『ラストチャンストライアル・ダイジェスト』
Text by 森安 元希
あいにくの雨となった
グランプリ・名古屋2016 本戦前日。それでも会場のプレイエリアは賑やかだ。
グランプリ・名古屋2016の本戦は
『戦乱のゼンディカー』2パックと『ゲートウォッチの誓い』4パックのカードプールから形成するシールド9回戦と、『ゲートウォッチの誓い』2パック『戦乱のゼンディカー』1パックで行うブースタードラフト3回戦を計3回行う。
なお国内グランプリでは今回から
2日目進出が6勝3敗ラインに引き下げられているので、注意が必要だ。
また、『ゲートウォッチの誓い』発売から1週間という短期間でのグランプリの開催は少し珍しい。普段なら、最初期の環境を決定づけるプロツアーが開催されていることの多い日程だ。
その為、リミテッド環境の練習を満足に積めたと自負するトーナメント・プレイヤーは少ない。練習を実戦的に担う場所として、ラストチャンストライアルに参加する者たちの姿が多くあった。
ラストチャンストライアルのトーナメント方式は固定スイスラウンド5回戦でシングルのないものが、7つ。
いずれも本戦に準じたシールド戦である。全勝者1人を決める32人フライトではなく、数人の5戦全勝者が本戦の2Byeを得られる形だ。
今回、『ゲートウォッチの誓い』によってリミテッド戦はどのように変化したのだろうか。『戦乱のゼンディカー』環境ではシールド・ドラフトともにカード間のシナジーを重視したいわゆるアーキタイプ系のデッキが数多くあった。
やはり無色マナシンボルの登場によって実質的に6色あるともされることから、新たなエルドラージたちによる猛攻を予想することは容易い。
《変位エルドラージ》や《難題の予見者》、《現実を砕くもの》に《大いなる歪み、コジレック》ら無色マナシンボルを持つエルドラージたちは構築戦のみならず、リミテッドでもその真価を発揮することだろう。
各トーナメントから1卓ずつピックアップした上位卓の様子を伺っていこう。
ラストチャンストライアル7トーナメント中、200人を超える最大トーナメントとなった
トーナメント Aは
4-0ラインが16卓を超える大混戦となった。その中にはBIGsの石田龍一郎の姿もある。
1番卓のマッチをフィーチャーした。
カトウ(青黒白嚥下)対アオイ(白赤同盟者)
Game 1
先手、突如瞬速で現れた《次元潜入者》から高速の打点を刻み始めるカトウ。
キーワード能力としての嚥下こそ持たないものの、無色マナを用意出来れば無敵の生物とも言えるスペックを持つ。
後手のアオイ、3T目の動きとして決して悪くない筈の《影の滑空者》を出す頃には《耕作ドローン》、《コジレックの大口》と止めにくく攻めにくくなるクリーチャーが展開されてゆく。
2マナの白い同盟者から順調に展開して攻め手に回ることが基本軸となる白赤同盟者の強みが出てこない。
対して、青黒嚥下としてパワー2の高タフネスを並べる動きは受ける場合の理想の1つだ。強化の手段が支援となりやすい白に対しても、単体で突破されるということは少なく、自分のゲームメイクをしてゆける。
事実、《影の滑空者》が支援を受けて3/3となったものの、《重力に逆らうもの》と《次元潜入者》によってそこからも盤面を切り崩しにくい。
『戦乱のゼンディカー』環境から地上が硬く突破しにくいのは顕著であったが、今回は航空戦力をからめてなおお互いに止まるということがある。
お互いに盤面が止まると強いのは―…重いクリーチャーやシステムを擁する青黒嚥下だ。
《本質を蝕むもの》によって1ターンに3点のライフを吸い続けるようになると、除去の少ないアオイは見切りをつけ、畳んだ。
Game 2
先手から一気に攻めたかったカトウ、痛恨の土地2ストップに見舞われてしまう。同盟者は全体が軽量でまとめられてる為、少ない土地でもキープ出来る反面、「あと1マナ足りない」ということにもなりやすいのだろうか。
3マナのカードがハンドから溢れだす頃には、順調にマナを伸ばしたアオイによる青黒色のアタッカーたちがカトウのライフをもぎとっていた。
[
アオイ デッキ写真]
2マナが若干不足しているクリーチャーのように見えるが3マナに耐えるカードと4マナに盤面に触る除去が多く、ロングゲームになれば自分のペースに持ち込めるとのことだった。
5戦目の全勝卓をフィーチャーする予定だったトーナメント B,Cは全卓が5戦目を行わずに勝敗を話し合いによって決めた為、フィーチャー出来なかった。
また時間の都合でトーナメント Gもフィーチャーしていない。
トーナメント D以降は確実にゲームが行われる4戦目をフィーチャーとした。
オオタ(白黒同盟者) 対 ノムラ(青黒嚥下)
ノムラが先手を取ったが、オオタの《物静かな使用人》からゲームが始まる。
青黒のマナベースから《吸血鬼の特使》でこれを止めるノムラ。
オオタは《マキンディの巡回兵》と続けるものの以降の《頭蓋ふるい》や《マラキールの占い師》といった戦力は確実に除去によって裁かれてしまう。
《忘却の一撃》という非常に使いやすい除去をコモンに得たことで、青黒嚥下はその安定性を一段増しているように見える。
それでも《コーの空登り》や《影の滑空者》といったアタッカーを続けるオオタ。この、途切れない戦線が同盟者の強みだ。特に『戦乱のゼンディカー』では若干線が細いように感じられていた白の同盟者が得たカードは多い。
オオタはこの2体の航空戦力によって、ノムラの盤面が整いきる前にライフを奪いきった。
Game 2
《殺戮ドローン》から《吸血鬼の特使》と展開するノムラ。オオタの《岩屋の衛生兵》ではこれは止められないが、《物静かな使用人》を続けたことで状況に大きな変化が訪れる。『戦乱のゼンディカー』きっての軽いコンボ・シナジーのこの2枚、止める手立てがなければサイズが幾つにもで膨れ上がる為、ゲームエンド級に強い。
更に《草原の滑空獣》を加えて3枚のシナジーを完成させるオオタ。空も地も固めて、ゆっくりと育てる道を選んだ。
しかしここまでタップアウトの展開が続き、《岩屋の衛生兵》の起動がなかったオオタ。《物静かな使用人》を《忘却の一撃》で退場させられると、再び劣勢においやられる。
《破滅の昇華者》でライフを得つつアタッカーを用意したオオタ。止めなければ3ターン・クロックのヘヴィなエルドラージだ。
大型への対処カードは限られる赤白というカラーリングのなかで、オオタは《隔離の場》を引き込んでいた。互いに決め手を欠き続ける。
先に盤面を強くしたのは《塵の予言者》、《竜巻の種父》と続けたノムラ。これに対する解決策も、実はオオタはしばらく前から手にかかえていたのだが、そのカードは《完全無視》。土地を引けずタッチカラーの黒マナが出せないことで、ブロッカーも立てられず、6点、6点と浴び続けてしまう。
それでも、このターンに黒マナを引けば間に合うかもしれない―…そのタイミングで引いたトップ・カードは、《進化する未開地》。1ターン、足りなかった。3色で組むことの難しさが顕著となった。
Game 3
《面晶体の這行器》から4ターン目に《竜巻の種父》を叩きつけたノムラ。
《深水潜み》までストレートに繋げて、同盟者の細かい動きの一切を遮断した。
ゲーム展開こそ短くハッキリしたもののようにも思えるが、マナ・クリーチャーを含めてマナを余すことなくタップアウトをつづけて脅威を示し続けられたのは、ノムラの構築の妙であった。
ハンギョウ(青黒+緑嚥下) 対 ナガヤマ (青黒+赤嚥下)
フィーチャーマッチのチョイスは4戦目全勝卓からランダムにピックしているのだが、青黒嚥下のフィーチャーが続く。それは『戦乱のゼンディカー』環境でも最強、安定の一角とされてきた青黒の強さの安定化の証明だろうか。
タッチカラーに緑を用意したハンギョウ。赤を用意したナガヤマ。
この地点で、どちらがよりこの環境に通じていたのかの答え合わせの時間となった。
Game 1
ハンギョウの《霧の侵入者》、《マラキールの使い魔》、《破滅を導くもの》と続けるところにはナガヤマ《巻き締め付け》、《完全無視》《忘却の一撃》と返していく。
ここでお互いしばらくドロー・セット・ゴーが続き、ナガヤマが《不死のビヒモス》でゲームの再始動をかける。
加えて《難題の予見者》。一気に盤面とハンドへのプレッシャーをかけて優勢を形成したところでハンギョウが《粗暴な幻視》を《不死のビヒモス》にエンチャントする。
本来劣勢を巻き返す役目を持った"エルドラージ"の役目を殺すカードだ。
事実、《不死のビヒモス》がダメージレースをしかけお互いに6点ずつ減ると、先にライフが尽きるのはナガヤマであった。
ハンギョウが《姿を欺くもの》を着地させ、2体のエルドラージに対してサイズ勝ちしたところで趨勢が決した。
青黒嚥下同型。いかに"巻き返すか"の展開となると、原点に戻ってサイズが大きい方が強いということが、1つの回答でもあるのだろうか。
Game 2
手番の決定権を持つナガヤマ、後手を選択。今回のフィーチャーでは初めてのことであった。ミラーマッチとして除去の打ち合いという展開は、トップデッキの勝負になりやすい。
そうした場合、カードを引く枚数が多い後手の方が有利というのは、シールドのみならず構築戦でも時折目にする光景だ。
事実、序盤中盤は先に小粒の展開を始めたナガヤマに対して除去を打つハンギョウという形になるが、この1:1交換の連続はハンドの多いナガヤマに対して有利に働きやすい。
ナガヤマは《姿を欺くもの》が出る前のターンに《精神背信》でこれをハンギョウのハンドから抜くと、今度はひたすら盤面を固めていく。
見えている限りでは最大の生物を対処出来ている、ナガヤマが先にエルドラージにたどり着けば、安全にゲームを獲れる算段だろう。
お互い、ライフをそこそこに維持したまま10数ターンが経過し、10数マナが伸びあう。思惑通り、ナガヤマがゲームエンドのカードを引いた。しかしそれはエルドラージではなかった。
《とどろく雷鳴》X=12
かつての《ウルザの激怒》を上回る、世界を燃やし尽くす火力呪文が火を吹いた。
Game 3
ハンギョウもまた、後手を選択。ミラーマッチのセオリーを信じた二人、最後の1ゲームはどちらに傾くか。
ナガヤマの《竜巻の種父》の返し、今度はハンギョウから《難題の予見者》が唱えられ、着地する。
《不死のビヒモス》と《忘却の一撃》という辛い2択を見せつけられながらも、《忘却の一撃》を抜いて《難題の予見者》に直接触るカードを減らしていく。
もちろんナガヤマはその《不死のビヒモス》を着地させるが、ハンギョウの《忘却の一撃》がこれを退ける。
《忘却の一撃》。これだけの使用率の高さから、その利便性が繰り返し強調されているようだ。
《難題の予見者》を守り抜いてダメージレースを制したハンギョウがマッチを制した。
フィーチャー最終戦となるトーナメント F。
イトダニ 対 クリハラ
その1番卓に着席した一人は、イトダニ。
イトダニ テツロウ―…またの名を、竜王。それは比喩でも揶揄でもなく、プロ棋士たる彼が昨年に持っていたタイトルの名前だ。
『タルキール龍紀伝』発売の際には、龍王をフィーチャーした次元ということもあり、プロツアーに特別参戦した実績もある。元より日本選手権などにも参加しており、プロツアーでも数勝した。
彼が組み上げたシールドデッキは、青黒嚥下。対するクリハラは白赤青の同盟者だ。この組み合わせの内容が決ると、全てのフィーチャー卓に青黒嚥下があり、そうでないプレイヤーは白軸の同盟者を選んだ。ということになる。
それは色の強さが偏っているというよりも、《忘却の一撃》を始めたとした幾つかのパワーカードを採用すると自然に青黒嚥下となり、支援を含めた盟友を活かせるプールであれば同盟者となる。
カードによってアーキタイプが選ばれ、結果として色が定まってきているかのようであった。
Game 1
終始、クリハラが怒涛を絡めて猛攻を仕掛ける展開となった。
白のマナレシオの優秀な同盟者たちを《地割れの案内人》や複数枚の《巨岩投下》がサポートしていく。
高タフネスを並べて序盤をしのぐという青黒嚥下に対しても、攻め手を一瞬も止めなかった。
しかし《静寂を担うもの》を2ターン目に素で唱えたイトダニ、こちらもアタックを欠かさない。《掴み掛かる水流》と《悪魔の掌握》でライフを失いつつもしのぎ続け、ダメージレースを形成していく。
それでもイトダニの劣勢は続き、ターンを渡せば負けてしまうところまで追いやられていた。相手のライフも遠くないが、近くない。高打点の速攻を引ければ、あるいは。といったところ。
青黒というカラーリングから速攻性のあるカードを期待するのは酷だろう―…普段なら、誰もがそう思うシーン。
イトダニは逆転劇の〆として、《現実を砕くもの》を用意した。
おもむろに戦場を駆け抜け、最後のライフを奪った。『◇マナが持つ色役割』の広さが顕著となった一幕だ。
リミテッドにおいては2色にまとまりながらも◇を採用することで非常に広い戦略、対応性をもつようになった。
Game 2,3
共に近しいゲーム展開となった。
クリハラが序盤から白赤の優秀な同盟者アタッカーを用意し、支援でサポートし、《巨岩投下》でブロッカーをどけていく。
どちらも中盤、イトダニの高タフネスによるダブルブロックでコンバットが遮られたタイミングでクリハラが唱えたのは―…
《抗戦》。
これがアンコモンであって良いのだろうか。受ける側の視線であれば盤面の全てのコンバットは崩壊し、打つ側からすればどのようなブロックをも受け入れる懐の広さ。2/3のような"*/*+1"のサイズが多いのも、追い風だ。
コンバット・トリックのカードとして最上位に位置することを示すように、他卓でも打たれたことでゲームを諦める者の姿は決して少なくなかった。イトダニもまた、その一人であった。
黒が《忘却の一撃》を得たように、白は《抗戦》を得た。
それはシールドにおいて、確かに白と黒の人気の高さ、実力の高さにつながっている。
(くしくも、《抗戦》は《完全無視》に対してリアクションカードとなりえる)
駆け足ながら、幾つかの上位卓の様子をお届けした。
《忘却の一撃》擁する青黒嚥下の隆盛は間違いなさそうだ。
《抗戦》をむいた白の同盟者がどう立ち向かうか。
そして、青軸の覚醒コントロールなどの他のデッキたちはこれらを上回りえるかもしれない。
今回紹介したフィーチャーの様子から、明日のシールド戦突破の糸口が少しでも見えただろうか。
是非ともグランプリ本戦に相応しい、後悔のないシールドデッキを組んで欲しい。
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