RPTQ ROUND6 ツジサカショウイチ(イエローサブマリンなんば店) vs ユクヒロケン(プロレベルシルバー)



「そろそろ呼ばな死にまっせ」

聞きなれた声で、そう囁く声が聞こえて顔をあげた筆者。
PC作業をしていて気付かなかったが、そこにいたのはあの行弘賢。

人懐こい笑顔がトレードマーク、関西ならではのノリとマジックに対する真剣さを併せ持ち、「青黒英雄的」「緑白《硬化した鱗》」といった独自のデッキをトーナメントシーンに持ち込み結果を残す、マジックファンからの人気が高いプロプレイヤーだ。
昨シーズンはゴールドレベルで全プロツアーの参加権利を持っていたが、今期はシルバーレベルでのスタート。2016年最初のプロツアーの参加権利を勝ち取るため、今回RPTQに参加している。

そんな彼が「そろそろ死にまっせ」と声をかけてきた。現在4-1、4勝は全て「バーン」からあげているとのことで「バーン殺しの行弘ですわ」と満面の笑み。しかし本人としてはぎりぎりの勝利を続けているようで、そろそろ2敗しちゃいますよと報告しに来てくれたのだ。
ツイッターでも強いデッキが出来たと語っていたので、フィーチャーマッチにはメインディッシュ的位置付けで呼ぼうと思っていたが…本人がこう言うのなら、呼ばせてもらおうじゃないか。
そんなわけで第6回戦は、行弘と辻坂の試合をお届けしよう。




Game1

バーン殺しの行弘に対して、辻坂が《踏み鳴らされる地》から1ターン目にキャストした呪文は《ゴブリンの先達》。
おや、これはバーン殺しの伝説続行か?

行弘はこのゴブリンを2回受け止めることのできるクリーチャー《宿命の旅人》をキャストし返す。
モダンでこのカードが見られるデッキと言えば…「おやつカンパニー」、行弘ブランドのモダンにおける最新作である。
このカードのような、死亡しても問題のないクリーチャー達を多数搭載。それらを《臓物の予見者》《カルテルの貴種》で生け贄に捧げて《血の芸術家》でドレイン。《戦列への復帰》でそれら小さなクリーチャーを戦場に戻して勝負を決める、そんなアブザンカラーのコンボ要素の強いビートデッキである。
良いデッキが出来たと語っていたのは、この「おやつカンパニー」の最新ver.ということか。

対して辻坂は、このブロッカーを意にも介さない怒涛の展開を見せる。
《炎樹族の使者》をキャスト、その能力で生み出されたマナで《ゴブリンの先達》おかわり。
この2体のアタックにはすぐさま旅人をブロッカーに回す行弘。スピリット・トークンは出るが、辻坂の盤面にはもう6点分の打点がある。
デッキの特性上、この猛攻は肉で受けていくしかない。行弘は《潮の虚ろの漕ぎ手》をキャストし、その手札を縛りつつブロッカーを用意する。見えたのは《稲妻》と土地で、前者を抜いてターンエンド。

辻坂はこの漕ぎ手を《稲妻》で除去し、フルアタック。この獰猛な攻撃を行弘は身体で受けていく。
返しのターンで、行弘は少し考え込む。最終結論は、2枚目の漕ぎ手を戦線に投下。これは予定調和で《稲妻》に焼かれる。
行弘は続けてセットランド…これは《ドライアドの東屋》。土地でありクリーチャーでもあるので、最悪の事態ではブロッカーに回すこともできる。勿論、そうでないのがベストだが…

続くターンの辻坂のフルアタックを、かなり悩んだ末に行弘はテイクする。これで残るライフは2点。
辻坂は《タルモゴイフ》を追加し、ターンを返す。どうやら、バーンではなく「Zoo」のようだ。
行弘は静かにトップを見た後、投了を宣言した。

辻坂1-0行弘




辻坂は相手のデッキが何かわからぬまま勝利したようで、何度も首をかしげながらサイドボード入れ替え候補を並べる。
対する行弘は、速攻で再度ボーディングを終え、早くもシャッフルを繰り返している。

GPシンガポールのデッキテクで登場した「おやつカンパニー」。大いに話題にはなったが、見るからに緻密なプレイングを要求されるこのデッキはただコピーをするだけで扱えるものでは無く、依然として行弘専用機である。このデッキと対戦する機会を得ることは難しく、サイドボーディングに悩むのも止む無し。さて、辻坂はどのようなデッキと判断し、何をインしたのか。
メインはやられるがままだった行弘、先手となるGame2ではデッキの真の動きを披露することが出来るか。


Game2

辻坂は手札を開くとほぼ同時にマリガン宣言。「うっし」と気合いを入れるかのような声が漏れる。
ワンマリガンでキープ、占術はトップのままでゲーム開始。

行弘はGame1と同様《宿命の旅人》からスタート。
辻坂は「ショックインします」と2点支払いながら《踏み鳴らされる地》をアンタップ状態で戦場に出し、《密林の猿人》をキャスト。

行弘は2ターン目、《森》をセットから《復活の声》をキャスト。死亡してもトークンが出て来るクリーチャーが2体並び、盤石の構えか。
対して辻坂はこれらのクリーチャーを前に《怨恨》を猿人につけて果敢に攻めるという行動を選択。
これは行弘の冷静なダブルブロックにより相打ちに。行弘の側にはトークンが2体、辻坂は後続なしでターンエンド。これは行弘にとっては理想的な展開である。

相手の戦場が更地の間に、行弘は《膨れ鞘》《カルテルの貴種》と同時に展開。これにより《復活の声》の意志を継いだエレメンタルトークンは4/4に。これとスピリット両方で攻撃しダメージレースで辻坂を大きく引き離す。
辻坂は《漁る軟泥》を唱えた後、フェッチランドをセットして起動。これを見た行弘は「ライフは8まで?」と問う。辻坂は「8で」と答え再びショックランドをアンタップイン。軟泥に《怨恨》を貼りターンを返す。

続くターン。行弘はGame1の借りを返すと言わんばかりの猛ラッシュを見せる。
《血の芸術家》が姿を現し、《膨れ鞘》を貴種が喰らい、プロテクション(緑)を得る。これが軟泥をすり抜け、戦闘ダメージを与えたら…あとは、盤面にあるクリーチャーを死亡させまくり、その血液で芸術家が勝利図を描いてゲームセットと相成った。

辻坂1-1行弘


辻坂は「フゥーーーーー」とため息とも深呼吸ともとれる一息を吐きながらのサイドボーディング。
相手の戦略は判明したが、ならば何で迎え撃つか。かなり悩まし気にカードを入れ替える。
一方の行弘は、先程と同じくあっという間にサイドボーディングを終えシャッフル作業に入っている。
結局、辻坂は新たに3枚のカードを入れ替えてシャッフルを始めた。


Game3

両者ともにマリガンなし、観ている方としてもホッとしつつ迎えた最後の一本。
先手の辻坂はフェッチからの《寺院の庭》で計3点のライフを失いつつ《野生のナカティル》という好スタート。
行弘は、溜息を吐きながらキープした手札から《吹きさらしの荒地》を置くのみでターンを返す。

辻坂は《山》をセットし、3/3のナカティルで攻撃。これは《流刑への道》で捌く行弘。
辻坂は《森》を持ってきて…今度はGame2と違って後続有り。《密林の猿人》を唱えてターンエンド。
行弘は《ブレンタンの炉の世話人》を戦場へ。赤いデッキには、このカードを使いまわしてプリベント地獄を見せるのであろう。
しかしここは辻坂、エンド前に《流刑への道》をお返しだ。



続くターン。飛び出してきた《火打ち蹄の猪》を再度《流刑への道》した行弘が迎えたターン。
飛び出したのは《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》!スタンダードで支配的な活躍を見せるプレイんずウォーカーが、モダン環境に殴り込みだ。
行弘のデッキではトークンを生み出し続けるのは勿論、細々としたクリーチャー達の打点を倍加させる-4能力も強力に扱えることだろう。
同盟者・騎士を生み出すギデオンに辻坂も思わず「マジか~」。

動揺を隠せない辻坂は長考した後、猿人でギデオンに攻撃。勿論これは同盟者に阻まれ届かない。
行弘はトークンを更に生み出しつつ《カルテルの貴種》も戦線投下。これで後は《血の芸術家》なんかを引けばシステム完成だ。
それを恐れた辻坂は、《アタルカの命令》を2枚使用しギデオンを退場させる。この損害はあまりにも大きいが、ここで開き直って処理しなければギデオンも殴り掛かってきて地獄を見ることになるので、致し方なしか。

ここで辻坂はまだ減らせていない行弘のライフを猿人で狙いに行くが、ここはフェッチから飛び出した《ドライアドの東屋》含め3体のクリーチャーでブロックされる。
ここでブロッククリーチャーの隊列を組んだ辻坂だが、ここでミスが。同盟者トークンを1/1だと思い込んでいたが、それは勿論の2/2。これにより猿人と東屋を交換することになる。美味しくは、ない。

これで流れを掴んだか、行弘は《膨れ鞘》を追加しつつの《戦列への復帰》で東屋と直前に《稲妻》に焼かれた《カルテルの貴種》を回収。
こういったネチネチとしたアドバンテージの稼ぎ方をするこのデッキ、観ていて本当に面白い。

しかし、辻坂も負けてはいない。ここで繰り出した待望のクロックは…





《強欲なドラゴン》!
一体誰がモダンの「Zoo」からこのカードが飛び出すのを読めたというのか。
4マナ4/4飛行で、最高に都合よく今の手札は空。ここからアドバンテージをもりもり稼ぎつつ航空戦力でシバきあげていく狙いだ。

「おやつカンパニー」の採用クリーチャーでこの4/4を越えられるのは…《カルテルの貴種》。行弘は《血の芸術家》も戦線に加えて、《膨れ鞘》を貴種の餌にしライフを奪いつつプロテクション・アタックをこつこつ築いていく。

辻坂はここで、自ターンに追加ドローをするのを忘れるというミス。それでも素引きの《稲妻》で芸術家だけは意地でも除去しつつ、ドラゴンでアタック。
このドラゴンが効果的にライフを奪っていく。行弘も負けじとフルパンチをかましつつ、《宿命の旅人》を出し、対飛行用ブロッカーをいつでも出せる構えをとる。

辻坂は今度は忘れずに2枚ドロー。4点削って地上に猿人を立たせてターンを返す。
そろそろライフが危険水域の行弘。このターンはマッチを通して最も冷静に深く考え込む。
出した結論は、貴種が旅人を喰らいプロテクション(赤)を得てアタック。スピリットというブロッカーも確保してターンエンドだ。

ここで辻坂はラストスパートをかけてくる。追加ドローで得た《怨恨》をドラゴンにつけてアタックしつつ、5/6の《タルモゴイフ》も地上に追加。
トランプルを得たドラゴンをスピリット・トークンで受けなかった行弘は続く自身のターン、意味深な表情をする。残りライフはあと数点。
ここで引き込んだカードで決めてしまうか、あるいは…
このターンのドローは、そのあるいはの方をもたらした。《ブレンタンの炉の世話人》で、ドラゴンの次のアタックはこらえることが出来る。

辻坂はテキストを確認し、このターンにブレンタンにあしらわれるのを分かったうえでドラゴンで攻撃。予定調和でブレンタンの能力でダメージは通らないが、さらに《炎樹族の使者》から《強欲なドラゴン》2号機と、100%を出しきりあとはターンが帰ってくるのを待つだけ。



さあ、ラストターンだ。行弘が引かなければならないカードは何か?
黒いクリーチャーだ。《血の芸術家》を引けば、それとカルテルのドレインアタックコンボで逆転勝利。
それ以外には?デッキに入っているカードが完全に把握できていない筆者は、固唾をのんでこのターンの行弘のドローを見守る。

普段のゲームでは見られないような仕草。トップを直に見ずに、テーブルに伏せてある1枚だけの手札に重ねる。
百戦錬磨、プロツアーのTOP8がかかった試合を経験したことのある行弘でも、手が震える。ここで負ければ、RPTQは終了。ここで負けたくない、そんな意志が、抑えられない波となって行弘の身体を震えさせる。
さあ、ゆっくりと手札を持ち上げ、重ねたカードを少しずつ、ずらしていく。色は…黒。第一関門は突破したが、これが《臓物の予見者》ならゲームオーバーだ。意を決して、カード名が見えるほどずらし、そして。




行弘は盤面に《ズーラポートの殺し屋》を叩きつける。《血の芸術家》と、このカードが数少ない当たりだった。それを引き当てた行弘に、辻坂も思わず声をあげる。
本日、バーン殺しの行弘を支えた殺し屋が辻坂のライフを吸い尽くし、激闘に幕が下りた。

辻坂1-2行弘


「これ、カバレージ用の試合出来ましたね」と満面の笑みの行弘。
プロツアーの権利をその手にしたい・そのためにこのRPTQを勝ち抜けたい・でもその前に、目の前の、このギリギリの勝負に勝利したい。
そんな純粋な気持ちが叶った行弘は、この瞬間は会場で最もマジックというゲームを楽しんでいた。そう言い切れる、晴れ晴れとした笑顔だった。
プロプレイヤーたちのこういう姿が、明日のプロツアー参加者を生み出しているんだなと、確信させてくれた名勝負だった。


行弘Win!