藤本岳大のはまち式ID講座~確実に決勝ラウンドに行くために~
タグ:BIGs, ID, TOP8, はまち式ID講座, 決勝トーナメント, 藤本岳大, 読み物1. IDって何?
こんにちは、BIGsのはまちです。藤本と名乗ってもおそらく皆さんピンとこないので、こちらで挨拶させてもらいました。
GP東京が終わり、早くも1ヶ月が経ち、次の大きな大会はWMCQ大阪、GP台北、または7月末のBMOあたりですね。
ですが、普段マジックをしていると一番参加することになるのは、これらのような数百から数千人参加の大きい大会ではなく、店舗などで行われる数十人規模の大会ではないでしょうか。
数百人から数千人規模の大会で上位に入る事はとても難しいことですが、数十人規模の大会だと、調子がよければさくっと優勝する事だってあるでしょう。
単純計算でも1000人参加していれば優勝する確率は千分の一で0.1%しかありませんが、40人しか参加していなければ優勝する確率は2.5%もあります。なんと25倍。
最近の大会ではGPT、PPTQやBMIQなどのスイスラウンドX回戦を行った後に上位8人によるシングルエリミネーションにより優勝者を決める大会が身近に増えてきました。
マジックには勝利=3点 敗北=0点 引き分け=1点という勝ち点のルールがあります。
引き分けだと+1点でどちらのプレイヤーもTOP8に残ることが出来る位置にいるのに、負けたら0点でそのプレイヤーは落ちてしまう...
そういう時のためにプレイヤーは「ID」をすることができます。
IDとはIntentional Draw の略、つまり「合意の上での引き分け」です。
あくまで「合意の上」ですので、お互いの合意があればTOP8ラインでなく1回戦目からでも、また1本目をどちらかが先取している状況からでもIDを選択することができます。
また、万が一IDして8位と9位になり、IDを提案してきた相手だけTOP8に残るということになっても、あくまで「合意の上」とみなされますので「そっちだけ残るなんて!」と対戦相手に怒るのは筋違いです。たとえ、「絶対二人ともTOP8に残ります!」と強く言われていたとしても、そこでIDを了承することは自己責任です。
まぁ、そこまで悪質な方はなかなかいませんが...TOP8に残る可能性を少しでも上げるために、失敗しない「ID」を身に付けるのは必須だと思います。
自分はあまり強くないからIDできるラインまで勝つことがないし...
と思った方、それは違います。
40人の大会でTOP8に入るには8/40、つまり5人に一人、20%も可能性があります。
IDをすればTOP8に入れたのに、なんだかよくわからないから勝負して負けた。
賞品はTOP8までしか出ないし、あぁ、ご飯食べて帰ろう...
では、あまりにもったいない。
前置きが長くなりましたが、今回は時折話題になるIDについていろいろ書いていこうと思います。
それでは授業を始めます。大丈夫、IDは怖くない。
2. 順位表の見方
IDが「TOP8に入るための引き分け」だということはわかっていただけたと思います。
では、実際IDを考えるのは何回戦頃なのでしょう。
目安として、全勝をしていれば最終戦の2回戦前(全6回戦なら4-0ラインの5回戦目)、1敗ならスイス最終戦(6回戦なら4-1ラインの6回戦目)になります。
IDができるかどうかを確認するための必要な情報が揃っているのがスタンディングです。スタンディングを見なければ、自分がIDできるかどうかはわかりません。
スタンディングの例
スタンディングはジャッジによって掲示するタイミングが違うのですが、おおむねペアリングが出る寸前かラウンド開始後に数分間貼りだされます。
では、このスタンディングからは一体何を読み取ればいいのでしょうか?
まずは、ポイントです。それは誰でもわかりますよね。
次に隣のOMW%。なんとなく聞いた事のある、いわゆる「オポ」ってやつです。今までこの大会中にどれぐらい強い相手と対戦してきたのかをあらわしています。今まで対戦した相手の成績が良いものだと、必然的にオポが高くなります。逆に対戦相手が負けまくっているとオポが低くなるわけですね。
基本的にはポイントとこのオポの高さで順位が決まるのですが、ごく稀に、オポが全く同じになることがあります。この時はその右のGW%を見ます。ゲーム・ウィン・パーセンテージと言って、いかにゲームを落とさずにマッチを勝ってきたかをあらわしています。全てのマッチを2-0で勝ち全勝すると、GWは100になります。さらにさらにごくごく稀にGWまでも同じ場合、OGW%を参照します。今までの対戦相手のGWですね。まぁ、この値はまず見る事は無いと思います。こればっかりは自分だけの力ではどうすることもできないので、気にしても仕方がない部分ですね。
詳しいマジックの順位の決め方、オポの計算方法についてはこちらを参考に。
http://mtg-jp.com/reading/wpn/003348/
で、スタンディングを見てどこがトップ8ラインになるのか。
その見方を説明します。
例 スイスラウンド6回戦の大会の4回戦終了時点のスタンディングです。
なにやら1敗ラインが16人もいますが、この場合の上位4人はIDできるのか。
トップ8を狙える位置に20人もいれば、IDなんてしている場合ではないのでは...
答えは、「できる」です。
なぜならば、上位4人がIDした場合、時間切れでの引き分けがでないと仮定して1敗ラインが16人いるので、このラウンド終了時に1敗ラインの人は8人。次のラウンド終了時に4人。ちょうど8人ですね。5-1が4人、4-0-2が4人のトップ8になることがこのラウンドで想像できます。つまりこの時点で2-2以下の成績の人はトップ8の目がなく、1敗の人もこのラウンドに負けて2敗になればトップ8の可能性がなくなることがわかります。
では、これを踏まえて5回戦のスタンディングを見てみましょう。
はい、上位4人はIDを選択していたので、このラウンドも無事にIDで5-8位ですね。
スイスラウンド最終戦は基本的にスタンディングの上から順番にマッチングされていくことを覚えておきましょう。(1位VS 2位, 3位VS 4位...) ただし、一度対戦した相手と対戦することは無いので微妙にずれる時があります。
少し発展形として、上位8名のシングルエリミネーションではスイスラウンドの上位の人が先手後手を決める権利があります。
一般的に1-8, 4-5と2-7,3-6の組み合わせになるため1位抜けの人は2位や3位の人とは決勝まで当たらない仕組みになっております。(トップ8ドラフトを行う場合、座席がランダムになりこの組み合わせにならない場合があります)
この場合IDしても5位から8位なので、7位8位の人はIDをせず対戦をすれば、12点同士が片方おちるIDをしない限り、勝てば1位負ければ8位なので対戦する方がお得な感じがしますね。ただ実際問題マジックを複数回戦するとかなり疲れるので、休憩をとるためにIDするという選択肢も、もちろんありです。
3. IDするか否か
では、次にこちら
スイス最終戦であなたの順位は6位です。IDしますか?
おそらく多くの方が「できない、しない」と答えると思います。
なぜなら、ここでIDしてしまうと11位(12pt) 対12位(9pt)の試合で11位の人が勝ってしまうと1-3位が15点、4-7位が14点、8位と9位が自分と対戦相手の13点。
つまりどちらかが落ちてしまいます。
ここでオポを見るのですが、対戦相手とのオポ差が13.4パーセントとほぼ絶望的です。
つまり、自分が落ちてしまうわけですね。
これまでの対戦相手がこの回戦で勝つか負けるかはただの運なので(例えば今までの相手が全員ドロップしていると、間違いなく下がります)、基本的にオポは逆転しないと思っておいた方がよいでしょう。実際には回戦数が少ないとオポは結構変動するので3パーセントくらいは逆転するときも多いのですが、油断は禁物です。
10パーセント以上の逆転は、皆無だと思っておいても大丈夫です。
「場合によってはIDする」と思った方もおられると思います。
IDしてもトップ8に残る可能性は0ではありません。12点の中ではオポが高いので、他の同点卓のどこかが一つでも引き分ければ8位での入賞が可能になります。
また、11位(12pt) 対12位(9pt)の試合で12位の人が勝てば、13点以上は8人になるので、同様に8位になることができます。
ですが、マジックは適切な時間でプレイしていれば引き分けになることはほぼ0パーセントですし、12位の人が勝つ確率もだいたい5割くらいなので、それなら自分で勝利するという5割を選択した方が良いと思います。
...では、例えばフォーマットはモダンで、あなたのデッキが「バーン」で対戦相手のデッキは「ソウルシスターズ」だということをたまたま知っていて、相手にはおそらくこちらのデッキを悟られていません。相性は最悪。サイドボードも特に相性差を覆せるカードもなく、絶望的です。対戦すれば8-9割負けます。あなたはIDを提案しますか?
この場合ですと、賛否両論あると思いますが、僕はIDを提案します。このオポ差ですと対戦相手はまず9位になることは無いので、対戦相手が落ちる可能性はほとんど無いというのをきちんと説明すればIDを受けてくれると思いますし、これだけデッキの相性差があるなら、自分の勝利よりも12位の人が勝つ方が期待できるからです。もちろん当たった時点で諦めているので、残ればラッキーくらいに考えてのIDです。
12位の人が11位の人にトスする可能性も0ではないので、それならこの相性差で闘って勝ちをもぎとるというのも理解できます。こればかりは、自分が納得できる方を選択すればよいと思います。
いかがでしたか。
なお、この記事はあくまで「トップ8に残るためのIDの方法」について説明しているため、先手を取るためにガチった方が良い場合については考慮しておりません。
先手が欲しいか、とりあえずなんとかトップ8に入るのか。ここ数年、いまだにどちらが正しいのかという議論に決着が付いていないので...各々自分の目標をしっかり設定して、悔いのない選択をしましょう。
それでは、皆さまが勝負所でIDを失敗することなくスイスラウンドを無事終了することが出来るのを祈っております。
この記事を、IDミスしまくっていた皆に捧ぐ。
はまち
参考文献
http://www.hareruyamtg.com/article/category/detail/746
津村健志 大会で損しないための正しいIDのやり方