス》がコモンであるのを見るに、4マナ3/1速攻というのはクリーチャー全体で見ると大したスペックではない。今では同じコストでマルチカラーとはいえど4/1速攻飛行なんていう規格外の怪物も誕生している。まあそれはさておき、当時は赤以外で速攻持ちが全くいなかったので、黒でこの奇襲性というのはそれだけで目を惹くもの。そしてその墓地から舞い戻る能力も...『オデッセイ』発売初日に《納墓》をしこたま集めた「墓地大好き坊や」だった僕には、アドバンテージが獲得できるものに見えた。

 

《貪欲なるネズミ》《夜景学院の使い魔》らで戦線を支え、《生き埋め》で《イチョリッド》達を墓地に貯めた後に《抹消》で盤面を更地に。後はアップキープに無人の野をイチョが駆ける、「抹消リッド」という激シブなデッキのアイディアを友人が作り、それを調整したのは良い思い出である。マスクス-インベ時代の激シブの象徴「ターボジョークル」の次世代バージョンというところか。

 

「ターボジョークル」と言えば、《冥界のスピリット》。ザパーンと盤面を流した後にヒョコっと還ってきて、2点ずつペシペシ殴る殴る殴る。青いコントロール「ネザーゴー」の使うこのカードは大嫌いだったが、「ターボジョークル」のそれはデッキの男らしさも相まって、魅力的なシブさに溢れていて大好きだった。

「抹消リッド」は使い使われ楽しいデッキだったが、大きなトーナメントにこれで参加するということもなく、また当時の僕らは皆別々の高校に進学、次第にこういったアイディアをぶつけあう回数も減り、それぞれ進学・就職、そういった進路に悩みだす時期を迎えたのだった。今思えば、「抹消リッド」はどこかで活躍させてあげられたかもしれない。皆打倒「サイカトグ」「青緑マッドネス」に燃えて、それらに対抗する形でデッキを作っていたから...あぁ、二度と戻れぬ青春よ。

 

「脳漿獣の逆襲」
《イチョリッド》は能力が面白く、イラストもrk post氏が手掛けた最高にクールなもので人気を博した激シブカードだった...が、当時は活躍らしい活躍はせずにスタンダードから退場して行った。愛しい墓掘りブロックの退場と同時に、金属の時代がやってきて...金属生命体やゴブリンが、頭蓋骨をクチュクチュやられながらアドバンテージを稼ぎ出す、パンチの効いた時代を迎えることになる。

 

《頭蓋骨締め》があの頃あったなら、イチョも天下無双の活躍をしたのではないか、そんな妄想をしたものだ。
それから年月は流れて行く......『神河救済』で《灰生まれの阿苦多》が登場した時はちょっと嬉しかった。


手札の枚数が相手より多い状況で沼を生け贄に捧げるという、復活条件およびコストが全く異なるものになったが、これも《灰燼のグール》《イチョリッド》の系譜を継ぐ1枚。実際に蘇らせて殴ると、胸が躍った。強いか強くないかで言うと、横に添えてあった十手がぶっ壊れやったね。

 

さらにちょっと進んで、『ラヴニカ:ギルドの都』が登場。緑と黒という好きな色の組み合わせのギルドがプッシュするのは、これまた好きな墓地絡み。"発掘"という能力が、果たしてどれぐらい強いのかはパッと見で全く分からなかった。ただ《墓掘り甲のスカラベ》と《暗黒破》は何度も何度も繰り返し使えれば強いんじゃないかなと思っていた程度だった。

そして、発掘の恐怖を理解できぬままいる折に、半端ではないデッキに出会ったのである。最初リストを見た時、シブすぎて膝が震えたのを覚えている(大嘘。ポケーとしてたと思う)。ぶっつけ本番でこのデッキと遭遇し、ミンチにされたプレイヤー達は何を思ったのだろうか。強くて、黒くて、歪んでいて、そして《イチョリッド》が入っている激シブデッキ。Ladies and gentlemen, here comes the Friggorid!!

 
Friggorid

18land
1 《沼/Swamp》
4 《湿った墓/Watery Grave》
4 《セファリッドの円形競技場/Cephalid Coliseum》
4 《汚染された三角州/Polluted Delta》
3 《血染めのぬかるみ/Bloodstained Mire》
2 《草むした墓/Overgrown Tomb》


22creature
4 《ゴルガリの墓トロール/Golgari Grave-Troll》
4 《臭い草のインプ/Stinkweed Imp》
4 《朽ちゆくインプ/Putrid Imp》
4 《サイカトグ/Psychatog》
4 《イチョリッド/Ichorid》
2 《不可思議/Wonder》

20spell 

4 《トレイリアの風/Tolarian Winds》
4 《ゾンビの横行/Zombie Infestation》
4 《綿密な分析/Deep Analysis》
4 《陰謀団式療法/Cabal Therapy》
4 《金属モックス/Chrome Mox》


15Sideboard
4 《炎まといの天使/Firemane Angel》
4 《一瞬の平和/Moment's Peace》
3 《天啓の光/Ray of Revelation》
4 《棺の追放/Coffin Purge》


「フリゴリッド」だ。John F. Rizzoの手によってつくられたこの魔界の発明品は、GPシャーロット05を制覇。発掘を繰り返し、何度も何度も墓地から複数で蘇り相手を蝕むイチョの姿は悪夢そのもの。発掘はドローが飛ばされるのだが、墓地に落ちたカードをそのままリソースとすることで通常ドローよりも遥かに多い手数を生み出すことが出来る。イチョ自体もその餌も補給される。完璧やん!

このデッキは後に時のらせん・ブロックにて《戦慄の復活》《ナルコメーバ》《黄泉からの橋》を得て、「ナルコブリッジ」というスタンダードのデッキのエンジンと融合。

 

イチョはますますの活躍を見せることとなる。メジャーどころになってしまって、ちょっと複雑な思いを抱いたもんだ。自分がシブいなと目をつけていたカードが時間を置いてから評価された時って、この独特の感覚を味わえるよね。
『時のらせん』といえば、《冥界の裏切り者》がこの系譜を代表する1枚として登場。


このカードもすこぶるシブい。古臭さを持ちつつ、その帰還方法は他に類を見ない独自のもの。無限コンボが組めるスペックであり、どう使うかあれこれ悩んだものだ。

 
「恐ロシキハ血ニ狂ウ鬼」

「フリゴリッド」「ナルコブリッジ」はレガシー(およびヴィンテージ)に戦場を移し、「ドレッジ(発掘)」として墓地対策弱き時代のメタゲーム上位に君臨し続けた。《ライオンの瞳のダイアモンド》の価値を一気に跳ね上げたものだ(今の3分の1くらいしかしなかったけど)。かつては「古いカードが使えるなんて嬉しい、レガシーやってみたいな^^」とやってきたご新規さんの心をズタズタに引き裂いてしまう門番的存在でもあったね...ヴィンテージに至っては、《Bazaar of Baghdad》を使えるため、もはや「マジックとは別ゲー」「ドレッジ:ザ・ギャザリング」と言われる動きを見せるほどに。

 

ここで「ハメ技おもんねーわ」とならずに「うわー面白い動きするなぁ」と思った人は、底なし沼に自ら飛び込むベア・グリルスみたいなもんである。

勿論、そこにイチョの姿はしっかりとあった。めでたいんだが、初心者殺しと呼ばれるデッキでの活躍は素直に喜べない。そんな日々が続いた。

2009年10月『ゼンディカー』推参。対抗色フェッチランドと、"トレジャー"と銘打って初期生産分にランダムに仕込まれたデュアルランドを初めとした絶版高額カード達の存在は、マジックに関わるほぼすべての人間を熱狂の渦に巻き込んだ。発売初日、当時は恵比寿町の方にあったBIGMAGIC日本橋店の混雑ぶりは凄まじいものだった。あの店舗も懐かしい、コンクリ打ちっぱで分けわからんところに柱があって、なかなかにモダンな店内だったなぁ。レジから店中に伸びた会計待ちの列は《とぐろ巻きブリキクサリヘビ》の如し。フリースペースではBOXを手にした皆がバリバリバリバリ剥いては歓喜と絶望の叫びをあげていた。

 
僕はというと、BOX買いは捨てて確実に4枚欲しいものをシングルで集めるプランをとっていた。とりあえず、《新緑の地下墓地》と《恐血鬼》はマストバイ。《恐血鬼》はプレビューでその姿を見てから、気になってしょうがない1枚だった。

 

・墓地から還ってくる能力
・そのためのコストはマナ不要、土地を戦場に出すだけと簡単で展開を阻害しない
・素出しでも2マナで2/1と軽量クリーチャーとして優秀
・相手のライフが低い時に速攻を得る能力、この地味シブ感
・ダブルシンボル、ブロックに参加できないのは愛嬌
・吸血鬼なので部族デッキの可能性
・イラストもどことなくザ・グレート・カブキ感あってシビぃ


こんだけビビっとくるものがあれば、ね。前評判も高いカードだったが、とりあえず使いたいし購入。「ドレッジ」は《知られざる楽園》や《汚染された三角州》を採用してイチョに変わる蘇生生物として採用したりしていた。アップキープにしか還って来ないイチョ、とりあえず発掘してから落ちたカード次第でこのターン蘇らせるか否かを選べる《恐血鬼》が、よりコンボパーツとしては勝っているように見えた。

 

実際に入れ替えて使った上での感想は...《イチョリッド》の一見デメリットであったターンエンドに自らを生け贄に捧げる能力。あれが強力だったんだということを思い知る。イチョに適当にインプ食わせたりして出して殴って、エンドにサクってゾンビトークンを出す。状況によっちゃ殴らないし、《黄泉からの橋》が2枚以上あればゾンビがモリモリ増えていく。マナを払わずにこれをダラダラやってるだけで、盤面は整ってくる。蘇らせる条件の緩さでは《恐血鬼》は遥かに勝ることは実感できたが、戻ってきたところでチャンプブロックも出来ずにただ突っ立っているだけで死にすらしない、というのはマイナスな点だったのだ。

ただ、《恐血鬼》が駄目だったとは思わない。《大いなるガルガドン》で積極的にグルグル回すというのは面白いし、上述のように《黄泉からの橋》《陰謀団式療法》が墓地にタップリある状態を発掘で作ってから、任意のタイミングで釣り上げられるのは安心感がある。イチョの場合、アップキープにしか戻せないので後の発掘の結果を見てからプランを立てられないのだ。あるいは、イチョと違ってとりあえず場に戻しておく、というアクションを取っておくことで墓地対策を事前に回避しておけるという点も未体験のシブさだった。結局僕は...《イチョリッド》3:《恐血鬼》2くらいのバランスで併用していた。この2体を戦場に戻して《陰謀団式療法》を唱えるだけで、シブいものへの欲求は満たされるのだ。

《恐血鬼》はスタンダードでも活躍していた。「赤黒吸血鬼」または「青黒~」デッキでは、重要な2マナ圏のアタッカーとして、そして《臓物の予見者》に占い用ハラワタを提供しては《カラストリアの貴人》の能力を誘発させて2点ドレイン、占術でフェッチランドをトップに置いて...という、コンボじみた動きを見せていた。

 

勿論僕もこれを使用...していなかった。当時はMOでより格安で組めてなおかつ勝てるという点で、白単の《聖なる秘宝の探索》デッキを愛用していた。これもこれでシブい白ウィニーだったな。当時はよく対戦相手からチャットで「初手依存イージーデッキ使うなコラ」とか煽られたのも懐かしく良い思い出だ。

そして...モダンというフォーマットが産声を上げる。『第8版』以降のセットのみを用いるとのことで、そこには所謂旧枠セットに属する《イチョリッド》の姿はなかった。故に《恐血鬼》がいて良かった。モダン制定時から存在する「ドレッジ・ヴァイン」というデッキは、新セットの登場と禁止カードの変更などの環境の変化に合わせその姿形を変え、細々と生き延び続けている。色は違えど《復讐蔦》も墓地から還ってくるクリーチャーだ、紹介しない訳にもいくまい。

 

上記の「ドレッジ・ヴァイン」のキーカードだ。レガシーでは《適者生存》と合わさり暴れ回った挙句、同カードを禁止カードに制定させてしまった。これまでの還ってくる連中を大きく上回る4/3というサイズは圧巻。このカードと《恐血鬼》を4枚ずつ採用し、《小悪疫》でのディスアドバンテージを最低限にするというデッキ、大好物である。個人的には更にダメージ源として《爆破基地》も絡めたいものだ。

そうそう爆破と言えば、最高のデッキがね...

 

「ボンバー・オブ・ザ・デッド」
中世ヨーロッパ風、ホラーな世界観を展開しマジック史上初の両面カードも登場し話題となった『イニストラード』。"フラッシュバック"の帰還は、オデッセイ・ブロック大好き坊やである僕のような人々にはそそられるものだった。そして、続く第2セット『闇の隆盛』。《ヴェールのリリアナ》《瞬唱の魔道士》《聖トラフトの霊》対抗色土地などの華々しいカードに彩られた、その次のセットと言うことでハードルが上がってしまい、結果多くのプレイヤーが発売当初このセットを評価していなかった。『イニストラード』の頃は発売準備&当日のお客さんの途絶えなさで死にそうになったものだが、前回を踏まえて気合いを入れて臨んだ『闇の隆盛』は肩透かしをくらったのをよく憶えている。徹夜はし損(これから8か月後、この言葉を撤回することになるんだが)。

 

世間の評価はどうあれ、個人的にはそそるカードが山ほどあったので良セットだった。《地獄乗り》はライダー好きであり、メタル好きであればそそられない訳はない。Judas Priestやで!《ゲラルフの伝書士》なんて、イラストから何から最高じゃないか。Kev Walkerが手掛けるは、アメコミ風の眼光を発する、シンプルな作りの人造ゾンビ。カードとしても攻撃性と継続戦闘能力に優れた逸品だ。トリプルシンボルと言うのもいっそ清々しくて良い。どっちもシブいカードで、発売初日抑えることを誓っていた。

待て待て、これで終わりじゃない。最上級な1枚があるではないか。ゾンビで、1マナパワー2で、墓地から還ってくるぞ!その名も《墓所這い》、ゾンビの最高傑作と言っても過言ではない1枚だ。

 

上記のように1ターン目に2点クロックとして出すだけで普通に強い。《肉占い》《カーノファージ》を思い出してくれ。それが何度も何度も蘇ってくるとしたら...ワクワクしかしないだろう?このカードの帰還方法は、墓地から唱えてOKというもの。条件は、自身の戦場にゾンビが居る事。ちょっとした部族カードだ、同族が居れば何度でも戦力になるよと。これの良い所は、これ自体を複数枚引いた場合、自分達だけで帰還サイクルを形成できること。単体除去カードしか有しない相手にとって、これが2体並ぶだけで相当に厄介な話だ。

この激シブゾンビを用いて、激シブデッキを生み出し結果を残したシビぃ男がいる。アメリカが誇るトッププレイヤーの一人、Sam Blackだ。彼がGPアトランタに持ち込みTOP8入りしたデッキは、レガシーという固定観念に塗り固められたフォーマットに新たな風を吹かせたのである。Ladies and Gentlemen, here comes the Zombardment!!

 
Zombardment
20land
3 《Badlands》
3 《血染めのぬかるみ/Bloodstained Mire》
2 《湿地の干潟/Marsh Flats》
3 《汚染された三角州/Polluted Delta》
3 《Scrubland》
2 《沼/Swamp》
1 《知られざる楽園/Undiscovered Paradise》
3 《新緑の地下墓地/Verdant Catacombs》


18creature
3 《血の芸術家/Blood Artist》
4 《恐血鬼/Bloodghast》
4 《屍肉喰らい/Carrion Feeder》
4 《墓所這い/Gravecrawler》
3 《潮の虚ろの漕ぎ手/Tidehollow Sculler》

22spell 
2 《苦花/Bitterblossom》
4 《陰謀団式療法/Cabal Therapy》
4 《信仰無き物あさり/Faithless Looting》
3 《ゴブリンの砲撃/Goblin Bombardment》
4 《未練ある魂/Lingering Souls》
4 《思考囲い/Thoughtseize》
1 《悲劇的な過ち/Tragic Slip》


15Sideboard
2 《闇の腹心/Dark Confidant》
1 《暗黒破/Darkblast》
2 《解呪/Disenchant》
2 《喉首狙い/Go for the Throat》
2 《非業の死/Perish》
2 《真髄の針/Pithing Needle》
3 《外科的摘出/Surgical Extraction》
1 《名誉回復/Vindicate》

通称「ゾンバードメント」。《墓所這い》《恐血鬼》+《ゴブリンの砲撃》=毎ターンダメージ増産、この方程式を主軸としたデッキだ。これらが揃っても、一気に20点削るなんてことは難しい。どちらかと言えば、このシナジーを軸に墓地に関するアドバンテージカードで戦場をじわじわと有利にして行く、コントロールと考えた方が良い。レガシーに存在するクリーチャーは基本的に線が細い(エムラクール除く)。《昆虫の逸脱者》がいかに飛行で攻めてこようが、スリングショットでゾンビの上半身2発飛ばしてやれば撃ち落とすことが出来るのである。その脇を《未練ある魂》で固めて盤石。《墓所這い》《恐血鬼》合わせて8枚体制で放たれる最強ハンデス《陰謀団式療法》が対戦相手を引き裂いてくれることだろう。青を使わなくてもコンボデッキや青いデッキには勝てるのだということを証明した、マスターピースとでも呼ぶべき至高の逸品だ。シブすぎるぜSam Black。

レガシーは元より、スタンダードでも「ラクドスミッドレンジ」という一時代を象徴するデッキの1マナ圏として活躍し、上半身だけでカサカサと1年半を駆け抜けていった。強すぎない強力カード、良レアとして今でも人気のカードだ。

 


「1st Avenger」

これらの墓地から還ってくるクリーチャー、その元祖は...マジックの始まりのセット『アルファ』の時点から存在していた。すべての始まり、最初に蘇りし者、《冥界の影》。

 

このクリーチャーは黒のダブルシンボルで2マナ1/1と、速攻は持っているとは言え非力な存在だ。それが持つ能力は、アップキープ開始時に墓地にある自身の上にクリーチャーカードが3枚以上乗っている場合、戦場に戻ってくるというもの。新しい死体を3人分用意すれば、あの世が定員になって押し出されてくると考えるとわかりやすい。このカード、始まりの1枚にして絶妙な調整が為されている。条件を満たすにはちょっと手間が必要で、かつ還ってくるのは1/1と強くない、しかしリソースを何も用いずとも自動で還ってくるのは偉い。「上に3枚」という条件でその能力を起動型に変え、打点を上昇させたのが先にも紹介した《灰燼のグール》だ。
この死後の世界より舞い戻る速攻持ち達の強さを、最初に世に知らしめたデッキをご紹介しよう。Ladies and Gentlemen, here comes the Buried Alive! 
Buried Alive
19land
19 《沼/Swamp》


23creature
4 《黒騎士/Black Knight》
4 《ストロームガルドの騎士/Knight of Stromgald》
4 《墜ちたるアスカーリ/Fallen Askari》
4 《アーグの盗賊団/Erg Raiders》
3 《冥界の影/Nether Shadow》
4 《灰燼のグール/Ashen Ghoul》

18spell 
4 《生き埋め/Buried Alive》
4 《不吉の月/Bad Moon》
2 《ネクロポーテンス/Necropotence》
3 《Contagion》
1 《生命吸収/Drain Life》
1 《ネビニラルの円盤/Nevinyrral's Disk》
3 《暗黒の儀式/Dark Ritual》

古き良き黒ウィニーに、息切れ防止用に《生き埋め》から影とグールを連れてきて打線を途切れさせないというパッケージを投入したもの、これが「ベリード・アリブ」だ。もうシブすぎてシブすぎて、思わず涙が。ここから、墓地から蘇生してくるクリーチャーによるアドバンテージ獲得ビートダウンの歴史が始まったのだ。始祖が持つこのシブさのDNAを、後継者達は脈々と受け継いでいるのだ。

 
「Dead Head Redemption」

さて、復活生物の歴史をザッと振り返ったところで、今度はその2015年モデルを見てみよう。《魂の略奪者》。ダブルシンボルの2マナ3/1・ブロックに参加できないと、パーツごとに先代たちを髣髴とさせるそのスペックがニクい。というか、普通に2マナでパワー3って打点高いなぁと感心。

 

ただ問題は、シリーズで最も優秀なサイズと引き換えに、復活コストも最も重いものとなてしまった、ということだ。支払うマナも、追放する死体も、いずれも2倍。うーん、ちょっと重いな。

ただ、多少重くてもやっぱり使いたいのが人情。この記事を書いたのは9月。『戦乱のゼンディカー』間近であり、終わりゆくスタンダードを真剣に考える意味もなく(WMCQとか出ないしね)...しかし、だからこそ賞味期限が残り短いカードと併せて味わってみた。BIG MAGIC LIVEの番組内で使用したデッキを紹介しよう。

 
Aggro Black Devotion

24land
3《ニクスの祭殿、ニクソス/Nykthos, Shrine to Nyx》
1《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ/Urborg, Tomb of Yawgmoth》
4《疾病の神殿/Temple of Malady》
16《沼/Swamp》


22creature
4《魂の略奪者/Despoiler of Souls》
4《責め苦の伝令/Herald of Torment》
3《異端の癒し手、リリアナ/Liliana, Heretical Healer》
2《運命の工作員/Agent of the Fates》
4《エレボスのタイタン/Erebos's Titan》
1《死者の神、エレボス/Erebos, God of the Dead》
4《アスフォデルの灰色商人/Gray Merchant of Asphodel》

14spell 

4《思考囲い/Thoughtseize》
2《究極の価格/Ultimate Price》
4《英雄の破滅/Hero's Downfall》
4《悪魔の契約/Demonic Pact》


ダブルシンボルを活かして、「黒単信心」の2ターン目のアクションとして採用。捻りも何もない、ストレートなデッキ。2マナ3/1として使用し、除去されても後半に《アスフォデルの灰色商人》のための信心を確保できる。リリアナの能力との相性も悪くないし、適当に2ターン目に出して隙あらば殴っていくだけで、十分に仕事は果たしていた。序盤適当に相討ちして、終盤に蘇って信心を稼ぐという動きはなかなか悪くなかった。サンキュー信心、フォーエバー信心。

 
ダイナソー・オブ・ザ・デッド~沼からきた緑色のヤツ~
23land
4《疾病の神殿/Temple of Malady》
4《ラノワールの荒原/Llanowar Wastes》
2《マナの合流点/Mana Confluence》
1《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ/Urborg, Tomb of Yawgmoth》
6《森/Forest》
6《沼/Swamp》


33creature
4《血に染まりし勇者/Bloodsoaked Champion》
4《サテュロスの道探し/Satyr Wayfinder》
4《棲み家の防御者/Den Protector》
4《魂の略奪者/Despoiler of Souls》
4《死霧の猛禽/Deathmist Raptor》
1《不気味な腸卜師/Grim Haruspex》
2《ナントゥーコの鞘虫/Nantuko Husk》
2《肉袋の匪賊/Fleshbag Marauder》
4《ニクスの織り手/Nyx Weaver》
2《異端の癒し手、リリアナ/Liliana, Heretical Healer》
2《囁きの森の精霊/Whisperwood Elemental》

4spell 
4《残忍な切断/Murderous Cut》

最近の墓地から還ってくるカードと言えば、こいつを忘れちゃいけない。《死霧の猛禽》は《棲み家の防御者》によりしぶとく何度も何度も蘇り、接死で道連れを量産しつつ隙が出来れば3点のダメージをブチ込む。《サテュロスの道探し》で墓地を膨れ上がらせることでアドバンテージを生み出すこのパッケージは、緑単色で形成されていることも強みだ。

ここに墓地帰還の元祖カラー、黒を組み合わせることで、ライブラリーからどんな形でも墓地にカードが落ちれば駒が増える、そんな"墓地への想い(グレイヴ・パッション)"のみを追求したデッキだ。

実際に使用してみた所、「青白コントロール」はじめとするコントロール相手には良い勝負をすることが出来た(相手は普段コントロールを使用しないリュウジではあったが)。何度も何度も還ってくるパワー3はなかなかに厄介だったようだ。特に青白は、軽量除去を《今わの際》で埋めているため、パワー3の《魂の略奪者》はそれだけで価値ある1枚として役立った。

《サテュロスの道探し》《ニクスの織り手》一部の土地以外は次期環境でも残留するカードで構成してある。 とりあえず、《群れの結集》と青を足して《ヴリンの神童、ジェイス》を用いればなんとか、なんとか...といったところかなぁ。『戦乱のゼンディカー』では墓地肥やし系カードが無くて...あ、《深海の主、キオーラ》が一応その枠か。3色、スゥルタイ3色になってしまうが... 「というか、そこまでいったらもう《先祖の結集》入れて「ラリー」にしちゃえよ!」とか言わない!2色がシブいんだよォォ。スイカ、ゴルガリ、やっぱり緑黒2色が至高なのだ。

 

上述のように『ゼンディカー』では《恐血鬼》が登場した。『戦乱のゼンディカー』では、その亜種が、墓地から帰還するクリーチャーの血脈・最新種が登場するのかなぁと思っていたが...望み過ぎだったようだ。今年だけで略奪者に猛禽に2枚出ているし、さすがにおねだりが過ぎたか...緑黒で良い感じのエルドラージはいるんやけどね、あれらは生け贄にすること自体を主軸としたものだった。これらと略奪者を組み合わせる...デッキが組めそうじゃないか。

 
『ゲートウォッチの誓い』!ここで新型いっとこ!と期待しつつ、これから始まる『戦乱のゼンディカー』環境を思いっきり楽しむこととしよう。
それではまた、激シブの世界でお会いしましょう、サヨナラ!