スタンダード、《ゴブリンの闇住まい》が変える!
タグ:ゲートウォッチの誓い, スタンダード, デッキ, 松本友樹text by 松本友樹
1.はじめに
こんにちは。
BIGMAGIC所属プロ、松本友樹です。
今回はBIGsやBIGMAGIC所属プロの皆さんとの共同企画として、『ゲートウォッチの誓い』カードがスタンダードのデッキにもたらす変化についての考察記事を書いていきます。
『ゲートウォッチの誓い』が発売する直前のスタンダードの環境、皆さんはご存知でしょうか?
『戦乱のゼンディカー』加入後のスタンダード環境の変化スピードはめまぐるしく、追い続けられなかった方もいたのではないでしょうか。
実は私もその一人なので、詳しく語るのは避けておきます(笑)
大雑把に、当時存在感を示していたデッキについて触れながら、スタンダード環境を予想してみましょう。
2.『ゲートウォッチの誓い』初期環境予想
1月23日、アメリカはアトランタでStarCityGamesOpenが開かれました。
優勝は「アタルカレッド」でしたが、トップ16を見ると「4色ラリー」が4人と大活躍でした。
環境初期は旧環境のデッキが勝ちやすく上位に入っているデッキがそのまま今後も活躍するとは限らないのですが、これだけの人数を上位に送り込んだ「4色ラリー」の活躍は間違いなさそうです。
このSCGの結果と合わせて、これからの環境を予想してみたいと思います。
まずは『ゲートウォッチの誓い』が加入する前、『戦乱のゼンディカー』の頃のおさらいです。
「ダークジェスカイ」
「アブザンアグロ」
「アタルカレッド」
「エスパードラゴン」
「《先祖の結集》デッキ」
「エスパーミッドレンジ」
「マルドゥミッドレンジ」
「エルドラージランプ」
ざっと挙げましたが、実に沢山のデッキがありますね。
中でもこの四つのデッキ
「ダークジェスカイ」
「アブザンアグロ」
「エスパードラゴン」
「アタルカレッド」
これらは環境初期から安定して成績を残していました。
その他のデッキは活躍したタイミングが遅かったり、逆に環境後期には活躍しなかったりとメタゲームにあわせて浮き沈みしていたように思います。
という事は(メタゲームの兼ね合いはあるにせよ)この4つのデッキの自力は他よりも高いと考えてよさそうだ、という事になりますね。
次は環境予想の為、それぞれのデッキにどのくらい新カードが使われるかを簡単に考えてみます。
・「ダークジェスカイ」 新カード:なし
ミシュラランドは有望ですが、現構成ではマナベースの都合上、枚数を積むのは厳しいものがあります。
選択肢にあがるカード、構成を変えうるカードはありますが、明確な強化に繋がるカードは殆ど無いのではないかと思います。
・「アブザンアグロ」 新カード:なし
こちらも「ジェスカイ」と似ていますね。
選択肢にあがるものは多々ありますが、明確な強化となるカードはありませんでした。
・「エスパードラゴン」 新カード:《闇の掌握》
こちらは明確に優秀な一枚です。
しかし、この黒黒と《シルムガルの嘲笑》の青青を両立するのは難しく、構成の変化や枚数を抑える等の対応が求められるかと思います。
・「アタルカレッド」 新カード:《無謀な奇襲隊》
《無謀な奇襲隊》はデッキにマッチしており優秀ですが、横並べ戦略が割を食っている現状ではあります。
環境後期はトークンを用いず上陸クリーチャーを採用したデッキが結果を残しており、大きな強化と言うには難しいかもしれません。
・「《先祖の結集」デッキ」 新カード:《頭蓋ふるい》《反射魔道士》
《頭蓋ふるい》は少々重く《集合する中隊》で持ってくることはできないものの、素直にコンボの威力を高めます。
《反射魔道士》は先のSCGで活躍しており、コンボまでの時間稼ぎや隙を見てのビートダウンを決めやすくしてくれます。
また、《永代巡礼者、アイリ》《変位エルドラージ》等デッキの長所を伸ばす方向・選択肢を増やす方向でマッチするカードが沢山あります。
すでにだいぶ完成しているデッキですが、今とは異なる形での発展も望めますね。
・「エスパーミッドレンジ(メンター)」 新カード:なし
選択肢に上がるカードはいくつかありそうですが、明確な強化と言えるカードは見つかりません。
・「エルドラージランプ」 新カード:《大いなる歪み、コジレック》《コジレックの帰還》
恐らく『ゲートウォッチの誓い』で最も強化されたアーキタイプでしょう。
他にも選択肢に挙げられるカードは沢山あり、活躍が期待できそうです。
非常に簡単なもので恐縮ですが、これで大体どのような変化が起きたのかの予想が出来ました。
続いて、それらがどの程度強そうかも予想しましょう。
ゲートウォッチは現在のスタンダードの延長線上にある
「ダークジェスカイ」
「アブザンアグロ」
「エスパードラゴン」
「アタルカレッド」
これらはそれほど強化されていませんが、元々強力なアーキタイプだけに今後も活躍しそうです。
「エルドラージランプ」
「《先祖の結集》デッキ」
この2つのデッキは明確に強化されました。
特に「エルドラージランプ」はデッキの短所を補い長所を伸ばすという理想の形での強化です。
《先祖の結集》は元々旧環境後期で猛威を振るったデッキであり、使われそうな新カードも多く伸び代は高そうです。
この2つのデッキを先ほどの4つよりも若干上位のデッキとして仮定しましょう。
「エスパーメンター」
明確な強化がなされなかったこのデッキ、仮定として上記6つの1つ下とします。
「その他」
SCGでは、ゲートウォッチのカードをたくさん使った新しいデッキがいくつも出来てきました。また上記にも書いていないものとして「白黒戦士」や「ティムール」等様々なデッキがありますが、活躍した期間が非常に短いという事で、今回はまとめて一番下に位置づけしておきます。
という事で大雑把な仮定に仮定を重ねたものですが、新メタゲーム予想図が出来ました。
Tire1:「エルドラージランプ」「《先祖の結集》デッキ」
Tire2:「ダークジェスカイ」「アブザンアグロ」「エスパードラゴン」「アタルカレッド」
Tire3:「エスパーメンター」
以下その他
ズバリ、こんな感じになると思います。
3.「マルドゥミッドレンジ」
ここまでは前置きです。
いよいよ本題に入ります。
全項であえて触れなかった、「マルドゥミッドレンジ」について。
~マルドゥのこれまで~
マルドゥ(赤黒白)には《包囲サイ》のように攻めと守りを同時にこなせるカードが存在しませんでした。
豊富な除去を持ち、《苦い真理》やプレインズウォーカーでアドバンテージを取る事にも長けているマルドゥでしたが、これが無い事が大きな弱点でした。
基本的に1ターンに1アクションしか出来ないミッドレンジにおいて、《包囲サイ》のようなカードは言うまでも無く強力です。
逆にそれが無い場合、3マナ+2マナで2アクションを取る、というような動作が必要不可欠でした。
例えば同じミッドレンジでも「エスパーメンター」であれば2マナの中でも最高のアクション、《ヴリンの神童、ジェイス》の存在が土台を支えていました。
「ダークジェスカイ」はそれに加え、3マナの中でも最高のアクションの《カマキリの乗り手》がいます。
対してマルドゥには有力な2マナ3マナのアクションも、攻守を同時に行える有力なカードもありません。
その為強いカードを沢山持ちながらも、環境の中に埋もれてしまったのです。
しかし、環境に埋もれたままであることをマルドゥがよしとしたわけではありません。
様々なプレイヤーが様々なアプローチで、このマルドゥを生かそうとしてきました。
例えば《搭載歩行機械》《ケラル砦の修道院長》《道の探求者》と豪華12枚の2マナ域が搭載された「マルドゥミッドレンジ」がありました。
私がGP神戸で使った「マルドゥグリーン」は、そのようなカードが無ければ外から持ってくれば良いと《包囲サイ》を採用した「マルドゥミッドレンジ」です。
《チャンドラの灯の目覚め》を使った「マルドゥイグニッション」も同じ考えで、前準備とリスクはあるものの、一手で攻守を逆転するカードです。
環境後期に広く使われたマルドゥといえば、《ケラル砦の修道院長》搭載が定番でした。
単体で2+αのアクションを起こしやすくしてくれるこのカードも、マルドゥの弱点を埋める役割を果たしています。
とはいえ、結局スタンダードの勝ち組にマルドゥというデッキが位置づけられる事はありませんでした。
上記の点だけが問題なのではありませんが、あらゆるアプローチでもその点が解消できなかったのは事実です。
しかし、これからはそうではありません。
「マルドゥミッドレンジ」にとって、最高の1枚が『ゲートウォッチの誓い』に収録されたのです。
・「マルドゥミッドレンジ」 新カード:《ゴブリンの闇住まい》
このカードはマルドゥにとってベストなカードです。
4/4というサイズは盤面を支えるに十分でありながら、"威迫"がついている事で攻め手として申し分ありません。
戦場に出たときに誘発する能力は、《マルドゥの魔除け》《コラガンの命令》《はじける破滅》と3マナのアクションにインスタント・ソーサリーしか持たなかった、しかしどれもが非常に優秀であったマルドゥにこれ以上ないほどマッチしています。
また、このカードの存在によって《破滅の道》なんかも選択肢に上がってくるかもしれません。
とにかく攻守を一手にこなせるこのカードは、マルドゥの5マナ最高のアクションになる事は間違いありません。
という事で新環境のマルドゥを作ってみました!
サンプルリスト 「マルドゥミッドレンジ」 松本友樹 |
25land 4《乱脈な気孔》 4《樹木茂る山麓》 4《汚染された三角州》 4《血染めのぬかるみ》 1《梢の眺望》 1《大草原の川》 2《燻る湿地》 2《平地》 1《沼》 2《山》 11creature 4《道の探究者》 3《魂火の大導師》 4《ゴブリンの闇住まい》 24spell 3《焦熱の衝動》 2《コラガンの命令》 3《マルドゥの魔除け》 4《はじける破滅》 2《残忍な切断》 3《苦い心理》 4《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 2《炎呼び、チャンドラ》 |
《ゴブリンの闇住まいが》入ったことでデッキが引き締まりました。
《炎呼び、チャンドラ》は除去コンであるマルドゥにおいては非常にマッチしたカードです。
この2種類のカードのおかげで、マルドゥは隆盛する事でしょう。
さぁ、このマルドゥでスタンダードを戦おう!
・・・・・・おや?
そういえば、先ほど仮想的な環境を作りましたね。
あれはたしか・・・
Tire1:「エルドラージランプ」「《先祖の結集》デッキ」
Tire2:「ダークジェスカイ」「アブザンアグロ」「エスパードラゴン」「アタルカレッド」
そうそう、こんな感じでした。
うーん、Tire2のデッキとは結構戦えそうですが、Tire1のデッキたちがちょっと・・・。
マルドゥは除去を大量にとっている構成上、除去が腐りやすいマッチアップは当然のように不利です。
除去が腐りやすいマッチアップといえば、一般的には対コントロールが挙げられるかと思います。
ところが、現スタンダードのコントロールは《龍王オジュタイ》や《ヴリンの神童、ジェイス》といったクリーチャーを多用する為、実はあんまり除去が腐って負けるという事は無いのです。
ただ、極一部のデッキにはあります。
それが、このTier1に分類している2つ。
『戦乱のゼンディカー』環境において、マルドゥが最も苦手としたデッキでした。
《ゴブリンの闇住まい》はその他の全てのデッキに対して強烈なカードですが、これら2つのデッキにはあまり有効ではありません。
《はじける破滅》は本当に強力なカードです。4/4威迫を出しながらそれを唱えるという動きはあまりに強烈で、そのアクション1回で大幅に有利に立てます。
しかし《はじける破滅》がまったく有効ではないのがこのマッチアップ。
「エルドラージランプ」相手ではコジレックやウギンの圧倒的な暴力の前に為すすべなく蹂躙されるでしょう。
「《先祖の結集》デッキ」相手では丁寧に除去したところで全てがひっくり返されます。
しかもこれ、メインボードでは構造上どうしようもありません。
その他のデッキ相手にはかなり良さそうですが、仮想敵トップ2に不利というのは・・・。
いやいや、マルドゥにはまだまだ様々な可能性が秘められています。
《ゴブリンの闇住まい》を生かすマルドゥの形は一つではありません。
例えばこれ。
サンプルリスト 「マルドゥミッドレンジ ver.2」 松本友樹 |
25land 2《乱脈な気孔》 2《鋭い突端》 4《樹木茂る山麓》 4《汚染された三角州》 4《血染めのぬかるみ》 1《梢の眺望》 1《大草原の川》 2《燻る湿地》 2《平地》 1《沼》 2《山》 12creature 4《道の探究者》 4《搭載歩行機械》 4《ゴブリンの闇住まい》 23spell 2《マルドゥの魔除け》 4《はじける破滅》 1《残忍な切断》 4《軍族童の突発》 4《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 4《真面目な訪問者、ソリン》 4《ギデオンの誓い》 |
《ギデオンの誓い》からソリンの+1して紋章!
-4で紋章を得てもまだ場に残っている《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》も強いですね。
《軍族童の突発》を使いまわし、5マナ7/7相当になる《ゴブリンの闇住まい》の姿も見ることが出来ます。
この展開力とシナジーを持つデッキなら、「エルドラージ」や「先祖の結集」を...
...
...超えられそうにはありません。
うーん、その他のデッキには相当強そうなんですけどね。
4.マルドゥの未来
「エルドラージ」と「先祖の結集」に勝てない。これはもう色的に仕方ありません。
「先祖の結集」と「エルドラージ」が活躍しない事を祈りましょう。
もしこれらが活躍してしまった場合、マルドゥは相当厳しい戦いを強いられます。
一応、対策はあるといえばあります。
まず《ゲトの裏切り者、カリタス》。
ミッドレンジ以上の速度をもつデッキ相手には非常に強烈です。
元々マルドゥはそこのデッキ相手には滅法強いので、それらに対して更なる耐性を得て、低速デッキに耐性を下げてしまうこのカードはあまり有用ではありません。
ただ《先祖の結集》を倒す為にあるような能力を持っていますので、「エルドラージランプ」がそこまで流行らずに結集が流行るようでしたらメインボードの搭載も考えられます。
それに加えて《神聖なる月光》もありますね。殆ど専用サイドになってしまいますし、ずっと構えているのも難しいのでクリティカルに決まる事はあんまりないのですが、決まれば勝ちです。
後は《強迫》《精神背信》ですね。
どちらも後半腐ってしまうリスクはありますが、単体で強いカードです。
《ゴブリンの闇住まい》で使いまわして強い場面も確実に存在しますし、特に《精神背信》は若干苦手なコントロールとランプに対して非常に有効です。
「アタルカレッド」や「先祖の結集」がメタゲーム上にいる場合は《強迫》を優先せざるを得ませんが、そこが手薄になれば《精神背信》をメインボードに入れる事で大きなリターンが得られそうです。
序盤の《精神背信》で爆発的植生等の4マナマナ加速を抜き、《ゴブリンの闇住まい》でもう一度唱えてのフィニッシャーを抜く動きが出来れば、いくら相性が悪いと言っても勝てそうです。
後は構成もいろいろ考えられます。
例えば《軍族の解体者》。
このカードは先祖の結集・エルドラージ双方にそれなりに強いカードです。
どちらも飛行を止める手段が薄い為、展開次第では1枚で勝つこともあります。
《搭載歩行機械》がいないとそこそこ程度のカードなので難しいのですが、ここを4枚使えばメインボードでも勝つ目を残すことができます。
マルドゥは色の組み合わせ上、どうしても苦手なアーキタイプというものが出来てしまいます。しかし、構成やサイドボードを工夫する事で乗り越えられなくはありません。
「マルドゥミッドレンジ」、「マルドゥトークン」、「マルドゥドラゴン」...
色々な方向を向いた優秀なカードが散りばめられている3色なので、様々な構成を試すことができます。
また有利なデッキにはとことん有利になりやすい色でもあるので、メタゲーム次第では圧倒的な力を発揮します。
今回新規加入した《ゴブリンの闇住まい》はマルドゥのパワーを大きく底上げしました。
これまで五分だったマッチアップは有利になり、微不利だったマッチアップも五分以上に引き上げてくれました。
未来予想は...ちょっと辛そうですが、新しいカードにより新しいアーキタイプも様々に出てくるはずです。
それらが「エルドラージ」と「先祖の結集」を駆逐する事を期待して、純粋に強くなったマルドゥを楽しみましょう!
5.最後に
新しいカードが加入した事で、これまで選択肢に上がらなかった様々なカードに脚光が当たります。
今シーズンのプロツアーはモダンという事もあり、しばらくの間スタンダードをプレイするプロプレイヤーはあまり多くありません。
そうすると早々にメタゲームが固まるのではなく、新しいデッキが出来ては環境が変わり、また出てきては環境が変わりを繰り返すことになります。
そういう時こそ、様々なカードを試す絶好の機会です。
今週のグランプリ名古屋では日曜日にスタンダードのイベント、スーパーサンデーシリーズがあります。
日本が誇るプロプレイヤー達はモダンで手一杯でスタンダードに手を出す暇がありません。
そんなプロたちが不在の今こそオリジナルなデッキが輝くチャンスです。
皆様、是非是非、これだと思うカードを使ってデッキを構築してみてください。
私も色々考えて楽しみます!
それではまた、次の記事でお会い出来ましたら幸いです。