和田寛也の「構造と力」 ~『イニストラードを覆う影』環境でのデッキ構築~

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皆様はじめまして、BIGMAGIC所属プロの和田寛也です。
今回岩SHOWさんから「新環境スタンダードについて記事を書いて欲しい」との依頼を受け、記事を書く運びとなりました。拙文ではありますが、自分なりの考えを文章にしてみました。
少し長くなってしまいましたが、最後までお付き合いくださいませ。

さて、前振りはこれぐらいにして本題に入りましょう。

 

Ⅰ.SOI入り環境雑感

まずはじめに、私の『イニストラードを覆う影』(以下SOI)に対する見解をお伝えしたいと思います。

 

1.マナベースが弱体化

M10ランド(イニストランド)じゃないのか!笑新しく公開された土地サイクルのテキストを読んだ時そう思いました。
過去のイニストラードブロック+ラブニカへの回帰ブロックのスタンダードに存在していた「イニストランド+ギルラン」マナベースの再来を若干期待していたのですが、その期待はあっさり裏切られてしまいました。既に多くの考察がなされているとは思いますが、『タルキール覇王譚』が落ちたことによってマナベースは大幅に弱体化し、以前と同じ色マナカウントを再現することが不可能になったことは勿論のこと、3色以上のデッキを使用する場合、常に安定性とタップインのトレードオフがついてまわることとなります。前環境のマナベース観はさっさと捨て去ってしまうのが吉と言えるでしょう。あの頃は良かった・・・(しみじみ)。

踏み鳴らされる地断崖の避難所

ゆとりマナベース代表選手

 

燃えがらの林間地断崖の避難所

こんなマナベース、少し期待してました・・・

 

2.新メカニズムは取扱注意

これは特に「マッドネス」と「昂揚」に関して言えることなのですが、どちらもその能力を持ったカードそれ自身1枚だけでは完結しない能力です。マッドネスに関しては、所謂「共鳴者」という「カードを捨てるためのカード」が他に必要となります。昂揚も、ゲームがある程度進めば自然と達成するかもしれませんが、狙ったターン、例えば「4ターン目に昂揚を達成したい」という場合などは、墓地を肥やす為に専用のカードを使う必要が出てくるでしょう。
このような、カード1枚で完結しないメカニズムをデッキに取り入れることによって発生する、デッキ構築やサイドボーディングにおける「縛り」は決して無視できるものではありません。通常のデッキでは発生し得ない「マッドネス事故」「昂揚事故」といったリスクの評価を誤ることがないように気を付けたいものです。

容赦無い泥塊発生の器

【昂揚持ち】と【墓地肥やし】両方引かなきゃいけないのが(以下略)

 

ヴリンの神童、ジェイス癇しゃく

「片方だけサイドアウトするなんてとんでもない!!」

 

3.とはいえ一部のカードはやれる子

さて、新セットの評価に関してだいぶ辛口な内容が続いてしまいましたが、勿論見どころが無い訳ではありません。コラムやインタビューにて言及したカード以外にも注目カードは沢山あります!ざっと挙げていきますと

末永く歯と爪

《末永く/Ever After》

生物2枚コンボキメてくれと言ってるような一枚。平成の《歯と爪》といっても過言ではないでしょう。

 

ウルヴェンワルドのハイドラ原始のタイタン

《ウルヴェンワルドのハイドラ/Ulvenwald Hydra》

出ました、平成の《原始のタイタン》。《見捨てられた神々の神殿》を持ってくれば次のターンに《絶え間ない飢餓、ウラモグ》キャストも夢ではございません。

 

優雅な鷺、シガルダ曇り鏡のメロク

《優雅な鷺、シガルダ/Sigarda, Heron's Grace》

これはもはや平成の《曇り鏡のメロク》。タフネスが5であることに加えてエディクト系除去も躱せるので、思ったより生き残ってくれそうです。

 

ウルヴェンワルド横断緑の太陽の頂点

《ウルヴェンワルド横断/Traverse the Ulvenwald》

平成の《緑の太陽の頂点》の座を虎視眈々と狙っていること間違いなしの一枚、前環境から継続してメタに居座るであろうランプデッキは、比較的昂揚を達成し易いです。このカードによってランプデッキは新たなステージに到達する可能性すらあります。

 

4.《ヴリンの神童、ジェイス》について

最後にこのカードについて触れておく必要があるでしょう。新環境におけるこのカードの私の評価は前環境程の活躍は見込めないです。理由としてはフェッチランドを失ったことによる変身ターンの低速化です。
前環境では最速3ターン目に変身することもあったため、基本的に出たターンの返しに即対処することが求められました。これによって相手に対処を強要し、返しのターンで悠々と《苦い真理》をプレイ・・・というのが前環境においてコントロールデッキが持つ最も強いアクションの1つでした。しかしながら、フェッチランドのない新環境においてはそのような高速変身は望めません。2ターン目にジェイスをキャストした場合、《溺墓での天啓》のような、墓地にカードが落ちるアクションを挟まない限り、多くの場合において5ターン目以降に変身することとなります。前述にあるような「返しで即対処」を強いることができなくなった結果、前環境のジェイスが強みとしていた「序盤のゲーム展開を掌握する力」は大幅に削がれてしまったことは間違いないでしょう。
とはいえ、マイナス材料ばかりではありません。勿論「マッドネス」が加わったことによって発生した「共鳴者」としての価値は純粋にプラス評価となります。ひょっとしたら、「変身しないでいつまでも表面でいてくれる方がありがたい」なんてことになるかもしれません。
「イニストラードを覆う影」の力を得た《ヴリンの神童、ジェイス》がどれ程の活躍を見せてくれるかは私自身非常に楽しみなところではあります。

 

溺墓での天啓274_jpn (1)

もし使うなら練習が必要なカード、溺墓での天啓。

さて、少々脱線もありましたが、以上のような考えを踏まえた上で、新環境スタンダードを予測して行きたいと思います。

 

 

Ⅱ.SOI後スタン環境予測

1. 「仮想敵」

タイトルの通りですが、私が新環境スタンダードに臨むにあたって、まず仮想敵として挙げたいデッキタイプがあります。それは、「赤緑ランプ」デッキです。

 

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このデッキは

2ターン目 《死天狗茸の栽培者》or《面晶体の這行器》

死天狗茸の栽培者面晶体の這行器

 

3ターン目 《面晶体の記録庫》or《爆発的植生》or《ニッサの巡礼》

面晶体の記録庫爆発的植生

 

という動きをベースとしつつ、4ターン目に《炎呼び、チャンドラ》・《龍王アタルカ》・《世界を壊すもの》のいずれかをキャストすることを目的としたデッキです。このデッキは前環境から存在した上でローテーションの影響が比較的軽微であり、《精霊龍、ウギン》以外のほぼすべてのパーツを前環境から継承しています。このデッキの強みとして

① 《炎呼び、チャンドラ》《龍王アタルカ》がクリーチャーデッキ相手に、《世界を壊すもの》がコントロールデッキ相手に非常に強力であること。
② 同じ役割を持つカードが複数種類搭載されており安定性が高いこと。
③ カード1枚で2枚分の働きをするカードが多く、マリガンに強いこと。
が挙げられます。これらの理由により、新環境スタンダードにおいて存在感を発揮するデッキとなると予想しています。そう、前環境において「4Cラリー」という頭一つ抜けたパワーを持ったデッキによってスタンダード環境が定義付けられていたように、新環境においては、「赤緑ランプ」デッキが、スタンダード環境を定義付けるデッキとなるのではないでしょうか。

 

 

2.「対抗馬」

さて、次にこの「赤緑ランプ」に対抗できる戦略を考えていきたいと思います。
ぱっと考えて以下の3つの選択肢が浮かびます。

① 《龍王アタルカ》《炎呼び、チャンドラ》の上から殴り勝つ
前環境においては「アブザンアグロ」というデッキが実行していたプランです。チャンドラで流されないサイズと《龍王アタルカ》で排除しきれない展開力によってこれを実現していましたが、《包囲サイ》亡き今このプランを実行することは難しいかもしれません。「エルドラージアグロ」デッキもこのプランを狙うことになりますが、《幽霊火の刃》が抜けた穴をどのように埋めるかが課題となると感じています。

② 《世界を壊すもの》《絶え間ない飢餓、ウラモグ》をさらなるカードパワーによってねじ伏せる
墓地から際限なく戻ってくる《世界を壊すもの》と破壊不能を持つ《絶え間ない飢餓、ウラモグ》のキャスト時誘発する能力を捌き切ることは至難の業に見えますが、新たに登場した《罪人への強襲》をうまく扱うことができるコントロールデッキに、光明を見出すことができるかもしれません。

③ 妨害を挟みつつ、攻勢に転じ速やかに倒す。
ランプデッキの「マナ加速」を妨害しつつ、手札破壊&高クロックによって相手に時間を与えることなくゲームを終了させることができれば、それはランプデッキに対して有効なアプローチとなるのではないでしょうか。今回紹介したいデッキが採用した戦略がこれにあたります。

 

3.「解答案」

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このデッキは、上に記載した③の戦略を実際のデッキに落とし込んだものです。

8枚搭載された2マナ除去によってランプデッキの2マナ域での加速を確実に妨害しつつ、《精神背信》及び《難題の予見者》によって相手のビッグアクションを奪い、そうして作り上げた空白のターンを利用し《難題の予見者》&《現実を砕くもの》によって速やかに殴り倒すのが主なゲームプランとなります。対戦相手のカードを追放できるカードが合計で18枚程ありますので、《不毛の地の絞殺者》のマイナス修正能力も比較的安定して運用することが可能です。この《不毛の地の絞殺者》ですが、SOIで追加された除去カードの多くが追放系除去であることから、より活躍の幅が広がった1枚と言えるでしょう。サイドボードに関しては、最低限マナベースを考慮しつつ、クリーチャーデッキ、コントロールデッキをはじめとしてある程度幅広く対応できるように選びました。《静寂を担う者》に関しては《龍王オジュタイ》を意識したチョイスとなっています。

 

不毛の地の絞殺者

「本気だす時が来たようだな・・・」

 

 

4.最後に

さて、少々長くなってしまいましたが、この辺りで終わりたいと思います。わたしなりの環境予測と、それにアジャストさせたデッキを紹介させていただきました。この記事が掲載される頃には、ちょうど発売後最初の週末のトーナメントが開かれている頃だと思います。これからどのようなデッキ、カードが活躍するのか、今からとても楽しみですね。それではまた、どこかでお会いしましょう。