text by 岩SHOW
レガシー。
青い、青いフォーマットである。
誰もが愛する《渦まく知識》。これを唱えたいがためにレガシーをプレイしていると豪語する者も少なからず。
このカードを4枚、最大限に使用し味わい尽くすことが出来るフォーマットこそ、レガシー。
レガシーで青を使わないのはハンデとまで言われる程だ。
青いカードは、マジック23年の歴史の中でドローもカウンターも、弱くなっていった。それはもう、明確に。
《時を越えた探索》《宝船の巡航》とおかしなことやっとる系のカードもあるにはあるが、ここ数年のセットでは青い非クリーチャー呪文はそのパワーを抑えられている(上記2枚がぶっ壊れすぎてその印象も薄れちゃったけどね)。
古き良き時代のカードが変わらずそこに居続けるレガシーに、見も心も青に染まったプレイヤーはとらわれ続けている、のかもしれない。
さて、2016年。新年一発目のレガシー・ビッグイベント。
年の頭のイベントとなると気持ちの入り方も変わってくるというもの。気合を入れたプレイヤー達が、決勝ラウンドへの切符をかけたバブルマッチに挑む。
そしてその戦いの席には、やはり青きカードを操る者達が着いていた。
彼らの名は・・・
Denis(ベルギー出身)
Brooks(アメリカ出身)
海の向こうにだって、レガシーのクレイジーな青い呪文に魅せられたプレイヤー達が勿論いるのだ。
マジックの故郷、アメリカではSCGが主催するレガシーのイベントが様々な州で毎週のように定期的に開催されており、ヨーロッパではBazzar of Moxenが年に1回ヨーロッパ中のエターナル環境愛好家が集う巨大なイベントを開催している。
レガシーの本場からやってきた彼らが、こうして好きなフォーマットを異国の地でも楽しみながらプレイできている事実は、主催者側としてもなんとも嬉しい限りだ。
2015年、2000名近くの参加人数を集めたグランプリ京都は、日本のレガシー熱が欧米のそれに負けずとも劣らぬものであることを証明した。第3のレガシー大国と言っても良いだろう。
上位陣は軒並みIDを行う様子で、この試合の勝者がTOP8に残れるか否かは文字通り「ワンチャンス」。
薄い望みではあるが、状況はどうであれ好きな青いカードを操れるレガシーの試合を行えることには変わりは無い。イザ、ショウブ。オネガイシマス。
Game.1
Brooks「ところで、何故僕らなんだい?」
何故なら、上記のように上位卓が試合を行わないから。それに、割と同じデッキを使う日本人同士のマッチアップより、海の向こうから来たあなた達の方が面白いデッキを使っていそうだから。そんなやりとりをしつつ、ゲーム開始の準備が整う。
(左:Brooks 右:Denis)
試合前に、まずは日本のカバレージでお馴染みの試合前握手の写真を。両名とも新鮮な体験だったようで、自然と笑顔に。
ダイスロールで勝利したDenisが先攻を選び、Denisが7枚・Brooksがワンマリガンで6枚の手札でゲーム開始。
Denis「Ancient Tomb,18,Chalice.」
レガシーらしいロケットスタートを披露するDenis。デッキの大半を1マナが占めることもあるレガシーにおいて、2マナ土地からの1ターン目《虚空の杯》X=1は勝負を決めるムーブである。
これに対してBrooksは《島》を置くのみでターンを返す
2ターン目、Denisは《汚染された三角州》を・Brooksは《平地》を置くのみ。
この時点で、Brooksのデッキは「奇跡コントロール」、Denisはレガシーに蔓延る青いデッキを狩る「MUD」のようなデッキか?と思われた。しかし、Denisの《汚染された三角州》が気になるところ。
などと考えていると、Denisの3ターン目には2枚目の三角州が設置される。
それらはすぐさま起動され、《Underground Sea》《Volcanic Island》が持ってこられ、唱えられたのは《ダク・フェイデン》!
これの+1能力を起動し、カードを2枚引き土地を2枚捨ててターンエンド。
このプレインズウォーカーが出てくるデッキ、ということは・・・。
対するBrooksも3ターン目、ついにファーストアクションを迎える。3マナで唱えられたのは《僧院の導師》。
続けざまに《ギタクシア派の調査》をライフ2点ペイで唱える。1マナの呪文なのでこれは《虚空の杯》で打ち消されてしまうが、《僧院の導師》の能力がモンク・トークンを生み出すことに成功。
これは、所謂○○メンター系のデッキの動き。このデッキも多くのカードのマナコストが1であるわけだが、それらが全て打ち消されてしまっても《僧院の導師》がいればトークンを生み出し、果敢を誘発し戦っていけるものである。珍しい海外出身者同士の対戦であるためフィーチャーマッチに選ばせてもらったが、これはなかなか面白いマッチアップの予感。
《僧院の導師》を用いた展開に対して、Denisの返答は《悪意の大梟》。
ドローを進めつつ、いやらしいブロッカーとしての役目をこなす機械の鳥。
このカードが出てきたことでDenisのデッキが判明。「グリクシス・テゼレット」だ。
青赤黒の、アーティファクトとプレインズウォーカーを中心としたデッキだ。
Brooksは相手のデッキを覆っていたヴェールがはがれたところで…《思案》をキャスト。先ほどのようにこの呪文自体は打ち消されるものの、トークン生産と果敢で打点アップ。とは言え《僧院の導師》を大梟に突っ込ませるほどのアグレッシブなプレイはせず、冷静にモンクをダクに向けて攻撃させ、忠誠値を減らす。
攻められ始めたDenis。迎えた5ターン目では《モックス・ダイアモンド》を唱えてアーティファクトカウントを増やしつつマナを伸ばして《ボーラスの工作員、テゼレット》。デッキ名にもなっている青黒のプレインズウォーカーを戦線に投下し、これの-1能力を用いて大梟を5/5の大大梟へと成長させる。さらにダクがドローを掘り進め、更なる攻め手を探しに行く。
この放置不可能なプレインズウォーカー達に対して、《Underground Sea》をセットしつつBrooksは一呼吸置き…
そして意を決したかのように全クリーチャーで攻撃。それぞれダクとテゼレットへと向かっていった導師とモンク達。導師は勿論のこと大梟にブロックされるが、脇を抜けたモンクを《渦まく知識》でパンプし、テゼレットを即時退場させることに成功する。
テゼレットにめちゃくちゃなアドバンテージを稼がれることは防げたが、失ったものもまた多い。
このBrooksの努力を踏み潰すべく、Denisはダクで引き込んだ《悪意の大梟》を2連打。
さらに《不毛の大地》で《Underground Sea》を割り、盤面の格差を拡げる。
Brooksはカードを引いた後、この5/5を先頭とした大梟集団に護られながら奥義を目指すお宝ハンターを前にして
「Next Game.」
と投了を宣言。
0-1
Game.2
試合中は《ダク・フェイデン》の着地に際して「僕のデッキには《師範の占い独楽》は入ってないよ」と笑っていたBrooksだが、サイドボード中は無言で、真剣そのもの。勝利したDenisにも安堵の表情などはなく、淡々とサイドイン/アウトの後にシャッフルと、静寂が続く。
「I play(先攻)」というBrooksの宣言によりその静けさは破られ、2ゲーム目が始まる。
うんうんとうなずきながら「Keep」と告げるBrooksに対して、Denisも「Same(同じく)」と7枚キープ
《Underground Sea》から《死儀礼のシャーマン》という理想的な1ターン目を終えたBrooksに対して、Denisも《古えの墳墓》→《虚空の杯》というベストムーブで返す。
「That's OK!」、そうくると思ってたさとBrooksはカウンターが無いことを宣言し自身の2ターン目を迎える。
そして、フェッチランドを切りつつそれを《死儀礼のシャーマン》の能力のコストとし3マナ捻出、《未練ある魂》を唱える。1マナ呪文が封じられようとも、「エスパーメンター」は死なない。この《未練ある魂》で展開されるクロックを用いた攻めは強力なものに見えた。
見えた、ということはそれが即座に過去のものとなったわけで。
DenisがBrooksのクロックを否定するのに用いたのは、思いもしなかった1枚。
《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》《モックス・ダイアモンド》と、2ターン目に揃えられた4マナから繰り出されたのは…
《The Abyss》。
恐るべき古えのエンチャントは、各プレイヤーのアップキープの開始時にそのプレイヤーがコントロールするアーティファクトでないクリーチャーを1体対象に取り破壊する。クリーチャーをじっくり確実に根絶やしにする極悪エンチャントである。このカードが飛び出すとは思わなかったが、よく考えればDenisのデッキが展開するアーティファクトクリーチャーにはその深遠の力を発揮しないため、投入されているのも納得の1枚である。
この予想外であろう1枚のテキストを確認するBrooksは、スピリットトークンを1枚破壊することを選択。
《The Abyss》の洗礼を浴びるが、ここで一矢報いる《突然の衰微》。
これで《モックス・ダイアモンド》を叩き割り、《未練ある魂》もフラッシュバック。
毎ターン1体ずつ削られるのであれば、それが間に合わない速度で展開すれば良い。
ダイアモンドを割ることで実質1:2交換を取りつつDenisの後続を足止めする作戦に出る。
ここで《虚空の杯》を割らなかったあたり、手札に1マナのカードはまったくないか、あるいは別の破壊手段があるのか。
Brooksは深遠の中、希望を見出さんと前に進んだが…Denisはその一筋の光を刈り取る。
《毒の濁流》でライフを2点支払い、戦場の全てのクリーチャーを流しさる。
盤面は更地になり、今後クリーチャーが戦場に出てもそれらが複数同時に並ばない限りはDenisを攻撃する前に破壊されてしまう。実質、完封である。これは…投了してもおかしくないレベルの、絶望的な状況だ。
それでもBrooksは諦めず、1ターンドローセットゴーを挟みつつ、《仕組まれた爆薬》をX=0で唱えて起動、杯を排除し、待ちに待った《渦まく知識》。レガシーの代名詞、実質3枚ドローの最強スペルにより反撃の狼煙を…
上げられない!
《概念泥棒》!
無慈悲ここに極まれり。Brooksが引くはずだった3枚の恩恵は、Denisがそっくりいただいた。
そして、Brooksは手札2枚をトップに戻すハメに。
大変なものを盗んでいくにも程がある。
泥棒本人は《The Abyss》で即退場というのも何とも泥棒らしく。
このアドバンテージ差がもたらすのは、即ち決着。
《飛行機械の鋳造所》と《弱者の剣》を同時に叩きつけるDenis。
2ターンで一気に9体の飛行機械が出荷され、Brooksにはもはやこれを食い止める術は無かった。
0-2 Denis Win!
試合後の、落ち着いた雰囲気でサイドインしたカードを明かしてゆくDenisと、「いい所なしでゴメンね」と言いながらデッキの底深くに《僧院の導師》が3枚連続で固まっているのを見てHAHAHAと笑うBrooksの図が、マジックって国際的なゲームでほんとうにいろんな人達が遊んでいるんだなぁと改めて実感させてくれた。
Brooksのデッキはアメリカのトッププロプレイヤーの一人Patrick Chapinの「エスパーメンター」をコピーして少々いじったもの。
対するDenisの「グリクシス・テゼレット」は《コラガンの命令》や《虚空の力線》《Helm of Obedience》コンボなども搭載した、非常にユニークなリスト。
方や、王道を行く軽量ドロー・ピッチスペルという青の強さを象徴する素早く鋭いカードで構成されたデッキ。
方や、それらは対極をなすプレインズウォーカーや独自の能力を有するクリーチャーやアーティファクトで構成された変幻自在なパワフルなデッキ。
形は大きく異なれど、レガシーで青が愛されている・それも愛の形は様々であるということを再確認出来た試合であった。結局のところこのマッチの勝者、DenisもTOP8には残れなかったが「明日も来るの?」という質問には2人とも「Yes!」と返答してくれた。こういうリアクションが見れるだけでも、グランプリはじめ大きなイベントを主催するのって良いなぁって思うわけですよ。
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