ワールド・マジック・カップ2016予選 大阪大会(WMCQ)決勝戦カバレージ 有田 賢人(東京) vs 小林 鉄郎(大阪)

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(※当カバレージはニコニコ生放送にてお届けしたWMCQ大阪の映像を後日見返しながらが綴ったものであり、現地で観戦しながら書かれたものではありません。)

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(左:小林 右:有田)

12時間45分。有田と小林が決勝に来るまでに戦ってきた時間である。半日以上にも及ぶ過酷なトーナメント、ワールド・マジック・カップ予選。2016年、日本におけるそれは前年までのものと様相を変えていた。2015~2016シーズンは日本のプレイヤーにとって飛躍の1年間であった。プロツアー史上初の日本人同士の決勝戦を皮切りに、3大会連続で日本人がTOP8入り。現在日本人プロポイント1位は八十岡翔太だが、8月にシーズン最後のプロツアーを残しており、誰がワールド・マジック・カップの日本代表のキャプテンを務めるのかが確定していない。例年ならば渡辺雄也がブッチギリの成績を残してキャプテン当確だったのだが、今年は彼も日本代表の座を争うために予選に参加していたりと、例年よりも熱気に溢れたトーナメントとなった。TOP8には玉田遼一、市川ユウキと日本を代表するプレイヤーが名を連ねたが、彼らも決勝ラウンドでは惜しくも敗れ去っていった。

そして残ったのが先述の二名。両名ともこの大一番を迎えて疲弊しきってはいるものの、その表情からはまだあと1マッチを戦い抜き、そして勝つという気力が感じられた。特に有田は、この会場にいた誰よりもその気持ちが強かった、かもしれない。



Game 1

先手は予選ラウンドをより上位で抜けた小林。《進化する未開地》を置いてターンエンド。これに対して有田は《平地》から《ドラゴンを狩る者》。1マナパワー2のこのクリーチャーで口火を切るこのデッキは「白単人間」。最近では《無謀な奇襲隊》と《鋭い突端》のために赤を足したものが主流になっており、有田のデッキもこの形である。


 

小林はこれに対して未開地からサーチしてきた《荒地》と《要塞化した村》から《搭載歩行機械》X=1で応える。小林のデッキは「緑白トークン」。環境の本命中の本命、プレインズウォーカーを軸とした太く安定した攻めを売りとしたデッキである。ただ、《平地》or《森》でなく《荒地》を持ってくるというのが珍しい。この小林のリストは、《難題の予見者》をメインに投入したもの。調整の結果生まれた意欲作だろうか。

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しかしながら、この予見者が有田の人間ウィニーに対して強力かと言うと、そうでもなさそうだ。有田は続く2ターン目で2枚目の《ドラゴンを狩る者》《アクロスの英雄、キテオン》と展開。この試合を見守っていた藤田剛史さん曰く「白ウィニーの1番強い動き、ワンワンワンやね」。1(ワン)マナクリーチャーを1・2ターン目で3体展開し、3ターン目にこれらを強化するエンチャント、所謂アンセム系のカードを置いて9点!という動きが白ウィニーの最も理想的な動きとのこと。


 

小林は《不屈の追跡者》を唱えてターン終了。本来ならば4ターン目に出してすぐ土地を置いて手がかりトークンを得る、という動きをしたいカードではあるが、しかしこの有田の展開の前では四の五の言っていられないし、除去も薄い色であるので生きてターンが帰ってくる確率の方が高い。

さて、有田の3ターン目。その手札にはまさしくアンセム系カード《永遠の見守り》の姿が。これを置いてドカーンと行くか?と思われたが...有田はここで悩む。何度も土地に手をかけ、熟考の末にたどり着いた答えは《石の宣告》を《搭載歩行機械》に唱えてこれを除去した後、キテオンに《グリフの加護》を貼りつけて飛行を与えて全クリーチャーで攻撃。これを小林はすべて受けて、残りライフは13。戦闘ダメージを与えた後、キテオンの能力が誘発。《歴戦の戦士、ギデオン》へと変身。+1能力を使って自身の《ドラゴンを狩る者》を1体アンタップして、破壊不能を持った鉄壁としてターンを返した。


 

有田は3ターン目にしてプレインズウォーカーまで戦場に用意する怒涛の攻勢。これに対して小林は、土地を置いて追跡者の能力を誘発させ手がかりトークンを増やし、それを生け贄に捧げて手札を増やしつつ追跡者のサイズも4/3に上昇させてエンド。何もなければ《ドラゴンを狩る者》達の攻撃を返り討ちにすることが出来る。


 

このままではアタックできない有田は、ならばと2枚目の《グリフの加護》を《ドラゴンを狩る者》へ。小林はそこにスタックで《ドロモカの命令》、モードは追跡者に+1/+1カウンターを置いて、これで狩る者と格闘。攻め手を失った有田は、残った狩る者にギデオンの+1能力を使用し、《探検隊の特使》を追加してターンエンド。ここで使用された《ドロモカの命令》をケアしての《永遠の見守り》温存だったのだろう。しかしこれを置くことも出来ず攻め手を1体失って、一度足踏みすることとなった。

歴戦の戦士、ギデオンゼンディカーの同盟者、ギデオン

小林は続くターンは《ニッサの誓い》から入る。ここで公開されたカードは《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》。「白緑トークン」を支える強烈なプレインズウォーカーを小林はそのまま唱えて2/2同盟者トークンを戦線に投下。戦場をより強固なものとした。これに対して有田が取ったアクションは《白蘭の騎士》。この騎士自身は戦場を突破する術とはならないが、その能力で4枚目の土地を獲得したことで《グリフの加護》の墓地から戻る能力を起動出来るようになったのは嬉しい。「白緑トークン」は飛行で攻略するのがセオリー、そこを目指すことが出来るか...とりあえずは《歴戦の戦士、ギデオン》で《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》に向かって攻撃し、これは同盟者トークンがチャンプブロック。


 

返しのターンの小林は同盟者トークンを出して追跡者でギデオンに攻撃するのみ。これに《探検隊の特使》をチャンプブロッカーとして差し出した有田。続くターンでは意を決して《永遠の見守り》を設置し、ギデオンもクリーチャー化させて総攻撃!...なのだが、これを小林が《ドロモカの命令》でモード:エンチャント生け贄&追跡者と《白蘭の騎士》格闘で捌いてみせると、有田はたまらず投了を宣言した。


 

有田0-1小林

 

この時、有田の脳裏には嫌な予感がよぎったという。有田は、これまでこのワールド・マジック・カップ予選に4年連続で参加し、そしていずれの年もTOP8に残っている。今回がその4度目に当たる。これまでは決勝ラウンド1&2回戦負けで終えており、本人曰くこの時は遂に3回戦で敗退、所謂「三没」する番が来たのか...と思ってしまったらしい。4年連続TOP8入りということでその実力は確かなものであることがわかるが、3年連続で悔しい思いをしてきたのも事実である。その思いが、プレイングに影響をもたらすか否か...。


 

Game 2

 

1ターン目キテオン、2ターン目《ドラゴンを狩る者》。2ゲーム目も有田のスタートは良いもので、対して小林はマリガンで手札が減ったのもあって2ターン目までは土地を置くのみ。これは好機、有田は3ターン目に《永遠の見守り》を唱えて一気に6点のダメージを叩き込む。文句のないムーブである。


 

停滞の罠

小林は《ニッサの誓い》から3枚目の土地《森》を見つけると即セットからの《搭載歩行機械》X=1。ターンが返ってくれば、優秀なブロッカーとして有田の人間たちの前に立ちはだかってくれるであろうクリーチャーだ。有田はこの返しで再度6点のダメージを与えて小林のライフを6まで追い詰める。そして3マナで...何をするか。何度かカードに手をかけては、それをこらえる仕草を繰り返す。最後に《停滞の罠》に手をかけ...そして何もせずにターンを返した。


 

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小林は《搭載歩行機械》が無事に生きてターンが返ってきたが、ここはメインで動かない。手には《ドロモカの命令》があり、これと《搭載歩行機械》の能力を併せて有田の繰り出す人間たちを捌こうとする構えでターンエンドだ。そうしてターンが返ってきた有田は、2体の人間で攻撃。これの1体を小林がブロックし、《搭載歩行機械》の+1/+1カウンターを得る能力使用し、そのまま《ドロモカの命令》を唱えたところで...有田は一度は唱えようとしてこらえた《停滞の罠》を投げつける。このカード1枚でプランを崩され、カードを2枚失った小林。残りライフは3点。有田は《探検隊の特使》も追加し、小林が除去やブロッカーを2枚唱えてもこれを受けきることは出来ない。投了、13時間の死闘が幕を下ろすのは3本目へともつれ込んだ。


 

有田1-1小林

 

4年連続TOP8の有田に比べて、小林のキャリアは短い。マジックを初めて1年未満だという。それでも、TOP8プロフィールからも大阪の強豪・藤村和晃と共にマジックをしていることがわかり、プロツアー予備予選(PPTQ)でも名古屋にまで遠征する「やる気勢」であるとのこと。最後の最後である3本目はこの小林が先手でゲームを始められる。《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》なんかはこの「白単人間」を相手にした時は後手ではなんとも頼りないが、先手ならばその強さを発揮するカードである。ただし、《進化する未開地》《要塞化した村》《梢の眺望》とタップイン土地もあり、それらでもたついている間に有田が1マナの人間達を展開し押し切るか...。


 

Game 3

 

1ターン目《ニッサの誓い》がゲーム開始を告げる。小林がこのカードから見つけ出したのは《梢の眺望》。有田は《ドラゴンを狩る者》でこれに応える。

続く2ターン目は小林が優秀な肉壁となる《ラムホルトの平和主義者》を展開。これを前に有田は攻撃こそ出来ないものの《探検隊の特使》を2体展開、ワンワンワン再びだ。これに対して小林も《森の代言者》と、2マナクリーチャーを展開、サイズの差でこれらを食い止めようとする。


 

有田の3ターン目は圧巻であった。2マナから《白蘭の騎士》。この騎士の能力が誘発して土地をサーチし、手札から出した土地と合わせて2マナで《サリアの副官》。人間達が皆パワー3になり、これらが2体小林の2マナクリーチャー達と相討ちになり、3点のライフを削る。戦場には人間が3体残ったままだ。


 

苦しい小林、再び《森の代言者》を出してターンエンド。緑白1マナずつ立てた状態だ。有田がここで想定しなければならないのは《ドロモカの命令》の存在。まずは《グリフの加護》を《ドラゴンを狩る者》を対象として唱え、エンチャントを1つ戦場に確保。その上で《永遠の見守り》を叩き付ける!先出しした《グリフの加護》があるお蔭で、《ドロモカの命令》を唱えられエンチャントの生け贄を強制されても、この全体強化エンチャントを保持することが出来る。《ドラゴンを狩る者》《白蘭の騎士》で攻撃して、小林がこれを受けて残りライフは8点。

永遠の見守り2大天使アヴァシン

追い詰められた小林だが、続く自身のターンは5マナ立ててエンド。これは...誰もが《大天使アヴァシン》を構えているなと考える局面である。有田もこれはわかっていたが、だからと言ってここで立ち止まるわけにもいかない。《アクロスの勇者、キテオン》を戦場に出して《サリアの副官》をサイズアップしたら、殴りに行けるクリーチャー3体でフルパンチ!この攻撃を予定調和の《大天使アヴァシン》で受ける小林。飛行を持った《ドラゴンを狩る者》は討ち取られ、白蘭の騎士はサイズで勝るので破壊不能の《森の代言者》にブロックされただけで戦場には留まる。《サリアの副官》が脇を抜けて3点のダメージを与え、残りライフは5点。有田は4マナ払って墓地に落ちた《グリフの加護》をキテオンに着けターンエンド。これで手札は0枚。


 

手札が尽きた有田に対して、小林はこの状況を打開する一手が欲しいところ。そこで取った手段が...6枚目の土地である《進化する未開地》を置き《森の代言者》が4/5になり、警戒持ちであるクリーチャー2体で攻撃。これは通って有田のライフをごっそり8点削ることに成功する。その後。未開地の能力を起動、コストでこれを生け贄に捧げ土地が5枚に減って代言者はサイズダウン。土地サーチ能力の解決前にこの代言者を《ドロモカの命令》で4/4の《白蘭の騎士》と格闘させつつ、エンチャントの生け贄を要求。これにより《グリフの加護》が墓地に行き、代言者が死亡する。

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自ら代言者を捨てに行ったのは、アヴァシンの変身条件を満たすためだ。《大天使アヴァシン》から《浄化の天使、アヴァシン》へと変身した天使は、戦場を焼き払い有田と彼のクリーチャーに3点のダメージを与える。これに対して《アクロスの英雄、キテオン》の破壊不能を得る能力を起動しようか、逡巡した後に有田はキテオンと副官を自身の墓地に置く。カードを引いた後、4マナで《グリフの加護》を《白蘭の騎士》につけて攻撃。パワー5先制攻撃のこのクリーチャー、止めなければライフが0になる小林は止む無くアヴァシンをチャンプブロックに回す。有田は《ドラゴンを狩る者》を戦線に追加し、エンドを宣言。


 

そして...小林の手には、この盤面を乗り切るカードはなく、また降って来ず。静かにカードを畳むのみだった。


 

有田2-1小林

 

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小林の投了を受けた有田は、喜びがほとばしるかのようなガッツポーズの後、長時間の戦いの疲れを吐き出すかのように大きくのけぞり、目を閉じて天を仰いだ。過去3度経験した敗北は決して無駄なものではなく、有田をこの日この時へと導いてくれたもの、だと思う。藤田さんも「展開をこらえて《停滞の罠》を構えたプレイングはしびれた」と評していたように、その実力を着実に高めてくれた、かけがえのない経験だったと言えよう。


 

4度目の正直、悲願達成。2016年、最初に日本代表の座を手にしたのは有田賢人!おめでとう!


 

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