【GP名古屋2016】レガシー選手権Winter Round1 大坪 俊宏(兵庫)対 青柳 元彦(神奈川)
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【GP名古屋2016】レガシー選手権Winter Round1 大坪 俊宏(兵庫)対 青柳 元彦(神奈川)
Text by 森安 元希 ヘッドジャッジ「レガシー選手権ウィンター、開催です」 曇天の名古屋より金城ふ頭。ホビーステーション協賛グランプリ・名古屋2016『レガシー選手権』の開始の汽笛がなる。 普段親しまれているマジックのフォーマットのなかでも最もプールの狭いリミテッドにて開催されているグランプリ・名古屋本戦に対し、ヴィンテージに次ぐ広さを持つレガシーは対極的だ。 そのプレイヤー層の幅広さと競技レベルの大会の少なさから過去、カジュアルなフォーマットとしての方向性も受け入れられてきたレガシーだが、昨年、明確に転換期を迎えていた。 国内初のレガシーグランプリであるグランプリ・京都2015の開催だ。2000に迫る参加者を数え、レガシーはスタンダードやリミテッド、あるいはモダンといったグランプリを行ってきたフォーマットたちと遜色ない性質のものへとなった。レガシーは競技ではないと揶揄するものは、もういない。 そして二年連続、日本にてレガシーグランプリは開催される。グランプリ・千葉2016(11月25日~27日)だ。今回のレガシー選手権参加者たちも、そこを今年の目標の一つに掲げている者が多いようだ。 名古屋の曇天を切り裂いて天空に轟くのは、稲妻の赤い光条か、怪物エルドラージの雄叫びか。はたまた伝説の剣のきらめきか。 参加者121名。スイスラウンド7回戦+シングルエリミネーション。東西南北のレガシープレイヤーたちが集う。 Round1 大坪 俊宏(兵庫)対 青柳 元彦(神奈川) 青柳 元彦。 「グランプリ・千葉に対して(Byeの為の)PWPを貯めに来た」と話す。 昨年末のラスト・サンでの八十岡翔太との熱戦も記憶に新しい、斉藤 伸夫らと共に晴れる屋で修練を積む関東レガシーきっての強豪だ。奇跡の使い手として、ここ数年で全国区的に名を馳せている。 関東のみならず国内の"奇跡"の代名詞が斉藤 伸夫と青柳 元彦の二人であることは間違いようがない。 競技としてのレガシーを取り巻く環境が変わったことを最も端的に示す、"レガシー専門を公言する競技プレイヤー"だ。 今日も信じたデッキを持ち込み、タイトルを狙う。 大坪 俊宏。 兵庫県から参戦した大坪。最近は京都でプレイすることもあるという。彼も普段レガシーを主にプレイしていると話し、名古屋まで遠征に来ている熱意の高さはマジックに対する思いの丈を示す。 今日を共にするデッキの正体は、不明だ。 Game 1 先手の大坪は《Under Groundsea》から《渦まく知識》。 続けて《思案》でトップを入れ替えてからのドロー。そのまま《沼》をセットし、《強迫》をプレイ。 この3枚のセットプレイが指し示すデッキの輪郭は、青黒ベースのコンボ・デッキだ。キーパーツを引き、カウンターを弾き、ワンショットで勝つ。 これらが青黒コンボのうち、《むかつき》からの《苦悶の触手》で勝つ"アド・ストーム"を高確率で指し示していることを勿論承知している青柳は、《強迫》に対応して《渦まく知識》を唱え、このマッチで重要なカードをデッキのトップ2枚に隠す。 ターンを貰い、トップに乗せていた《相殺》を設置する。そこから逆算して2枚目に乗せているのは―…最も汎用性の高い1マナのカードがセオリーだ。 大坪の《ギタクシアス派の調査》を当然のように《相殺》誘発によって打ち消した。公開は《師範の占い独楽》。 数ある1マナのなかでも特に強烈なカードだ。《強迫》の1枚から一連までを読み切り、この乗せ方に至っている。 そのまま《師範の占い独楽》も設置し、ゲームを終わらせうるロック・コンボが完成する。 青柳がここに《ヴェンディリオン三人衆》を重ねてクロックを形成しようとしたところで、これ以上の情報公開を嫌った大坪がゲームを畳む。 互いが次戦に備えて大幅なサイドボーディングを行う。 大坪 0-1 青柳 Game 2 大坪の第1ターン《強迫》からゲーム・オープン。 《精神を刻むもの、ジェイス》《相殺》《渦まく知識》《Force of Will》の四択からは唯一、直接的に大坪のアクションを止める手立てである《Force of Will》を抜く。 ここから互いにこのままドロー・ゴーの連続で土地を4枚まで並べ合う頃、青柳はマナを立てつつ《相殺》《師範の占い独楽》を完成させるが、「《相殺》の為に刷られた」とも噂される《突然の衰微》で、打ち消しに恐れることなく《相殺》を割る。 これで2つ、青柳が用意する防衛手段を蹴った。大坪の発射台(カタパルト)が整いつつある。 大坪の《ギタクシア派の調査》に、青柳は即座に《赤霊破》を合わせる。《突然の衰微》で《相殺》が割られることを前提とし、続くドロースペルを蹴る為に《赤霊破》のマナを立てていた。 青柳も先ほどの大坪同様、情報の公開を嫌った。特に受ける側である青柳は、大坪にハンドの動きを把握されて動かれてしまうと一気に不利となる。 そのターンのまま、大坪はセット・ランドからの《暗黒の儀式》2枚をプレイ。ラスト・ハンドにて《冥府の教示者》。 これを打ち消されれば立て直す時間が必要となってしまう大坪。是が非でも打ち消したい青柳。 しかし打ち消しのアクションはない。 《冥府の教示者》は解決され、大坪がライブラリーからカードを1枚探し出す。探すカードの性質を問わず、即座にハンドに加えられる。暴勇状態に限定されながらも、チューター・シリーズの頂点としての動きをしてみせる。 しかしカードを探し出す大坪の表情は、コンボを決めたものとしての顔としては明らかに暗かった。 実は展開しているマナソースとストーム、また殆どドローカードの溜まっていない墓地的に、コンボが無条件に決まっている訳ではなく、このターンに決める為には"《むかつき》ルート"でカードを引いていかないといけなかったのだ。 0マナから出せる《ペタル》のようなカードを含めて4マナを出せるようになるマナソースと、エンドカードに繋ぐストーム呪文《苦悶の触手》か《巣穴からの総出》をライフ17のなかから揃えなければならない。 カードを1枚めくるたび、青柳がメモを書く手を動かす。大坪がマナコストを持つカードを、引き続ける。 1枚、1点。1枚、1点。1枚、2点。1枚、1点―…ライフを失わせているカードのなかには、《渦まく知識》や《思案》など、確かに必要なカードも含まれている。 しかし他のめくれも、《突然の衰微》や《暗黒の儀式》あるいは土地といった、スタートのきっかけに出来ないものばかり。大坪の表情が明るくなることはない。 13枚をめくった頃には既に大坪のライフは4点にまで落ち込んでいた。 既に《苦悶の触手》も《巣穴からの総出》も直接めくってはいけないながらも、どこかでアクセスして辿り着かなければならないという難しい位置となっていた。 大坪のデッキをめくるスピードも、次第にゆるまっていく。14枚目、土地。15枚目―…《苦悶の触手》。 大坪 0-2 青柳 俗に言う"アド死"を迎えた大坪と青柳は2ゲーム合わせて10分を切るショート・ゲームに対して、感想戦を広げた。 特に対戦相手側の青柳視線からは、《相殺》の脅威は既に取り払われていることから、Game 2の《むかつき》はゲームを決める為に最大のドローをするのではなく、次に決める為の濃い7枚のハンドを形成する為に途中で止めた方が良かったのではないか。というものだ。 大坪もめくれたカードを思い浮かべながら、同意していく。しかし青柳は、コンボを決める為に動くパターンがミスとも言えないとも続ける。 フェッチ・ランドと《師範の占い独楽》の組み合わせによって確かに次のターン、青柳が引けるカードの選択肢はかなり広まっていた。それをどれだけ嫌うか、また自らのプレイングに理由をどれだけ持てるかが、背反する選択肢を選ぶ上で重要なのだろう。 《相殺》以降、続く妨害を殆どなにも引かず、一度はゲームの敗北を覚悟していた青柳。コンボを決めた筈の大坪がストレートに負けるという結果にこそなったが、その天秤は短いターンの間に何度もお互いを行き来していたことになる。 スーサイドな要素を持つワンショットキルを持つコンボのマッチは、使う側も使われる側も、この荒波のように揺れる天秤が今どちらに傾いているのかを冷静に見極める必要がある。 青柳の類まれなる見極めを行える視線は今、優勝までの道のりを、先ほどより一際大きく捉えていた。 青柳 元彦 Win! グランプリ・名古屋2016 サイドイベントカバレージページに戻る
Text by 森安 元希 ヘッドジャッジ「レガシー選手権ウィンター、開催です」 曇天の名古屋より金城ふ頭。ホビーステーション協賛グランプリ・名古屋2016『レガシー選手権』の開始の汽笛がなる。 普段親しまれているマジックのフォーマットのなかでも最もプールの狭いリミテッドにて開催されているグランプリ・名古屋本戦に対し、ヴィンテージに次ぐ広さを持つレガシーは対極的だ。 そのプレイヤー層の幅広さと競技レベルの大会の少なさから過去、カジュアルなフォーマットとしての方向性も受け入れられてきたレガシーだが、昨年、明確に転換期を迎えていた。 国内初のレガシーグランプリであるグランプリ・京都2015の開催だ。2000に迫る参加者を数え、レガシーはスタンダードやリミテッド、あるいはモダンといったグランプリを行ってきたフォーマットたちと遜色ない性質のものへとなった。レガシーは競技ではないと揶揄するものは、もういない。 そして二年連続、日本にてレガシーグランプリは開催される。グランプリ・千葉2016(11月25日~27日)だ。今回のレガシー選手権参加者たちも、そこを今年の目標の一つに掲げている者が多いようだ。 名古屋の曇天を切り裂いて天空に轟くのは、稲妻の赤い光条か、怪物エルドラージの雄叫びか。はたまた伝説の剣のきらめきか。 参加者121名。スイスラウンド7回戦+シングルエリミネーション。東西南北のレガシープレイヤーたちが集う。 Round1 大坪 俊宏(兵庫)対 青柳 元彦(神奈川) 青柳 元彦。 「グランプリ・千葉に対して(Byeの為の)PWPを貯めに来た」と話す。 昨年末のラスト・サンでの八十岡翔太との熱戦も記憶に新しい、斉藤 伸夫らと共に晴れる屋で修練を積む関東レガシーきっての強豪だ。奇跡の使い手として、ここ数年で全国区的に名を馳せている。 関東のみならず国内の"奇跡"の代名詞が斉藤 伸夫と青柳 元彦の二人であることは間違いようがない。 競技としてのレガシーを取り巻く環境が変わったことを最も端的に示す、"レガシー専門を公言する競技プレイヤー"だ。 今日も信じたデッキを持ち込み、タイトルを狙う。 大坪 俊宏。 兵庫県から参戦した大坪。最近は京都でプレイすることもあるという。彼も普段レガシーを主にプレイしていると話し、名古屋まで遠征に来ている熱意の高さはマジックに対する思いの丈を示す。 今日を共にするデッキの正体は、不明だ。 Game 1 先手の大坪は《Under Groundsea》から《渦まく知識》。 続けて《思案》でトップを入れ替えてからのドロー。そのまま《沼》をセットし、《強迫》をプレイ。 この3枚のセットプレイが指し示すデッキの輪郭は、青黒ベースのコンボ・デッキだ。キーパーツを引き、カウンターを弾き、ワンショットで勝つ。 これらが青黒コンボのうち、《むかつき》からの《苦悶の触手》で勝つ"アド・ストーム"を高確率で指し示していることを勿論承知している青柳は、《強迫》に対応して《渦まく知識》を唱え、このマッチで重要なカードをデッキのトップ2枚に隠す。 ターンを貰い、トップに乗せていた《相殺》を設置する。そこから逆算して2枚目に乗せているのは―…最も汎用性の高い1マナのカードがセオリーだ。 大坪の《ギタクシアス派の調査》を当然のように《相殺》誘発によって打ち消した。公開は《師範の占い独楽》。 数ある1マナのなかでも特に強烈なカードだ。《強迫》の1枚から一連までを読み切り、この乗せ方に至っている。 そのまま《師範の占い独楽》も設置し、ゲームを終わらせうるロック・コンボが完成する。 青柳がここに《ヴェンディリオン三人衆》を重ねてクロックを形成しようとしたところで、これ以上の情報公開を嫌った大坪がゲームを畳む。 互いが次戦に備えて大幅なサイドボーディングを行う。 大坪 0-1 青柳 Game 2 大坪の第1ターン《強迫》からゲーム・オープン。 《精神を刻むもの、ジェイス》《相殺》《渦まく知識》《Force of Will》の四択からは唯一、直接的に大坪のアクションを止める手立てである《Force of Will》を抜く。 ここから互いにこのままドロー・ゴーの連続で土地を4枚まで並べ合う頃、青柳はマナを立てつつ《相殺》《師範の占い独楽》を完成させるが、「《相殺》の為に刷られた」とも噂される《突然の衰微》で、打ち消しに恐れることなく《相殺》を割る。 これで2つ、青柳が用意する防衛手段を蹴った。大坪の発射台(カタパルト)が整いつつある。 大坪の《ギタクシア派の調査》に、青柳は即座に《赤霊破》を合わせる。《突然の衰微》で《相殺》が割られることを前提とし、続くドロースペルを蹴る為に《赤霊破》のマナを立てていた。 青柳も先ほどの大坪同様、情報の公開を嫌った。特に受ける側である青柳は、大坪にハンドの動きを把握されて動かれてしまうと一気に不利となる。 そのターンのまま、大坪はセット・ランドからの《暗黒の儀式》2枚をプレイ。ラスト・ハンドにて《冥府の教示者》。 これを打ち消されれば立て直す時間が必要となってしまう大坪。是が非でも打ち消したい青柳。 しかし打ち消しのアクションはない。 《冥府の教示者》は解決され、大坪がライブラリーからカードを1枚探し出す。探すカードの性質を問わず、即座にハンドに加えられる。暴勇状態に限定されながらも、チューター・シリーズの頂点としての動きをしてみせる。 しかしカードを探し出す大坪の表情は、コンボを決めたものとしての顔としては明らかに暗かった。 実は展開しているマナソースとストーム、また殆どドローカードの溜まっていない墓地的に、コンボが無条件に決まっている訳ではなく、このターンに決める為には"《むかつき》ルート"でカードを引いていかないといけなかったのだ。 0マナから出せる《ペタル》のようなカードを含めて4マナを出せるようになるマナソースと、エンドカードに繋ぐストーム呪文《苦悶の触手》か《巣穴からの総出》をライフ17のなかから揃えなければならない。 カードを1枚めくるたび、青柳がメモを書く手を動かす。大坪がマナコストを持つカードを、引き続ける。 1枚、1点。1枚、1点。1枚、2点。1枚、1点―…ライフを失わせているカードのなかには、《渦まく知識》や《思案》など、確かに必要なカードも含まれている。 しかし他のめくれも、《突然の衰微》や《暗黒の儀式》あるいは土地といった、スタートのきっかけに出来ないものばかり。大坪の表情が明るくなることはない。 13枚をめくった頃には既に大坪のライフは4点にまで落ち込んでいた。 既に《苦悶の触手》も《巣穴からの総出》も直接めくってはいけないながらも、どこかでアクセスして辿り着かなければならないという難しい位置となっていた。 大坪のデッキをめくるスピードも、次第にゆるまっていく。14枚目、土地。15枚目―…《苦悶の触手》。 大坪 0-2 青柳 俗に言う"アド死"を迎えた大坪と青柳は2ゲーム合わせて10分を切るショート・ゲームに対して、感想戦を広げた。 特に対戦相手側の青柳視線からは、《相殺》の脅威は既に取り払われていることから、Game 2の《むかつき》はゲームを決める為に最大のドローをするのではなく、次に決める為の濃い7枚のハンドを形成する為に途中で止めた方が良かったのではないか。というものだ。 大坪もめくれたカードを思い浮かべながら、同意していく。しかし青柳は、コンボを決める為に動くパターンがミスとも言えないとも続ける。 フェッチ・ランドと《師範の占い独楽》の組み合わせによって確かに次のターン、青柳が引けるカードの選択肢はかなり広まっていた。それをどれだけ嫌うか、また自らのプレイングに理由をどれだけ持てるかが、背反する選択肢を選ぶ上で重要なのだろう。 《相殺》以降、続く妨害を殆どなにも引かず、一度はゲームの敗北を覚悟していた青柳。コンボを決めた筈の大坪がストレートに負けるという結果にこそなったが、その天秤は短いターンの間に何度もお互いを行き来していたことになる。 スーサイドな要素を持つワンショットキルを持つコンボのマッチは、使う側も使われる側も、この荒波のように揺れる天秤が今どちらに傾いているのかを冷静に見極める必要がある。 青柳の類まれなる見極めを行える視線は今、優勝までの道のりを、先ほどより一際大きく捉えていた。 青柳 元彦 Win! グランプリ・名古屋2016 サイドイベントカバレージページに戻る