市川ユウキのGP上海調整録

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text by Ichikawa Yuuki

0.冒頭

こんにちは、市川です。
今回は5/16-17にて開催されましたグランプリ・上海2015に出場して来ましたので、それの調整録を綴ろうと思います、よろしくお願いします。

 


1.環境の把握

■環境を定義するカード

・《龍王オジュタイ》
使用デッキ:エスパードラゴン、オジュタイバントなど。

カードパワーが環境でも群を抜いている。
対処出来ないと即負けてしまうカードで、これの為に展開を渋って除去を構えていると相手もアタックして来ず、相手の有利な盤面のままゲームが進んで行ってしまう。
《龍王オジュタイ》に対して殴っていけるクリーチャー群で構成するか、《龍王オジュタイ》を後腐れなく対処出来るスペルが必要。

・《棲み家の防御者》、《死霧の猛禽》
使用デッキ:オジュタイバント、緑白大変異など。

《棲み家の防御者》は汎用性が高いカードで、攻めるデッキ、受けるデッキ、どちらでも採用されている。カードアドバンテージそのもので、フリップアウトしてからのブロック制限能力もいぶし銀の強さ。

《死霧の猛禽》は《棲み家の防御者》のお供的なポジションではあるが、これが立っているだけで殴っていけなくなるようなデッキを使用することは躊躇われる。
セットでデッキに採用されている事が多く、3ターン目に変異で出て来たカードが《棲み家の防御者》か《死霧の猛禽》かは一見して分かり辛い。

どちらも除去に強く、盤面を除去でコントロールする事は困難。
《龍王オジュタイ》も含めて、ただの単体除去は相対的に弱くなってきている。

■環境を定義するカードをヘイトしているカード

・《忌呪の発動》、《はじける破滅》、《自傷疵》
《龍王オジュタイ》を最もスマートに処理出来るスペルはエディクト除去だ。
《忌呪の発動》、《はじける破滅》はインスタントタイミングで処理出来、採用枚数も増えて来ている。
《自傷疵》はアブザンアグロなどの緑系デッキにも有効なことから、黒が入っているデッキなら2~3枚とサイドの枠を取っていることが多い。ただ、これらは相手に選ばせる、エディクト系の除去であることから大変異デッキへの有効性には疑問を感じる。
《エルフの神秘家》などのマナクリーチャーを採用していることも多いし、手札に《棲み家の防御者》が控えているなら喜んで《死霧の猛禽》を生贄に捧げてくるだろう。《自傷疵》も裏向きで展開された《棲み家の防御者》に触れない為、サイドカードでありながら展開次第ではサイドインした相手に対して腐ってしまう。

これらはデッキを構築する上で意識はするが、裏目が大きく、採用に値しないと考えた。

・《先頭に立つもの、アナフェンザ》、《アブザンの魔除け》
一方、《棲み家の防御者》と《死霧の猛禽》の抜本的な対策は未だなされていない。
《先頭に立つもの、アナフェンザ》が相手の場にいる状態であれば《死霧の猛禽》が追放されるのは勿論だが、除去されたにしろ相手のクリーチャーと相打ちになったにしろ所詮1:1交換だ。《棲み家の防御者》に関してはより環境にマッチして来ている。
《英雄の破滅》などの単体除去が消耗戦に弱いことから、枚数を減らして来ているからだ。
《棲み家の防御者》は即フリップアウト出来る5マナがある状態でのキャストが望ましいが、3マナでタップアウトしながら出しても、上記の理由で除去され辛い。《棲み家の防御者》、《死霧の猛禽》を使わない手は無いだろう。

 
2.デッキ構築

■プレイテスト

緑白ベースの大変異デッキを幾つか回してみたが、相性の悪いマッチアップが存在した。
アブザンアグロだ。

 
大変異デッキは大量のクリーチャーでデッキを構成しているものが殆どだが、線が細く、アブザンアグロの展開に対して追いついていけない。

《アブザンの魔除け》と《先頭に立つもの、アナフェンザ》を擁している為、アブザンアグロは《死霧の猛禽》をそこまで苦にしないし、オジュタイバントなどは大量のエンチャントをデッキに投入している関係や、上記の通りアブザンアグロのクリーチャーの方がワンサイズ大きいので、《ドロモカの命令》を相手に持たれていると高確率でアドバンテージを失ってしまう。

 


アブザンアグロは環境でも上位のメタデッキで、これを乗り越えられないとグランプリでは勝ちきれないだろう。
従来の大変異デッキを使用するより、《棲み家の防御者》、《死霧の猛禽》パッケージを違うアーキタイプに組み込んだ方が賢明だと判断した。

■デッキ

使用したデッキは《棲み家の防御者》、《死霧の猛禽》パッケージを組み込んだアブザンコントロール。
アブザンコントロール
24land
4 《ラノワールの荒原/Llanowar Wastes》
4 《砂草原の城塞/Sandsteppe Citadel》
4 《疾病の神殿/Temple of Malady》
4 《吹きさらしの荒野/Windswept Heath》
3 《静寂の神殿/Temple of Silence》
2 《森/Forest》
2 《平地/Plains》
1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ/Urborg, Tomb of Yawgmoth》
22creature
4 《棲み家の防御者/Den Protector》
4 《サテュロスの道探し/Satyr Wayfinder》
4 《クルフィックスの狩猟者/Courser of Kruphix》
4 《死霧の猛禽/Deathmist Raptor》
4 《包囲サイ/Siege Rhino》
2 《黄金牙、タシグル/Tasigur, the Golden Fang》15spell
4 《思考囲い/Thoughtseize》
4 《アブザンの魔除け/Abzan Charm》
2 《英雄の破滅/Hero's Downfall》
2 《命運の核心/Crux of Fate》
3 《太陽の勇者、エルズペス/Elspeth, Sun's Champion》Sideboard
1 《強迫/Duress》
3 《アラシンの僧侶/Arashin Cleric》
3 《究極の価格/Ultimate Price》
2 《ドロモカの命令/Dromoka's Command》
3 《悲哀まみれ/Drown in Sorrow》
1 《真面目な訪問者、ソリン/Sorin, Solemn Visitor》
2 《世界を目覚めさせる者、ニッサ/Nissa, Worldwaker》
■各パーツの解説


《サテュロスの道探し》はこのデッキのエンジン部分。
2ターン目に《サテュロスの道探し》、3ターン目に《変異》と展開するのはこのデッキの理想的な展開だ。
対戦相手からするとそれが《死霧の猛禽》である可能性は否めないが、《棲み家の防御者》であったら一気に盤面が傾いてしまう為除去は必須、《サテュロスの道探し》で《死霧の猛禽》が墓地に落ちていたらそれはより顕著だろう、不自由な二択を迫ることが出来る。

その他、環境で流行っている《忌呪の発動》、《自傷疵》などのエディクト除去への耐性、赤単などへのブロッカー、《黄金牙、タシグル》用の探査を賄うなど、様々な役割をこのカードは持っている。
どんなマッチアップでも2ターン目に《サテュロスの道探し》から入りたい。

 


《太陽の勇者、エルズペス》はこの環境最強のフィニッシャーだ。
大変異デッキなど、地上で殴って来るデッキに強いのは勿論、エスパードラゴンなどのデッキにも《龍王オジュタイ》の対応となれる。
アブザンアグロなどにも勿論優秀で、これは環境に《英雄の破滅》が減ってきていることが追い風となっている。
『出したら勝ち』なマッチアップが多いのでマナコストは重いが3枚採用した。

 


これだけクリーチャーが居るのに、全体除去?
と思われるかも知れないが、このデッキに入っているクリーチャーはアドバンテージを取り得るカードか、リカバリーの効くカードが殆どだ。

唯一《包囲サイ》だけ《命運の核心》に巻き込みたくないのだが、地上で押し込んで来るデッキに《包囲サイ》は強固で、場に《包囲サイ》がいるのであれば《命運の核心》を打つ必要は無い。

《包囲サイ》を除去して殴って来ている時に《命運の核心》を打つことになるので、そこは矛盾では無いと思う。
アグロなデッキに強いのは勿論、《龍王オジュタイ》、《嵐の息吹のドラゴン》への回答ともなる。

 


デッキに殆ど2マナ以下のカードを入れていない関係上、どこかでテンポを巻返さないといけない。

 


そもそも何故2マナ以下のカードを殆ど入れていないかと言うと、《胆汁病》などの単体除去は前述した通りメインボードでは弱い環境だし、《森の女人像》もアブザンアグロのクリーチャー群や、大変異デッキの《死霧の猛禽》、《棲み家の防御者》などを考えると、ブロッカーとしての役割も薄い、出来れば2マナ以下のカードを入れない構築が理想だと考えた。

《思考囲い》は相手のテンポを奪うカードだ、例えばアブザンアグロなどはタップインランドが多く、《思考囲い》で序盤のクリーチャーを抜いてしまえば、1ターンをパスする形になり易い。

《黄金牙、タシグル》は逆にテンポを取るカードだ。《サテュロスの道探し》からの素早い展開が最も理想ではあるが、5ターン目くらいに除去や他のクリーチャーと一緒に1~2マナで展開して、テンポを巻返す動きも十分強い。

 


他の大変異デッキをプレイテストした感想として、どう構成しても《ドロモカの命令》からの被害は避けきれないと言う感想だった。
その為、《ドロモカの命令》をサイドに2枚採用。
通常のアブザンコントロールと比べて、クリーチャーを多めに入れている為《ドロモカの命令》は運用し易くなっている。

 


裏目の多い単体除去を減らして、《死霧の猛禽》を除去兼アタッカーとしている構築上、上からライフを詰めて来るマルドゥや赤緑ドラゴンなどのデッキに対して、耐性が下がってしまっている。

 

その為、サイドに《究極の価格》を多めに採用。
また、《真面目な訪問者、ソリン》は先行されているライフレースを巻返すカードで、返しに飛行クリーチャーで落とされたとしても、盤面だけで勝てるように出来る。
マイナス2の能力で、取りあえずのチャンプブロッカーを2回作れるのも悪くない。

■検討したが、採用されなかったカード 


アブザンコントロールの定番の2マナ域ではあるが、《サテュロスの道探し》を優先した。
エスパードラゴンには低マナの脅威とは成り得るが、メインボードで腐っている《胆汁病》の対象となってしまうし、大変異デッキの《死霧の猛禽》へのブロッカーとしても不適格だ。
アブザン同型でも《包囲サイ》、《黄金牙、タシグル》、《太陽の勇者、エルズペス》を前に止まってしまうし、安定したカードではあるが、効果的なマッチアップは無い。

 


アブザンコントロールにメインもしくはサイドに1枚程度採用されている《精霊龍、ウギン》ではあるが、今の環境では8マナのカードとしてのパワーを発揮出来ていないと判断。

 


大変異デッキは《見えざるものの熟達》、《囁きの森の精霊》などから《予示》クリーチャー(無色)を展開して来るので、盤面を制圧し切れない。
相手もわかっているプレイヤーなら、《死霧の猛禽》を《変異》で場に戻してくるだろうし、『出したら勝ち』は今の環境では通じない。

エスパーコントロールなどに対しても《龍王オジュタイ》に合わせるのであれば8マナは重く、現実的では無い。
《龍王シルムガル》で奪取されて自爆してしまったら目も当てられないだろう。

唯一アブザンコントロール同型では場に出た時のインパクトは前環境と変わらない強さではあるが、《包囲サイ》や《死霧の猛禽》を絡めてアグロに詰められるゲームパターンもあるし、《世界を目覚めさせる者、ニッサ》を先に展開されていると、《精霊龍、ウギン》を出しても手詰まりとなっていることもある。

カードの選択をする場合、そのカード単体での強さだけでなく、各マッチアップでのゲームプランに沿っているか、また相手の取って来るプランに噛み合ってしまってないかを検討するべきだ。

■デッキの長所

このデッキの強さは対戦相手のサイドボーディングのし辛さにある。

 


《異端の輝き》は《羊毛鬣のライオン》を採用していない関係上、《包囲サイ》と《太陽の勇者、エルズペス》しか対象が無く、それらをこちらが引いていないと相手の手札で腐ったまま殴りきってしまったりする。

《自傷疵》は《クルフィックスの狩猟者》と《包囲サイ》を除去する為にサイドインしてくるが、《サテュロスの道探し》、《死霧の猛禽》と、生贄に捧げても痛くないクリーチャーが低マナに存在する為、不要牌となる事が多い。

《強迫》は《太陽の勇者、エルズペス》や単体除去をディスカードさせることが出来るが、クリーチャーでのボードコントロールを目指すこのデッキに取って、意に介さない場合が多い。
《棲み家の防御者》を4枚採用しているので手札破壊自体に強いのもある。

その他《ドロモカの命令》や、《氷固め》など、『デッキの特定のカードに効くが、それ以外には効かない。』カードが環境に多く、サイド後も有利に戦える。
これはデッキを構成しているカードが、それぞれ対処法が異なること、こちらの《思考囲い》で効く場合は捨てる、効かない場合は残す、と言う風に手札破壊を絡めてイニシアチブを取りやすい事に起因している。

 


3.結果

■Day1

1R Bye
2R Bye
3R Bye
4R エスパードラゴン ×
5R エスパードラゴン ×○○
6R 赤単タッチ緑 ××
7R アブザンアグロ ○○
8R アブザンアグロ ×○○
9R オジュタイバント ××

初日は7勝2敗。
負けは赤単タッチ緑と、オジュタイバント。

赤単タッチ緑には3本目、《サテュロスの道探し》、《アラシンの僧侶》、《クルフィックスの狩猟者》、《包囲サイ》、《土地》、《土地》と、《大歓楽の幻霊》さえ出て来なければ勝てるハンドをキープしたら

 


相手の動きが《鋳造所通りの住人》、《大歓楽の幻霊》、《大歓楽の幻霊》と言霊となり敗北。

オジュタイバントには土地1ハンドが3回も来てしまい、殆どスペルを唱えることなく圧敗だった。

ただ、1日通してデッキとしての不満は全く無く、『2日目は勝てそう』と言う漠然とした感想を覚えながらこの日は就寝。


■Day2


10R アブザンアグロ ×
11R オジュタイバント ×○○
12R 緑白中隊 ○○
13R 緑白中隊 ○○
14R 緑赤信心 ×○○
15R ID

開幕から5連勝で、今期3度目のトップエイト!
2日目は当たり運が良く、《太陽の勇者、エルズペス》を出しただけで勝てる事が多かった。

14R目の3ゲーム目は盤面がかなり窮していたが、《棲み家の防御者》に《アブザンの魔除け》を3回唱えて9/8として2回のアタックで勝利した。
その前のターン、相手の《嵐の息吹のドラゴン》が怪物化していれば負け確定であったが、最後まで諦めない気持ちが大事。

■プレーオフ、まとめ

QF 赤緑ドラゴン ×○○
SF アブザンアグロ ×
F 赤緑ドラゴン ×○○

プレーオフを勝ちきり、初めてのグランプリ優勝!
全体的に相手のマリガンが多く、ツイていた。

私は他のプロプレイヤー、競技プレイヤーと比べるとキャリアが短く、経験も少ない。
ただ、これまでMTGに賭けて来た情熱、努力は人一倍だと自負している。

『優勝するまで長かった』と言うのは率直な感想だった、今回勝てたことは、本当に嬉しい。

グランプリ上海優勝によりプロポイントを8点獲得。
参加時点で33点所持していたので現在41点。
シーズン最後のプロツアーに参戦するだけで最低3点のプロポイントは保証されているので、来期のプラチナレベルまであと上乗せ2点まで来た。

直近のプロツアー、グランプリと負け続け、来期のプラチナは厳しいかと考えていたところだったので、この好機を何としても掴み、来期もプラチナレベルを獲得したい。

 


4.おまけ

■61枚
気付いていない読者の方は、私のデッキ、メインボードを良く数えて見て欲しい。
土地が24でクリーチャーが22で、スペルが15・・・。
そう、このデッキは60枚では無い、61枚なのだ!

これに関して、国内、国外を問わず様々なところで議論になっているようなので私の見解を述べたいと思う。

ズバリ、抜きたいカードが無かった。これである。

勿論全てのカードを疑い、検討した、だが全てのカードが必要だと判断した。
《思考囲い》は少ない低マナを埋めるカードだし、《太陽の勇者、エルズペス》は環境的に強く、必ず6ターン目に出したい、《黄金牙、タシグル》もテンポを取り返すカードだし、《クルフィックスの狩猟者》は除去されやすく、重複しても相手が1枚目を処理してくれることが多い、などなど。

また、このデッキ自体にキーカードが存在せず、特定のカードに頼った構築をしていない為、デッキが薄まる事によるデメリットも少ない。(事実《包囲サイ》や《太陽の勇者、エルズペス》などもサイド後減らすマッチアップが存在する)

また、最後まで《命運の核心》と《黄金牙、タシグル》の2枚目は減らす候補ではあったが、《サテュロスの道探し》と《棲み家の防御者》のパッケージが存在する関係上、デッキに1枚か2枚かという差は、ゲーム中に唱えられるかどうかに大きく影響すると考えた為、やはり抜けず。

61枚でMagic Onlineで30マッチ以上こなしたが、結局結論は出ず、私の中で"61枚目"は見つからなかったので、61枚で出場することとなった。
出場した後も未だ結論は出ず、61枚のままだ。

セオリーとは勝率を上げる為に存在している昔からの知恵のようなもので、検討した結果、セオリーに反する構築もある、と考える。

是非、皆さんにもこのデッキを試して見て欲しい。
そしてどれが"61枚目"なのか、考えるのも面白いだろう。

それではまた、次の機会に。

市川